上戸彩と吉瀬美智子が演じる、ふたりの主婦(昼顔妻)の昼間だけの火遊びを描く、「昼顔〜平日午後3時の恋人たち」(フジテレビ、木曜22時〜/脚本・井上由美子)が話題沸騰。
70年代の「岸辺のアルバム」(TBS/脚本・山田太一)、80年代の「金曜日の妻たちへ」(TBS/脚本・鎌田敏夫)のような文学の香り漂う不徳な世界観と、フジテレビの得意技であるドロドロ昼ドラを足したような世界観が、上品過ぎず、下世話過ぎず、いい具合に混ぜ合わさった感じがいいのでしょうね。


音楽の使い方もものすごくうまくて、平凡な日常をせつなげなストリングスにのせて描いたり、テーマ曲「他人の関係」を何パターンも使って、ホップ、ステップ、ジャンプとばかりに、恋愛ドキドキ感情を徐々に高めていったりするので、気づくと、ずぶずぶ昼顔の沼に入ってしまっているのです。1、2話の演出は「ガリレオ」「任侠ヘルパー」、映画「容疑者Xの献身」「真夏の方程式」などの西谷弘が担当しました。

7月24日放送の2話では、上戸彩演じる主婦が、ちょっと変わり者の高校理科教師(斎藤工)と急接近。
〈今、私の頭の中には、あれ以来、ずっとあの人がいるのです。
妄想の中の私はあの人を抱きしめ、くちづけ、からかったり、甘えたり、いじめたり、信じられないほど奔放で自由でした〉
なんてひとり語りをしたかと思うと、お互い既婚同士とわかったにもかかわらず、ケータイ番号を交換し、ふたりで、林(森?)の中に虫をとりに行って、雨に降られて、手をつないで走り、靴ひもを結んでもらってキュンとなって、
唇を近づけ・・・たら、突風に煽られ、キス未遂に終わる。というところまで急速進展してしまいました。


〈男の人はいつもずるい。
ドアを叩くくせに自分では開けようとしません
女は鍵を開けて「ここだよ」と優しく声をかけてあげなければ、
なにごともなかったふりして通り過ぎてしまうのです。
それが禁断の扉ならなおさら〉

なんて、わけ知りなひとり語りまで!
2話では急激に大胆になっている主婦(上戸彩)は、結婚前、夫(鈴木浩介)と同じ職場にいたときは、人気者でモテていたことも判明しました。
モテた彼女が選んだ夫は、結婚して5年、男としての夜の義務をまったく果たさないばかりか、子供もいないのに妻を「ママ」よばわり。
自分がもはや女として見られていないことにさみしさを感じながら、その感情を閉じ込め、強がっていた彼女の心のドアの前に、理科教師がぬぼーっと立っていたというわけですね。

「男と女という側面でしか人間関係見られない人がいますからね」なんて言って、自分たちはそうじゃないと強調しつつ、上戸彩と斎藤工は、お互いの環境をさりげに探り合い、ケータイ番号交換しちゃうのです。


そんな理科教師。虫にしか興味がなさそうに見えて・・・妻帯者でありました。
その妻(伊藤歩)が、彼の食の傾向を語るとき「意外と肉食かな」と言い、当人(斎藤工)は森で、上戸彩に「触ってみなきゃ、相手のことわからないじゃないですか」と言うのです。食べ物や虫のことですけど、明らかに意味深ですね。

脚本の井上由美子、一話の「火事」に次いで、誰にでもわかりやすい隠喩を、巧みに細かく挟み込んできます。
上戸彩夫婦が飼っているハムスターのつがいの一匹がいなくなってしまったあとで、吉瀬美智子演じるセレブ妻が、「あーあ、私の一生見えちゃった。
もうここから逃げられないんだなって」と不倫する理由を吐露するのです。売れてる雑誌の編集長である夫と、すてきな家、かわいい2人の娘をもってはいても、彼女にとってそこはハムスターのオリのようなみものなのですね。

ハムスター的人生から抗おうと、セレブ妻は危険な芸術家(北村一輝)に接近します。
その心は、
〈難しければ難しいほど退屈な毎日を忘れさせてくれる。
私も今の生活を捨てる気はないわ。
でも、ほんの少し刺激を求めて生きる時間を求めることがそんなに悪いことかしら〉だそうです。


この北村一輝演じる、暗い目をした野生味あふれる芸術家、面白すぎるほど芸術家あるあるなんですよー。

1話で、芸術家としては売れないけれど、雑誌のイラストならそこそこ需要があるという、彼の残念な状況が描かれていました。
これ、あるあるその1です。やりたいこととやれることが合ってない、という。

売れない芸術家あるあるその2 かっこいいことを言う。

描いた絵を見て「ほんとうの私を見抜かれたみたいで」と言うセレブ妻に、「見たままを描いただけです」と返す芸術家。
心(魂)を描くとか映す(写す)とか常套句ですな。

売れない芸術家あるある3 相手を否定する。

「きれいな私を残したい」と言うセレブ妻に、「あなたに美しさを感じません」「プロは対象を愛せないと描けないんですよ」と手厳しい。
自分の視点は特別という思いと同時に、セレブ妻に簡単になびかないぞと懸命に壁を作っているんですね。

売れない芸術家あるある4 人の言うことを聞かない。

セレブ妻の夫である編集長に「なんで毎回、ああやってオーダーと違うものを描いてくるんです?」と嫌みを言われます。

言われたとおりに絶対しないことが、芸術と思っている人っているんですよねえ。

売れない芸術家あるある5 相手が上手だと、ムキになってドSになる。

セレブ妻の電話には出ないけど、セレブ妻の電話番号はなぜか知っている芸術家。「私のことが好きなんですね。だってなんとも思ってなかったら折り返しませんか?(クライアントの妻だから)」 とセレブ妻のほうが上手。
でも、「(絵のギャラ)高いですよ」と言い、デッサンすると外に連れ出し「服を脱げ」とドS化します。

まあ、結局、このひと、お子ちゃまなんですよね。だから、セレブ妻につけ込まれるのです。といってもうまくすれば、パトロンになってもらえるわけで、
こうやって芸術の道を邁進するひともいますからねえ。
45歳にしてようやく希望の光を見つけたかもしれない、このかわいい芸術家くんを、北村一輝がみごとに演じています。
人と目を合わさず、無口なのだけれど、実のところ、その伏せた目はギラギラと美人妻に興味津々だし、全身から色気がだだ漏れなんです。こういうひとは、作品に固執せず、自分の肉体こそがアートそのものと自覚したほうが身のためです。よけいなお世話ですけど。
また、セレブ妻のテクがすごい。相手の才能をまず認め、相手がいじわるを言ってもちっともひるまない。美しさとお金(絵に高い金額を払う事を厭わない)をちらつかせる。さらに、芸術家が憎む消費文化の権化・女性誌編集長の妻でありますから、彼女を奪えば、編集長に復讐できます。十分すぎる餌を振りまいて、これはもう火遊び準備万端です。

セレブ妻、料理も嘘も上手。なんでも手に入るから、もっといろいろ欲しくなってしまうんですかね。うらやましい限り。
そんな彼女に「共犯者」にされてしまった上戸彩演じる平凡な主婦も、理科教師と不徳の色に染まりきってしまうのでしょうか! 第3話が楽しみです。
(木俣冬)