スマホの普及や都内の地下鉄での“圏外解消”の影響もあってか、最近の電車内ではケータイを使う人はさらに増加。「優先席付近ではケータイ電源オフ」というマナーは変わらず呼びかけられているが、無視をする人も増えている印象で、それに対して「優先席付近なので電源を切ってください!」と怒る人もチラホラ。


その一方で、「movaなどの第2世代サービスが終了した今、ペースメーカーに影響の出るケータイはないはず」という声もあり、この車内マナーの是非があらためて問われているようだ。

その実情について、ケータイなどの電波がペースメーカーに与える影響を調査し、指針を発表している総務省に話を聞いた。

「総務省では『携帯電話端末を植込み型医療機器の装着部位から22cm以上離すこと』という指針を打ち出していましたが、その離隔距離は、第2世代携帯電話の一部で影響が出た距離から、安全マージンをとって設定したもの。なお、その第2世代携帯電話の昨年7月の停波を受け、第3世代以降の携帯電話で新たに行なった調査では、影響が出た距離は最長3cmという結果が得られました」(総務省総合通信基盤局の担当者)

3cm以上離せばOKなら、優先席で使ってもなんら問題はなさそうな気もするが、この調査結果を受けて今年1月24日に改正された指針の離隔距離は15cm。しかし、電車内でのマナーの呼びかけは変わっていない。これはなぜ?

「離隔距離に関しては、植込み型医療機器の電磁波の耐性試験に関する国際規格が、『携帯電話相当の電波を15cmの離隔距離で受けても動作に異常をきたさないこと』と定められているので、その指針との整合性をとっています。
また『15cm以上離す』というのはあくまで指針で、法令ではなく指導なども行なっておりませんので、電車内での利用マナー等は各鉄道事業者が決定をしています」(総務省の担当者)


うーむ、ややこしい。そこで優先席付近での使用マナーの決定背景について、今年3月にケータイの電波がほぼ全区間で入るようになった東京メトロに聞いた。

「東京メトロも賛同する『優先席付近では電源をオフに』という車内マナーは、関東の17の鉄道事業者が2003年に統一して取り決めたもの。それ以前のメトロでは『混雑時は携帯電話の電源を切る』というマナーを呼びかけておりましたが、“混雑時”の明確な定義や判断が難しく、利用者からの苦情も多く運用が難しかった。そこでペースメーカーを使われる方の安全も考え、優先席というゾーンで区切る方式が採用されました。総務省の指針変更を受けて、見直しを検討する可能性はありますが、各社共通のルールのため、変更がある場合は足並みをそろえて……という形になると思います」(東京メトロ広報部)

では、現状のケータイの車内マナーについて、ペースメーカーを使う人はどう感じているのだろう。
「日本心臓ペースメーカー友の会」副会長の日高進氏に聞いた。

「movaの携帯電話の場合は、一部の古いペースメーカーで一時的にペーシングが乱れる恐れがありましたが、現状の携帯電話に関しては、『指針は守るべきだが、あまり神経質にはならなくていい』と会員に話しています。ただ、古いペースメーカーを使う人や、補聴器等の利用者でも電波を気にする人はいるので、優先席付近では電源を切るという車内マナーの向上については応援をしています」

なお、過去にケータイの電波で一時的にペーシングが乱れ、体調不良を訴えた人はいるものの、人が倒れたといった報告や「事故」といえるものはゼロ。3cm以上離せば安全なら、やはり以前のように混雑時のマナーを徹底したほうがスッキリしそうな気もするが、このように事情も入り組んでいるため、変更はまだ先の話かも。

(取材・文/古澤誠一郞)

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