突然ですが、質問です。
質問:エスプレッソを飲むにはエスプレッソマシンが必要?
答え:はい。


フリとしては「いいえ」と解答したいところですが、エスプレッソの定義は次の通りです。「深煎りした細挽きのコーヒー豆を、約9気圧の圧力と約90度のお湯で20~30秒の抽出時間で約30ml分を抽出したもの」。9気圧もの圧力をかけて抽出するのに、マシンが不要だなんてあり得ません。

でも要は圧さえかけられれば、電気式のエスプレッソマシンである必要なし! そこで数年前に登場したのが手動で抽出できる「ハンドプレッソ」という持ち運べるサイズのエスプレッソマシン。ただし旧型はカフェポッドというコーヒー豆のカートリッジでしか使うことができませんでした。カフェポッドはたいてい個舗装されていて、湿度や香りなどを気にせず保管できるという利点がありますが、エスプレッソの味わいは豆のブレンドや、ケースにコーヒー粉を詰める「タンピング」、それに微妙な圧力のかけ方によって変わってきます。


そして『ハンドプレッソ』の新型「ハイブリッドタイプ」は付属のパウダーケースを使えば、粉コーヒーからもエスプレッソを抽出することができるそう。つまりコーヒー豆選びから、マニアックに楽しめる一台となっています。

本場イタリアではエスプレッソの豆は「5種類以上をブレンドして使うこと」となっています。しかも通常のミルでは難しい極細挽きにしなければならないので、ここはエスプレッソ専用ブレンドを展開する専門店で購入することに。通常エスプレッソのブレンドはブラジル、コロンビアなどをメインに、中米、アジア、アフリカの豆を足したブレンドが一般的。と店員さんに聞いて、すすめられるがままに、購入してみました。


ちなみにこのハンドプレッソ、自転車の空気入れのようにシュコシュコとマシン内部に空気を送り込み、16気圧まで上がったら本体のボタンをワンプッシュ。するとエスプレッソが抽出されるという仕組みです。ある程度腕力がある人なら1分程度で必要な圧力まで到達できますが、10気圧あたりからは少々気合いを入れてマシン内に空気を送り込みましょう。敵もさるもの、10気圧を超えるとググッと押し返してきたりするわけです。疲れているときなど、「空気なら空気くらい読めよ」と口にしてしまいそうになりますが、ベタ過ぎるので口には出さずに、ひたすらシュコシュコ言わせます。

圧力計の表示がグリーンゾーンに達したら、16気圧に到達した証拠。
抽出フィルターを取り外してパウダーケースにコーヒー粉を詰めるステップに進みます。ここがカフェポッドでなく豆を使う醍醐味で、詰め方によって味わいが変わるのです。「タンピング」と言ってパウダーケースに入れた粉の上部が平らになるよう、専用のタンパーでトントンと粉を詰めていきます。

好みの量を納得いくよう詰め込んだら、ここからがクライマックス! ウォータータンクにまずは一度捨て湯を入れ(プレヒート)、もう一度抽出用の熱湯を入れます。抽出フィルターを閉めたら抽出ボタンをワンプッシュ! 16気圧で押し出された熱湯がコーヒー豆でぎゅうぎゅうのパウダーケースを通って、カップへと注がれます。序盤から中盤までは粛々と抽出しますが、最後に「ジュワワワワワッ!」というエスプレッソらしいスチーム音とともにクレマ――細かい泡がカップの表面を埋め尽くしていきます。


その一杯を口にして驚いたのは、外出先で飲むヘタなエスプレッソよりも味わいが濃厚でおいしく感じられたこと。買ったばかりの豆の状態が良かったからとか、自分の肉体を使って空気を送り込むという達成感があるからとか、いろいろ理由は考えられますが、すべて自力でエスプレッソを淹れるという体験は、そういえば初めてのこと。一杯のエスプレッソの裏側にある物語を自ら体験して、その味わいの深さに初めて触れたような気すらします。

ちなみに、エスプレッソマニアになると詰め方をミリ単位で変えるといいますが、そのレベルとなると微妙過ぎてわかりません。それでもいろいろ試すうちに、好みはわかってくるもので、ぼくのお気に入りは豆をギチギチに詰め込んだ濃厚な味わいの一杯。それを一口でガッと飲むと気合いが入ります。
思わず「男の、男による、男のためのエスプレッソマシン」と言いたくなりますが、昨今こういう表現を口走ると叱られがちなので、「男気あふれる人のためのエスプレッソマシン」と言い換えておくとします。
(松浦達也)