ハァイ! TIGER & BUNNYのファイヤーエンブレムとルナティック推しの方、アオヤギです。今回はバンダイビジュアルのプロデューサー、松井千夏さんにお話を聞いてきました。


■バーナビーは難しかった

ーー早速ですけど松井さん、お気に入りのキャラクターはいますか?
松井 来ましたねー(笑)。やっぱり主役のタイガーとバーナビーにはものすごく思い入れがあります。バーナビーは企画当初から、大丈夫かな? って。タイガーが魅力的すぎましたから。
ーーなんと!? 私、バーナビーすっごく好きです!
松井 虎徹はすごく絶妙。単純なように見えて、実は一言で表せないキャラクターになっている。
はっきり言うと「ダメおじさん」にしか見えないのに、なぜかカッコイイ。「ダメかもしれないけど、シメるところはシメる」みたいな男性像を、虎徹に対してはみんなが明確に持って、自然に出来上がったキャラクターという気がするんですけど、バーナビーに関しては難しかったかなーと。
ーー虎徹と並んだ時のバランスを考えなきゃいけないし、「女性ファンがいる」って設定のキャラクターですから、実際に女性ファンがつかないといけない。
松井 そうなんです。「女性はどんなキャラクターだったら好きかなー?」っていうのをすごく意識しました。結果的に虎徹に張れるくらい人気が出たってことが嬉しいです。


「TIGER & BUNNY」(通称タイバニ)は、サンライズ制作の大ヒットアニメ。NEXTと呼ばれる超能力者たちが犯罪者を捕まえる、アメコミちっくなヒーローものです。メインキャラクターは、落ち目のヒーロー・ワイルドタイガー(虎徹)と新進気鋭のヒーロー・バーナビー・ブルックス Jr.。正反対な二人がコンビを組み、犯罪者たちと戦ううちに、絆を深めます。最初はデコボコだった二人が、お互いを信じられるようになり、「相棒」になっていきます。
ヒーローが「職業」になった近未来都市シュテルンビルト。
捕り物や人助けの瞬間は特別番組「HERO TV」で実況中継。ヒーローたちはスポンサーのロゴを背負いながら、ポイントをゲットし、そのシーズンの「キング・オブ・ヒーロー」を目指します。

ーー二人の周りのヒーローたちも個性的ですよね。私はファイヤーエンブレム(ネイサン)が好きです。最初はすごくビックリしました。「オネエ言葉の黒人キャラ!?」って。

松井 ネイサンはですね、さとうけいいち監督と西田さん(構成・脚本の西田征史)がすごくオカマキャラを出したがったっていうのもあるんですけど(笑)、海外ドラマを意識してるんです。
ーーあー! 確かにあの頃、「LOST」に「デスパレートな妻たち」と、海外ドラマがものすごく流行ってました。
松井 海外ドラマが好きで、アニメを見ない方も取り込めるんじゃないかなーと思って。海外って人種や性的マイノリティを意識しているんです。そういう意識って、日本人にとってはピンと来ないかもしれないですけど、海外ドラマファンにとっては面白いと思えるところかなあと。
ーー女性キャラも、ステレオタイプ的なキャラクターがいないなーと思います。
ホァンちゃん(ドラゴンキッド)はカワイイのにブルース・リーの格好をしているボクっ娘だし、アニエスさん(「HERO TV」プロデューサー)は美人なのに視聴率の鬼だし。
松井 女性が見ていて不愉快なキャラクターを避けたかった。「子供から大人まで幅広い男女に見てもらおう」っていうことが根底にあるので、女の子が見ると「あー…」ってガッカリされるようなものや、攻撃的な要素はなるべく避けたいなーと。その分男性には物足りないかもしれない…(笑)

■「TIGER & BUNNY」って、対比が面白い

ーーちょっと変化球の女性キャラでいえば、逃げ惑う少女(しょっちゅう事件に巻き込まれている、泣きぼくろがカワイイモブの女の子)がいますよね。
松井 逃げ惑う少女、好きなんですよー。それから脇キャラだと……エドワードが気に入っています。

ーーエドワード! 8話の登場キャラですね。折紙サイクロン(イワン)が成長した回でした。エドワードの「なんで俺が犯罪者でお前がヒーローなんだよ!」という台詞は、タイバニの世界観を強く感じて、良いキャラだなあと思います。
松井 8話の構造はすごくキレイにまとまったと思っています。虎徹とバーナビーの話もしながら、イワンとエドワードの話もして。二つのコンビが少し近付くっていうのが、二つの縦軸で描かれている。それから、折紙とエドワードの結末って、2話のトニーとアイザックの話とちょっと似ちゃうじゃないですか。

2話には、NEXT能力者であるがゆえに孤立してしまったトニーと、そんな彼を仲間はずれにしたアイザックが登場。トニーの過去に自分を重ねるタイガーは、騒動を起こした彼を救うために奮闘します。
タイバニの犯罪者の多くは、ヒーローと同じくNEXT能力者。NEXT能力を良いことに使う者もいれば、悪いことに使う者もいる。エドワードと折紙、トニーとタイガー。犯罪者とヒーローはまさに紙一重なんです。

松井 だけどそれと似ないように、絶妙に西田さんが結末をつけた。「TIGER & BUNNY」って、対比が面白いと言われるんですよ。お話もそうだし、キャラクターの対比も。そこがうまくはまった話だと思うので、気に入っているエピソードの一つです。
ーーヒーローの中でも、タイガーとバーナビー、バーナビーと折紙といった対比がありますけど、やっぱりヒーローと犯罪者の対比が印象深いです。表舞台に立つタイガーとバーナビーがいて、裏側に行ってしまったキャラクターがいて……。6話から登場するルナティックなんてまさにそうですけど。
松井 8話はルナティックも出てきますしね。ヒーローの中で虎徹はもがいてるけど、実はヒーローをやれていて、ある意味恵まれてるって感じもするじゃないですか。エドワードとか、ルナティック…は歪んでますけど、将来有望だったのに、一つの失敗で人生が狂ってしまう。そういう対比も8話は面白いかなーと思いますね。
ーーキャラクターやお話のアイデアは、どのようにして出されたんでしょう? 虎徹の子持ち設定は、さとうけいいち監督の意見が反映されたとか。
松井 「みんなで作った」のが「TIGER & BUNNY」だなあって思ってます。アイデア出しの段階から、それこそ監督に限らず、誰でも思ったことはすぐにその場で言える雰囲気が出来ていた作品なんですよ。いろんな方の意見を西田さんが吸い上げてくれて。物語上のことに関しては、西田さんがうまく集約してまとめていただいたものがこの世に出てきたのかなーと思いますね。
ーー西田さんを中心にして、色んな人のアイデアを詰め込んでできたのがタイバニなんですねっ。
松井 西田さんにそんなこと言ったら「いやいや!」とか言われるのかもしれないですけど(笑)

■「The Beginning」のラストシーンは何度も話し合った

テレビシリーズのヒットを受けて、「劇場版 TIGER & BUNNY -The Beginning-」が2012年9月に公開されました。テレビシリーズ1話と2話の総集編と新作映像で、ヒーローたちの活躍と、タイガーとバーナビーのコンビが「始まる」までを描いています。1クール目でポイントになっていた「信じる」ことを中心にした展開の中で、亡き妻・友恵との思い出で気持ちを奮い立たせる虎徹など、テレビシリーズでは見られなかったキャラの一面を見ることができます。

ーー劇場版とテレビシリーズでは、監督や制作陣が変わっています。でも、新作部分もしっかり「これがタイバニだ!」という映像でした。
松井 テレビベースのシナリオにプラスして掘り下げをしたものなので、やってること自体は変わってないんですよ。「監督が違う」ってことで違和感を与えないように、田村プロデューサー(サンライズ)と米たにヨシトモ監督を中心に議論を重ねました。
ーー議論というと、どんなところがアツく話し合われたんでしょう?
松井 何回も話し合ったのは終わり方。映画のお話として、「コンビになりました!」だったらキレイに終わるんですけど…3話の前っていうのは、まだコンビとしてお互い納得してない状態。「どう終わらせるか」っていうのを、西田さんはすごく悩んだみたいです。だからこそ「西田さんが納得いく方向性をきちんと表現する」っていうことに、制作チームはすごく気を遣ってくれたんじゃないかな。

「The Beginning」のラストシーンは、バーナビーのとある行動で終わります。ふつうの人にとっては些細な行動ですが、コンビにとっては大きな一歩。虎徹のことを信頼しておらず、バカにさえしていたバーナビーが、虎徹の行動で少しずつ心を開き、最後の最後でようやく取るワンアクション。映画まるまる一本を、コンビとしてのスタート位置につくまでに使っている、贅沢なつくりです。

ーー実は違う終わり方かもしれなかった?
松井 終わり方自体はあのシーンなんですよ。でもそれを「どこで終わらせるか」。間をどれくらいつけるかつけないかとか…これ以上言うとネタバレですね。
ーー「The Beginning」はテレビシリーズの3話に繋がるんですよね。コンビで連携できるようになっていたり、バーナビーが虎徹の「相棒」発言にこっそり笑みを漏らしていたり。
松井 そこはきちんと繋がってます! 今まで「TIGER & BUNNY」を見たことない方は、劇場版を見たあとに3話を見ると「おおおっ!」となるような内容になりました。テレビを見た方も楽しめるし、テレビを見てない方も楽しんで、かつテレビも楽しめるっていう構造になってます。

■一つファン向けのことをやったら、もう一つはオープンなことをやる

ーー劇場版を見て、3話を見て、テレビシリーズをぜんぶ見て、…で、「The Rising」(2013年秋公開予定の劇場版第二作)!っていうコンボがキマるんですね!
松井 全部繋がってるんですよー。スペシャルエディションの新作パートも、ちゃんとテレビのストーリーの中にハマるように作られています。全部見ていただければ楽しめるし、もちろん一部でも楽しめるようになってるかなあと。

テレビシリーズを「SIDE TIGER」「SIDE BUNNY」と題し、再編集したスペシャルエディションは、合わせて180分でストーリーをおさらいできるようになっています。タイバニには珍しいパラレルもののオーディオドラマ「もしもヒーローが家族だったらシリーズ」も特典のスペシャルCDの中に入っており、ファンサービスもバッチリ。

松井 コレです(松井さん、ススッとスペシャルエディションを2枚差し出す)。
ーーう、美しい…………………っ(思わず見とれて沈黙)。
松井 今まで塗りはサンライズさんがやっていたんですけど、今回は桂先生自らが塗るとおっしゃって。色も手塗りなので、違う雰囲気になっています。
ーーいや、もう、めちゃくちゃ美しいです。心臓に悪い!
松井 このスペシャルエディションは、「The Beginning」で初めて「TIGER & BUNNY」を知った方のために作りました。「25話を見るのは大変だな〜」と思ったらこれを見れば大丈夫。でもどうせ作るならと、元々のファンの方でパッケージを買っていない方、すべて揃えたい方、どんな方でも楽しんでいただけるものを目指しました。
ーー劇場版からのお客さんのためのパッケージだけど、それだけじゃない。
松井 「TIGER & BUNNY」は「幅広い層に楽しんでもらう」を目指している作品なので、色んな選択肢を作るやり方を取ってます。今のファンの皆さんを大事にしつつ、今のファンじゃないとわからないという方向にはいかないように、一つファン向けのことをやったら、もう一つはオープンなことをやるように意識してます。二方向を常に意識しながら、もっとファンを増やしていきたいなと。
ーー劇場版も、ファンのための映画でもあるんですけど、3話につながるように作ってあるから、新規の方向けでもある。
松井 すごく難しいんですけどね。特に「The Rising」は、テレビシリーズ後の完全新作なので、「ファン向けの映画だ」って受け取られてしまうんじゃないかな、と若干心配はしてます。でも、脚本の段階では、たとえ「The Rising」を初めて見たとしても、ちゃんとコンビものとして、「あ、この二人はこういう立ち位置で、こんな過去があるんだ」ということがわかるように作ってあるんですよ。「The Rising」から見始めるお客さんもいていいように。

■シュテルンビルト最大の危機が訪れる!?

ーー「The Rising」、だんだんと情報が解禁されてきていますよね。公式HPのあらすじを見たんですが、「シュテルンビルト最大の危機が訪れる!」「ヒーロー達の衝撃の運命」とは…!?
松井 TVシリーズは、2部にタイガーが戻ってきて、そこにバーナビーがやってきて、コンビ再結成! の瞬間で終わってるんで、「じゃあその二人はいったいその後何してるのか?」ってところがわかる作品になってます。25話で、バーナビーもタイガーと一緒に2部リーグのヒーローになっている。……さて、そのままで終わるのか?
(青柳美帆子)

後編に続く