座っただけで1人数万円、上場企業のトップや政治家、芸能界関係者たちの社交場……各界の文字通り一流の人々が交流を深めるのが、東京・銀座の高級クラブという場所だ。バブル全盛期(1980年代後半~90年代初頭)には銀座だけで約3000軒もの店が軒を連ねていたといわれるが、バブル崩壊やリーマンショック、東日本大震災などを経て、その数が激減し、クラブ業界が厳しい環境を強いられている。


 そんな中、銀座で30年以上の歴史を持ち、今なお連日、常連客で賑わいをみせているのが「クラブ由美」だ。今回は同店オーナーママで、4月に『スイスイ出世する人、デキるのに不遇な人』(ワニブックス)を上梓した伊藤由美氏に、

「銀座の高級クラブという世界の裏側と、経済環境」
「30年以上も数多くの常連客に愛され、人気を保ち続ける秘訣」
「出世する人の共通点、出世できない人の共通点」

などについて聞いた。

--こちらのような高級クラブには行ったことがない、という人がほとんどだと思いますが、一言で言うとどういう場所なのでしょうか?

伊藤由美氏(以下、伊藤) 銀座のクラブにはお店ごとにカラーがありますが、共通しているのは「社交場」だという点です。お客様は通うことで常連さんになり、お店からも大事にされて、そうやって初めて他のお客様との人脈や人間関係ができていきます。「サロン」に近いものがあると思います。

--お客様には、どういう方が多いのでしょうか?

伊藤 単純に「銀座のクラブに行きたいという取引先がいるので、お連れするから接待を頼みたい」というように、ビジネスの目的で使う方もいらっしゃいます。

そのような目的で大事な方をご招待する場合、知らない店には行かないじゃないですか。いい顔をするためには、ある程度そのお店にも貢献していないと、格好をつけられないですよね。接待するなら気の置けない店で意思の疎通ができていて、なおかつそのお客様を大切にしてくれるお店を選ばれると思います。ですので、銀座のクラブというのは単に女性との出会いを求める場所ではないということです。

 一方、キャバクラは女性との出会いの場とされ、若い女性との会話を楽しみ、はしゃいだりしてストレスを解消するという、お遊び的な面が強いのではないでしょうか。当店のような老舗の銀座のクラブは、仕事の場として使う方が多いです。

--ちなみに、常連客の紹介などがない人が、いきなり電話で予約して利用することはできるのでしょうか?

伊藤 当店は「一見様お断り」ですが、どうしてもと言う方には、あらかじめ料金システムをお伝えし、お越しいただく場合もあります。しかし、クラブを利用したことがない方や、どのような場所なのかを知らない方のその場に好ましくない振る舞いなどで、和気あいあいと楽しんでいる常連様のご気分を害するような可能性は、できるだけ避けたいので、基本的には常連のお客様のご紹介が必要です。

20年で半減…銀座高級クラブの裏側 老舗店ママに聞く人気の秘密と、出世する人の条件
--まず、銀座におけるクラブの状況について、簡単に教えていただけますでしょうか?

伊藤 バブル最盛期は大中小を合わせて3000軒くらいで、現在は1500軒くらいではないでしょうか。激減した要因としては、バブル崩壊と08年のリーマンショックが大きかったようです。最近の傾向としては、若い方が銀座にお見えにならなくなり、クラブを利用されるお客様の絶対数は減ったかと思われます。
 また、11年の東日本大震災の後に、お店を閉めたオーナーも多いです。
つぶれるというよりも、自己資金での穴埋めが嫌になってしまったという人が多かったですね。「自粛」が広がり、震災から約2カ月たった同年5月の連休明けには、ある程度の「自粛」は収まったとものの、結局それが尾を引いてしまい、経営自体が嫌になってしまったママらが結構いらっしゃいました。
--そのようなクラブをめぐる厳しい環境の中、「クラブ由美」のお客様の数も減少傾向なのでしょうか?
伊藤 当店はキャパシティがさほど大きくないので、お客様の数が減ったということは感じたことはなく、お陰様で、クラブに併設されている2つのVIP ROOMをご利用くださる古くからの常連様に支えられております。
--銀座のクラブの数がバブル崩壊後に半減するほど厳しい中、「クラブ由美」が変わらずに生き残っている理由はなんでしょうか?

伊藤 僭越ながら申し上げれば、それは仕事に対する姿勢と、銀座に対する思い入れだと思います。私は一本気ですから、その生き方と心意気を強く支持してくださるお客様に恵まれ、ここまでこられました。基本的に当店のファンの方々のサロンスタイルですので、「お客様であれば誰でもいい」とは思っていないです。
なんだか生意気なんですが(笑)。●出世できない人の共通点
--本書には、「出世する人の共通点」「出世できない人の共通点」が書かれていますが、本書を書かれたきっかけを教えてください。
伊藤 30年以上もクラブのママをしていると、1人の男性の完成形が見られるんです。お客様の中には、若い頃に出会わせていただいて、だんだんと出世されて、「がんばれ、もっと偉くなってください。私もがんばります」というかたちで共に歩んできた方が多いのです。その中でも頂点を極められず、残念に思う方も何人かいらっしゃいました。
お客様には、やはりトップを目指していただきたい。そのために「縁の下の力持ちになれたら」「少しご協力できたら」という思い入れもあり、本書を執筆しました。一流企業の中でもスイスイ出世デキる方と不遇な方に分かれるその差を生むのは、「ちょっとした人としての基本」なのだと思い、実存の出世された方々の例を参考に書かせていただきました。
--出世する人は、そのような「ちょっとした人としての基本」を普段から意識して行動しているのでしょうか? それとも自然にそれができているのでしょうか?
伊藤 意識しているというよりも自覚してらっしゃると思います。その自己認識は、良い友人や良き先輩、また親の躾から生ずるものですから、やはり周りの環境というのはすごく大事で、「私は恵まれていない」というのは間違いです。自分の環境は自分自身で築くべきで、「上司や部下に恵まれない」というのは甘い考えです。

--本書の中には、「出世する人」「出世しない人」の共通点が豊富に書かれていますが、一番最初の項目として「臭い人は出世しない」とありますが、どういう意味でしょうか?
伊藤 それは臭いのが悪いのではなく、臭くならないように気遣いできない人はダメだということです。生まれつきの腋臭や多汗症の方は、自分でも自覚しているわけです。それなら、せめてにおわないように気をつけていないと、その人が来たら息を止めたり、席を立ちたくなるじゃないですか。ビジネスパーソンであればなおさら、そのような人は仕事がうまくいくとは思えません。
--人を見て態度を変える人も出世できない、と書かれていますが、自分の出世に有利な人を見抜いてうまく立ち回れる人が出世するのではないかと思うのですが、そうではないということでしょうか?
伊藤 本人はうまく立ち回っていると思っていても、そういう人ははたから見て「調子がいい人だ」と、すぐに見透かされるじゃないですか。上役に媚び諂う人はしょせん、コバンザメにすぎないわけで、逆に、多少不器用でも、自分の信念や姿勢を貫き通している人というのは一目置かれます。

--例えば、こちらのお客様の中にも、ホステスの方とボーイ相手で態度を変える方もいらっしゃるのでしょうか?
伊藤 いらっしゃいますよ。私の前だと笑顔で振るまっていらしても、他には冷たい方もいます。その場ではあえて見て見ぬふりをして、あとでこっそり申し上げるのです(笑)。「みんなにも優しくしてくださいね」と。●キレモノは出世できない?
--一見するとキレモノに見える人というのも出世しにくい、と書かれていますが、その理由はなんでしょうか?
伊藤 男性社会では政治の世界もそうですが、女性同士より魑魅魍魎な妬み・嫉み・足の引っ張り合いがあるのが現実です。であれば、周りとうまく付き合いながらの方がより出世できのではないでしょうか。自分一人で偉くなれるわけではないので。
--可愛げのある人や憎めない人が出世するとありますが、男性の「可愛げ」とは具体的にどういうものでしょうか?
伊藤 例えば、「ごめんなさい」とすぐに言葉で出せる人は、素直で得な方だと思います。失敗を格好悪いと思い、自分が悪くないように見せたり、言い訳ばかりして嘘で塗り固めようとすると、だんだん人間関係もゆがんで「あの人はプライドばかり高くてスカしている」となってしまいます。少しくらいの失敗がないと、あまりにも完璧すぎて、油断ならない人のように思えます。いつまでもプライドばかりにこだわる人は損をしますね。やっぱり、正直な心とか人としての素の部分が見えないと、信頼できず、周囲から警戒されてしまいます。
--あと、「出世する人はお酒の飲み方に品がある」と書かれていますが、「品のあるお酒の飲み方」とはどのようなものでしょうか?
伊藤 要するに、絡まない・騒がない・人の悪口を言わない、ということです。あとは羽目を外さないというのも大切です。特に相手が女性の場合、セクハラだと訴えられれば、それまで積み重ねてきたキャリアがたった一度の振る舞いで崩れ落ちててしまいます。それなら、最初から無礼講などと、羽目を外すような状況が想定される飲み会などは回避し、参加しないように心がけたほうがいいと思います。当店のお客様にも、自社の女子社員とは絶対に飲まないという用心深い方もいらっしゃいますよ(笑)。●他人の悪口を言う人は出世できない
--若いビジネスパーソンがこれから成功しようと思った時に、まず何から心がければよいでしょうか?
伊藤 上司を含めて、人の悪口を言わないということです。誰かの悪口を言うと、その場に居合わせただけで全員が共犯者になってしまうので、そういう時はそれとなく話題を変えたほうがいいと思います。「もうやめましょうよ、そんなお話は面白くないから」「もっと楽しい話題に変えましょう」などと私ははっきり申し上げますよ。
--あと、女性へのアドバイスとして、将来成功する男性を見抜く方法みたいなものがもしあれば教えてください。
伊藤 人としての本質が優しくない方はダメだと思いますね。人に優しくできない方に出世や成功は無理なような気がします。自分に甘く他人にも寛容なのはまだ許せますが、自分ことを棚に上げて、他人を批判し厳しい方はまずダメですね。
 あと、済んだことや他の人のことをゴチャゴチャ言う人は基本的にダメです。自信のなさや不安の表れで、人のことが気になって仕方なく、人と比較しない限り自分自身の価値観が保てないんだと思うのです。本当に自分なりの強い思いや信念を持っている方は、「他人は他人、自分は自分」という、人に左右されない高い志や生き方を持っていらっしゃいます。他人の持っているモノや地位を羨ましがったりすることは愚かなことですから、だったら、自らこの手で掴めるように努力するべきではないでしょうか。
--ありがとうございました。
(構成=編集部)