
主人公は、高校の数学教師をしている犬塚公平(演:中村悠一)と5歳になる一人娘のつむぎ(演:遠藤璃菜)という父娘。公平は数学教師らしくスラッとしたメガネ男子で、つむぎは髪わっさわさの幼女だ。
半年前に妻を亡くした公平は、男手ひとつで子育てに奮闘しているシングルファーザー。仕事と家事を懸命にこなしている姿がまず泣ける。洗濯もしているし、歯磨きの面倒もちゃんと見ている。娘の髪がわっさわさなのは仕方ない(父親はだいたい娘のヘアセットが得意ではない)。
さて、公平がもっとも苦手にしている家事、それは料理だった。
つむぎが幼稚園に持っていくお弁当は冷凍食品メイン。夕食は買ってきた弁当がデフォルト。一度がんばって料理をしてみたこともあったが、「娘の今まで見たことのない表情を引き出して」しまったため封印している。
なにより、公平が仕事と家事で忙しいので、つむぎは一人で弁当を食べていることが多いのが非常にせつない。ごはんも残しがちだ。
ある日、お花見に出かけた公平&つむぎ親娘は、泣きながら一人で弁当を食べているメガネ女子高生、飯田小鳥(演:早見沙織)と出会う。
一緒にお花見に来るはずだった母親にドタキャンされたのだが、母親が丹精こめて作ったおいしいお弁当を食べているうちに泣けてきたのだという。なんだかよくわからない女子だが、5歳児の無邪気さゆえに声をかけることができたのだろう。
公平は、小鳥から母親が営んでいる小料理屋「恵」のショップカードを受け取る。
仕事で遅くなった日、弁当を買って慌てて帰ってきた公平が目にしたのは、圧力鍋で肉料理を作っているテレビショッピングを(文字通り)釘付けになって見ているつむぎの姿だった。
「おとさん! ママにこれ作ってってお手紙して!」
言いしれないショックを受けた公平は、つむぎを抱えて「恵」に走る。
「お願いします! 娘に……娘に美味しいご飯を食べさせてやりたくて……」
このときの父親の気持ちを想像すると、胸が苦しくなる。
「恵」は『重版出来!』に登場した「重版」のような隠れ家的な小料理屋だ。
店に到着した公平とつむぎだったが……待っていたのは小鳥一人。店を切り盛りする小鳥の母が不在で、本当は休みだったのだ。
「おいしいごはん、ないの?」
「うん……他の店行こうか」
「あります! 美味しいごはん、あります!」
勢いで言ったはいいものの、小鳥は料理のド素人だった。
結局、小鳥が時間をかけて作ることができたのは、土鍋で炊いた白いごはんだけ。
なにより、白いごはんだけを夢中で頬張っているつむぎが「うまぁーい!」と言っているのだから、美味いに決まっている。
「つむぎ、約束するよ。こんなふうに美味しいもの、これからは父さんが作るから。一緒に食べような」
うんうん。お父さん、頑張ろう。
「私、お願いがあって……私と、ごはんを食べませんか!? ……私とごはんを作って食べませんか?」
えっ、なぜ女子高生が? というところで次回へ続く。
公平&つむぎが「恵」に向かった理由
ところで、作品の舞台になっている武蔵境駅周辺にはたくさんの飲食店があるはずだが、なぜ公平はまっすぐ「恵」に向かったのだろうか?
実は武蔵境に限らず、夜、幼児を連れていける飲食店はそれほど多くない。静かなレストランは子連れでは入りづらいし(入店拒否されることもある)、居酒屋はサラリーマンたちの世界だ(タバコも気になる)。というわけで、どうしても子連れの外食はファミレスに偏りがちになる。
ファミレス以上の美味しいものを子どもに食べさせたいと思ったとき、頼りになるのは “顔なじみの店” だ。おかみさんが「あら、いらっしゃい! また大きくなった?」なんて言ってくれるような店。
さて、アニメ『甘々と稲妻』で特筆すべきは、つむぎの幼女っぷりである。声から仕草から何から、子どもっぽさが半端ない。父親の膝に顔をうずめたり、手の幅で美味しさを表現したり、肩車で異様に喜んだり……4歳の娘を育てている私が言うのだから間違いない。
すべて原作でも表現されている仕草だが、アニメになると一段と子どもっぽさが際立ったているのは、それだけ描写が丁寧だということだろう。キャラクターというより「人」という感じがする。
つむぎの声を演じている遠藤璃菜が10歳のリアル子役だということも関係あるはずだ。遠藤はアニメ『ばらかもん』でも7歳の少女(なるの友達のひな役)を演じていた。
それにしても、ぐずったり、わがままを言ったりせず、健気に父親と2人きりで暮らすつむぎは本当に良い子だと思う。
お腹が空いていても、ちゃんとごはんができるのをお絵かきして待ってるし。
明朗なママと実直なパパに育てられたから、ということもあるだろが、5歳ながら「父親を困らせてはいけない」と思っている可能性もある。
父親が仕事で忙しいこともある程度は理解していて、二人で食事ができない寂しさを口に出したりしない。だから、父親と一緒に土鍋ごはんを食べたとき、満面の笑みを浮かべたのだろう。
父の気持ちを想像すると泣けるが、娘の気持ちを想像するとまた泣ける。一粒で二度泣けるアニメだ。
ツイッターを見ると、
「娘が欲しくなるアニメ」
「めっちゃ娘欲しくなった」
「嫁はいらんが娘は欲しい……」
という声が溢れていた。うん、娘って本当にいいものですよ。
単なる萌えキャラとして幼女が出てくるのではなく、父と娘の姿をしっかり描いているから見ている人たちも娘が欲しくなるんだろうと思う。少子化対策にも役立つアニメなのかもしれないね。
第2話は、TOKYO MX、読売テレビで今夜放送。原作コミックは現在1巻が無料キャンペーン中、発売されたばかりの最新7巻が20%オフ中(→セール情報)なので原作未読の方は要チェック。
(大山くまお)