創業者と経営者の対立はお家騒動の定番だが、今年は社外取締役が一枚噛んだりして、より複雑になっている。名付けて「企業統治型お家騒動」。

料理情報サイト運営のクックパッドは、その典型である。

 クックパッドは、企業統治の模範生といわれた時期があった。創業者の佐野陽光氏は2007年に会社法に基づく指名委員会等設置会社に移行した。社外取締役が過半数を占める指名委員会が決めた人事案は、法的拘束力がある。たとえ社長でも、指名委員会が取締役解任を決定すれば、株主総会の決議を経た後に解任される。いわば、社外取締役に経営者の首を切る権限を与えたわけだ。


 ところが、指名委員会を設置した本人が、同委員会を軽んじるような行動に出た。

 佐野氏は外部から社長に招聘した穐田誉輝氏に経営を委ねたが、経営方針をめぐって両者が対立。佐野氏は2015年11月、自身の社長復帰を取締役会に提案したが、指名委員会は同年12月、佐野氏の提案を却下した。

 これに対して発行済み株式の43.5%を保有する佐野氏は今年1月、自分を除いた全取締役を刷新する株主提案をすると表明し、お家騒動が火を噴いた。その後、2月に佐野氏と会社側の妥協が成立し、佐野氏が推す新しい社外取締役の選任案で一本化した。

 3月の株主総会で、この人事案が可決されたことで事態は沈静化するかに思われた。
ところが、総会後の取締役会で社長追い落としの解任劇が強行された。続投すると見られていた穐田氏が社長を解任され、コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー出身で取締役に選任されたばかりの岩田林平氏が新しい社長に就いた。

 佐野氏は、自分が策定した人事案にノーを突きつけた社外取締役たちを一掃、自分の考えに近い社外取締役を動員して穐田氏を退任に追い込んだ。創業者のゴリ押しによって、模範的といわれたクックパッドのコーポレートガバナンスは絵に描いた餅でしかなかったことが白日の下にさらされた。

●前社長は保有株を売却

 お家騒動の後遺症は大きかった。クックパッドの株価は3日連続で続落。
8月30日、一時951円まで下落し、年初来の安値を更新した。クックパッドは8月25日、穐田氏が保有株を大量に売却すると発表。これが個人投資家の嫌気売りを誘った。その後、9月21日に942円まで下げ、さらに安値を更新した。

 料理レシピ情報サイトが大当たりして、ネットベンチャーの勝ち組ともてはやされていた当時、クックパッドの株価は2880円(15年8月17日)と上場以来の最高値をつけた。ところが、お家騒動が祟り株価は3分の1以下に下落したことになる。


 持株を売却した穐田氏の議決権比率は14.73%から2.40%に急低下。主要株主でなくなる。保有株をすべて売却して辞任するのではないかと見られている。

 売却した株のうち9.33%分をクレディ・スイス証券が、3%分は凸版印刷が取得した。凸版印刷は、電子チラシの配信サービスでGunosyやカカクコムと連携している。クックパッドにも連携を働きかけるとみられる。


 株価は底値圏のままだったが、さらに9月27日には前日比28円安の969円まで売られた。子会社の売却が明らかになったことで、成長性に対する不透明感が増し、失望売りにつながったようだ。

 医家向け情報サイトを運営するメドピアが9月26日、クックパッド傘下のクックパッドダイエットラボ(CPD)を2億円で買収すると発表したことが影響を与えた。CPDは「正しく食べて痩せる」ダイエットを栄養管理士が指導していた。

 クックパッドは佐野氏の意向で、料理関連事業への集中を目指しており、CPDの売却はその一環とみられる。

 お家騒動の大激震に見舞われたクックパッドだが、16年12月期第2四半期累計(1~6月)の連結決算の売上高は、前年同期比44%増の89億円、営業利益は58%増の41億円、純利益は25%増の22億円だった。
ただ、4~6月期については成長の鈍化が目立ち、アナリストの投資評価の引き下げが相次いでいる。

 業態は有料会員事業と広告事業の2本立て。1~6月の会員数は185万人で前年同期より12%増えた。

 しかし、現経営陣と現場の社員との亀裂は深まったままだ。新体制に反発した幹部社員が次々と退職しているという。クックパッドの混乱は収まる気配がない。株式市場も佐野氏の経営手腕には懐疑的だ。今後は9月21日につけた942円を下回るかどうかが焦点となる。

 市場関係者はこう指摘する。

「クックパッドの有料会員(月額280円/税抜)は同社公表数値で約180万人おり、単純に計算すると、それだけで月間約5億円の収入がある。そして主力コンテンツであるレシピは、一般の利用者が日々大量に投稿してくれるという“オイシイ”ビジネスモデルを確立しています。株価が現在のレベルで下げ止まっているのは、この優れたモデルが一定の評価を得ているためだといえるでしょう。しかし今回、一連のゴタゴタにより企業統治面における脆さが露呈し、現在も社内の混乱が続いています。経営安定に向けた強いサインが見えてこない限り、株価浮上は難しいでしょう」

 ガバナンスを反古にした佐野氏は高い代償を払うことになりそうだ。
(文=編集部)