TBSラジオ「文化系トークラジオLife」(偶数月・第4日曜日25時〜生放送)主催のトークイベント「2016〜2017ドラマはどこへ行くのか」が7月16日、都内で行われた。最新作から歴代のドラマまで、熱いトークが交わされた。

司会は「文化系トークラジオLife」のcrewでライターの西森路代、ゲストに早稲田大学演劇博物館館長 岡室美奈子、ライター・編集者の大山くまお、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表 清田隆之が登壇した。
ドラマ史上の大事件「逃げ恥」以降、進化のキーワードは「女子の連帯」「聞く男」座談会
左から司会の西森路代さん、岡室美奈子さん、大山くまおさん、清田隆之さん

「逃げ恥」はもはや事件「2016~2017 ドラマはどこへ行くのか」


岡室:2016年はドラマ豊作の年で、まず「逃げ恥」(「逃げるは恥だが役に立つ」2016年放送・TBS系)。単なるブームというよりはドラマ史上の事件だった気がします。他にも「ゆとりですがなにか」(2016年放送・日本テレビ系)とか「ちかえもん」(2016年放送・NHK総合)、渋いところでは「夏目漱石の妻」(2016年放送・NHK総合)とか「奇跡の人」(2016年放送・NHK BSプレミアム)とか、秀作、名作揃いでした。

西森:「奇跡の人」が「ひよっこ」(2017年放送・NHK総合)にも繋がって。

岡室:そうそう、同じ岡田惠和さん脚本で峯田和伸さんも出ていました。

大山:「ちかえもん」と同じ藤本有紀さん脚本のドラマ「みをつくし料理帖」(NHK総合)がよかった。
NHKの夕方6時からの土曜時代ドラマという新しい枠で、35分×8本と変わったフォーマットを取っている。「みをつくし料理帖」が終わって7月からは「悦ちゃん」(2017年放送・NHK総合)が始まった。ユースケ・サンタマリアさん主演で、時代劇の枠をうたっておいて2本目は昭和初期の話という。ポップな雰囲気で、1話はよかったですね、期待してます。

清田:自分はドラマウォッチャーというよりただの恋バナ好きなんですが、やはり前クールは「あなたのことはそれほど」(2017年放送・TBS系)が気になりました。火曜10時のTBSは「逃げ恥」から「カルテット」(2017年放送・TBS系)と黄金の枠になりつつあって、テレビドラマにおけるジェンダー表現の最先端というイメージになっていたのに……いきなり逆行したような印象でした。
「あなそれ」の涼太(東出昌大演じる主人公美都の夫)と有島(鈴木伸之演じる美都の同級生)、二人の男のクソさがたまらなくて、夢中で見てはいたんですが(笑)

西森:なぜ同じ不倫をしたのにも関わらず、美都ばかりが酬いを受けるのかと思ってしまいましたね。

岡室:なんで有島くんのほうがいいのか、私にはいまいちわかりませんでした(笑)。

清田:有島は、波瑠演じる主人公・美都の初恋の人なんですよね。偶然の再会からいきなり不倫関係になり、最初はキラキラした恋愛模様が描かれていく。でも、奥さんに勘付かれて雲行きが怪しくなる中で、「俺と会えない時のために趣味を持て」という衝撃のクソ台詞が飛び出すんですよ! それで美都は陶芸を始めて、教室で有島の妻・麗華(仲里依紗)にばったり会うという……そんなミラクル起きねえだろ!的な展開があった(笑)

大山:波瑠さんが嫌な女だという言われ方が多かったのはなぜ?

岡室:欲望に正直だからじゃないですか? そういう意味では感情移入させないヒロインを波瑠が好演していました。

西森:最後のほうには、美都の親友である香子(大政絢)が、美都が自分の欲望に正直なところを羨ましいと言うシーンあったりして、視聴者にも、自分の中にも美津のような気持ちがあるんじゃないかと思わせたことで、最後のほうになると、美津への反感がちょっとは和らいだんじゃないかという気もしました。


清田:涼太のキャラクターもすごかったですね。ストーカー化していったのは彼なりの弱さの表現だと思うんですが、それよりも、あれほど美都のことを「運命の人」だと言ってたわりに、具体的に彼女のどこが好きで、なぜあれほどまでに執着していたのか、正直よくわからなかったことが衝撃で。もしかしたら単にルックスが超好みってだけだったのかな……とも思いました。例えば「逃げ恥」では、みくりと平匡が内面のコミュニケーションを積み上げ、その先に恋愛が生まれていく様子をあれだけ丁寧に描いていたのに……。

岡室:「逃げ恥」の出現はドラマ史上の衝撃でした。今後、ドラマは逃げ恥以前と逃げ恥以降で大きく変わるると思っていたのにそうはならなかった。
あの後に「タラレバ」(「東京タラレバ娘」2017年放送、日本テレビ系)もあったわけで「逃げ恥」の衝撃をドラマ制作に携わる方々はどう受け止めているのか聞いてみたいところです。
ドラマ史上の大事件「逃げ恥」以降、進化のキーワードは「女子の連帯」「聞く男」座談会
「あなたのことはそれほど」で、不倫相手の有島に「趣味を持て。俺に会えない時用に」と言われる美都。西森さんは、不倫ということで、有島は、自分にかかる比重がかかったり、自分の時間が削られるのが嫌でなのではないか、と語る。

シスターフッドを壊すのは男?


清田さんが気になっている「シスターフッド」をキーにトークが進む。

西森:「逃げ恥」の百合ちゃんとみくりの関係性に、シスターフッドを感じます。

清田:最近のドラマや映画には、女子の連帯を優しく描く作品が多いと感じています。例えばバカリズムが脚本・主演を務めた「架空OL日記」(2017年放送・日本テレビ系)は、ひたすら繰り広げられるガールズトークの描き方に悪意がない。いがみ合いにならないし、陰湿な陰口も言わないし、男で友情が壊れることもない。これにはかなり意図的なものを感じました。
あと、朝ドラの「べっぴんさん」(2016年放送・NHK総合)も幼なじみの女子4人組でベビー服のブランドを立ち上げる物語でした。ところが、女性たちの絆は固くて楽しそうなのに、夫たちがちょくちょく邪魔をしてくる。戦争から帰って来るや否や亭主関白をかますし、家事や育児もしないし、ベビー服の会社がせっかくうまくいってるのに、「帳簿をつけろ」「原価率を考えろ」「ビジョンを描け」などいろいろ経営に口を出してくる。で、「女たちは何もわかってない」「まったくだ!」と居酒屋に集まって愚痴をこぼしたり……。あの感じは、もはやシスターフッドにとって男は邪魔だという空気感を反映させているのかなと感じました。女子の連帯は「ひよっこ」(2017年放送・NHK総合)でも描かれていますよね。


岡室:それでいうと『カルテット』も松たか子さん演じる巻真紀と満島ひかりさんが演じたすずめちゃんの愛の物語で、男子の存在感は比較的薄かった(笑)

大山:最後の方は何もしてません、雪山で転がっていましたから。

岡室:家森さんは、前半の息子と別れて涙を流す名シーンが最大の見せ場でしたね。もちろんその後もいいシーンはありますが。

西森:『カルテット』は、ゆるい連帯が男女で描けていたのは良かったし、モラトリアム的に共同生活をしている人たちって、今までのドラマだと長い休暇みたいに描かれて、休暇が終わったら、その連帯も終わらないといけないと描かれがちなんですが、『カルテット』に関しては、それでも、あの4人の関係性が続いていくことが新しいなと思いました。

ドラマ上では男性の危機?


西森:『ひよっこ』の工場編で、ヒロインのみね子(有村架純)と乙女寮で暮らす同僚たちとの関係性の描かれ方も、シスターフッドとしてとてもよかったですね。特に、みね子が寝たふりをしている間にみね子の茨城時代からの親友の時子(佐久間由衣)と豊子(藤野涼子)が、みね子の仕事のことで言い合いになり、みね子は起きるに起きられなくなって。それがバレて喧嘩になりそうなんだけど、なんかみんな泣いてしまうという。

岡室:あそこは名シーンで、女子の気まずさから、いたわりあいに持っていく岡田さんの力量はすごかったですね。

西森:簡単に説明しきれない感情の変化が書かれていましたよね。『ひよっこ』は、みね子の母親たちの女性の連帯とか、すずふり亭で働く店主の鈴子さん(宮本信子)や、先輩ウエイトレスの高ちゃん(佐藤仁美)、隣の中華料理店の安江さん(生田智子)の連帯とかも描かれてるんですよね。

大山:最近ドラマを見ていて思うのが、表面的な対立で話をひっぱることが少なくなったなと。『スチュワーデス物語』の頃は、ライバルが出てきてヒロインの恋を引き裂いたりしていたけど、最近はそういうことが少なくなって、それは視聴者が快適さを求めているのかなと思ったけど、人と人の間にあるものを丁寧に描いたものが増えているのかなと。『架空OL日記』なんかもそうなんですけど。

西森:『架空OL日記』でも、給湯室のお茶っ葉を自分ばかりが変えているとか、そういう事件は描くけれど、それで軋轢になるという風には描いてなくて、「え?」と思うようなコミュニケーションでも、みんなで突っ込み合ってバランスをとって険悪な関係性にならない感じがすごくリアルに描かれていて。今までのOLものは、お局と若い女性社員の対立とかが描かれがちだったのに、バカリズムさんがこういうものを書いてくれて、本当にうれしかったです。

岡室:シスターフッドは近年のドラマにおいて重要ですよね。そこにドラマにおける男子の危機が見えるような気もします。例えば坂元裕二さんの「Mother」(2010年放送・日本テレビ系)で結婚も出産もせずに母になったように、男性の存在感が希薄なドラマが増えているように思うんです(笑)「逃げ恥」は星野源なしには成り立ちませんでしたけどね。

大山:魅力的でした。

岡室:でも、(石田ゆり子演じる主人公・みくりの叔母)百合ちゃん人気も凄かったですよ。最終回でも「若さっていう呪いから解放されなさい」とすばらしいことを言いました。だから百合ちゃんとみくりの関係って実はすごく大事だった。もちろん、結婚という制度がテーマだから平匡はいないと困るんだけど、星野源のあの「オレが、オレが」と主張しない雰囲気がよかったと思います。こういう、ドラマにおける男子の存在感の希薄化は、なんなんでしょうね。

大山:後景に押しやられている気がします。シスターフッドに対して、「小さな巨人」(2017年放送)や「半沢直樹」(2013年放送)などが放送されたTBS日曜劇場では、男性を描いた作品が多いですね。

西森:これまでは池井戸潤などの原作をベースにしていたけれど、オリジナルを作ろうと試みたのが『小さな巨人』。最後に視聴率16.4%を獲得していました。ただ、シスターフッドとは違って、フィクションとはいえ、男性の組織の中での働き方は、まあ大変だよなと思いましたね。もちろん、それがわかる、共感できるって人も多いわけで。

大山:「小さな巨人」には「絆」って言葉かよく出てきて、捜査一課長や元捜査一課長たちの上下の絆は不正の隠蔽のためにあって、それに対抗するのが主人公である香坂(長谷川博己)と同期の藤倉(駿河太郎)という横の絆で。横の絆で上下の絆に切り込む話として見てたんですよね。

岡室:「半沢直樹」、「下町ロケット」(2015年放送・TBS系)や「小さな巨人」などは、TBSが培ってきたノウハウの成果だと思うんです。大事にしてほしいし、ある種おじさん視聴者の最後の砦とも言えますね。テレ朝にも刑事ドラマのノウハウがありますけど。

何も目指さないヒロイン「ひよっこ」NHK朝ドラが描くヒロインの変遷


岡室:朝ドラは、ヒロインがパイロットを目指す、浅茅陽子主演「雲のじゅうたん」(1976年放送)から職業路線になりました。しかし、良妻賢母を描きながら職業婦人を目指すというヒロイン像の両立が難しい。何かを目指す割には、結婚して辞めるパターンが多くて、近年は苦戦していました。そこで「ゲゲゲの女房」(2010年放送)であっさり専業主婦になり、放送時間も8時からと変化があった。画期的だったのが「カーネーション」(2011年放送)で、家で仕事をしているのに、良妻賢母をあっさり捨てたわけです。舌打ちしながら寝転がったり、不倫までするヒロインが新しかった。「あまちゃん」(2013年放送)もアイドルを目指すんだけど、プロとしての成功がゴールじゃなかった点が新鮮でした。そして「ひよっこ」になると、今度は何も目指さないヒロインで、新しいフェーズに入った。たいていの人は何者かになりたいとは思ってない、ただ日々を一生懸命生きている、そういう部分をちゃんと描いていて素晴らしいです。

大山:映像には東京オリンピックが盛り込まれていたけれど、その割にはほとんど描かない。意図的にスルーしてますよね。

西森:むしろ、オリンピックの後に、人々が本当はどう感じて過ごしていたのか、ということを描いていまいたもんね。

大山:何者でもない人たちの日々の営みや機微を描くことが大切だという視点は、ドラマがずっとやってきたことだと山田太一さんが言ってました。山田さんは後継者と認めるほどクドカンさんが好き。「ゆとりですがなにか」(2016年放送・日本テレビ系)のように弱い人、何にもなれない人たちの日々の感情や機微を拾い上げていくのがうまい。

岡室:すごくいいお話ですね。だらだらした会話を描けるのが連ドラのいいところだと思います。何かのために会話があるんじゃなくて、ささやかな日常の、一見意味のなさそうな会話から豊かな人間関係が立ち上がってくる、そこが日本のドラマのいいところです。
ドラマ史上の大事件「逃げ恥」以降、進化のキーワードは「女子の連帯」「聞く男」座談会
「作り手の顔が見える作品が良いドラマ」と大山さん。こういう作品を作りたいという旗振り人がいると成功しやすく、反対に事務所主導のキャスティングはつまらないと視聴者も気づき始めている、とも。

2000年代のドラマと宮藤官九郎の登場


岡室:湾岸戦争とバブル崩壊で幕を開けた90年代。北川悦吏子さんが等身大の日常を魅力的に描いたけれど、テレビの画面から禍々しいニュースが流れるなかで、だんだんと日常を日常のままに描くのが難しくなっていったように思います。そこに彗星のごとく現れたのが宮藤官九郎さんです。「木更津キャッツアイ」(2002年放送・TBS系)では、主人公ぶっさんの余命宣告から始まり、草野球チームの仲間たちが怪盗団を結成します。でも、一番キラキラしていたのは、草野球のチームの何気ない会話でした。非日常的なエッセンスをいっぱい散りばめることで普通っていいよね、という思想を打ち出す逆説的な作品だったと思います。震災以降はドラマに幽霊が登場するようになり、震災という最大の非日常を経て、日常をどう描くかが問い直されてきていますね。

西森:日常を描くという傾向もある中で、これからのドラマはどうなると思われますか?

大山:「やすらぎの郷」(2017年放送・テレビ朝日系)で石坂浩二さんと浅丘ルリ子さん、加賀まりこさんが出演して注目されたように、倉本聰さんなどの超ベテランから中堅の人たちが、もっとテレビドラマで活躍できることがあるのではないかと思います。「やすらぎの郷」はドラマ単体でも楽しめるけど、出演者の過去と役柄をオーバーラップさせることで話に膨らみが出る。対照的に事務所主導のキャスティングが目立ったこの20年間では絶対に実現しなかったことですね。

清田:リアルな情報を作品にうまく取り込んでつくるフェイクドキュメンタリーが進化していくかもしれませんね。

西森:さきほど岡室さんが、「ドラマにおける男子の危機」とおっしゃってましたが、「逃げ恥」がドラマ化されるときに、ネット上で、平匡さんは誰が演じたらいいのかという候補がけっこう挙げられていて。その顔ぶれを見たら30代後半の俳優さんって、ちょっと情けなさがデフォルトとしてあるような、平匡さんを自然に演じられるようなタイプの人がたくさんいるんだなって思いました。

清田:僕は星野源や高橋一生と同い歳なんですが、世代的な特徴もあるような気がします。社会に出るときが就職氷河期だったこの世代は、かつて「ロスジェネ」とも呼ばれていて、いわゆる“男らしさの鎧”みたいなものを纏えなかった世代だと思うんです。モテて稼いで妻子を養って……という旧来的な男らしさを獲得することができなかった世代だからこそハマる役柄があったのかもしれません。先ほど岡室さんから「男性の存在感の希薄化」という話が出ましたが、そんな中にあって、最近のドラマで輝いていた数少ない男性たち──「逃げ恥」の平匡や風見、「カルテット」の別府や家森、「あさが来た」(2015年放送)の新次郎や五代といった男性たちは、「とにかく相手の話をよく聞く」というところに特徴があるように思います。

岡室:あ、たしかに聴いてますね!

清田:女性を口説くために聞くとか、聞き上手のキャラクターとかいうわけでなく、彼らは相手の言っていることに関心を持ち、じっくり話を傾ける。こういった聞く姿勢は現代的な男子像のトレンドではないかと感じています。かつてはしゃべりの上手な男や、言葉少なに背中で語る男などが求められた時代もあったかもしれませんが、今の視聴者にはあまり受け入れられないのではないか……。

岡室:それ、すごくいいポイントですね。「聞く力」。平匡さんはまさに、ですよね。他の男性には「小賢しい」と言われるみくりの話に、嫌な顔せず全力で耳を傾けます。

清田:みくりと接近していく際も、必ず同意を得てからステップを進めるんですよね。それを“童貞の自己防衛”と見る向きもありますが、あれはむしろ“人権意識の高さ”ではないかと感じます。そう言う意味で平匡はすごく近代的な人だと思う。それで言うと、「バイプレーヤーズ」(2017年放送・テレビ東京)の男性たちも、話を聞くし家事もするしと先進的な男性像だったように思います。彼らは芸能界という超男性社会の中で揉まれてきた人ではあるけど、脇役という権力を持たない人たちの集まりという点が、嫌な感じのホモソーシャルになっていなかった理由のひとつかなと。

大山:「真田丸」(2016年放送・NHK総合)もそんな感じでしたね。

清田:あの弱さやつらさを知っている人たちの連帯は、男子に残された唯一の道かもしれません。

岡室:そういう意味で言えば、「カルテット」は、満島ひかりと松たか子の愛の物語だったかもしれないけど、なぜ松田龍平と高橋一生が必要だったのかがわかってきますよね。

清田:あのドラマでは男子二人が料理したりお皿を洗ったりというシーンを繰り返し映していたけど、あれは絶対に意図的な演出ですよね。

岡室:今日のテーマは、昨今のドラマにおける男性の危機だと思っていたけれど、聞く力という新しいサバイバルのための手がかりが確認できてよかったです。存在感が希薄に見えても、存在意義はむしろ増しているのかもしれません。

清田:平匡や別府や五代たちは、さらに、話を聞くだけじゃなく、相手の言葉に影響を受け、自分を変化させることができる男性ですよね。そこがカッコイイ。
岡室:それ大事ですよね、変われる男子。つまらないプライドに拘泥しないで、やわらかく変化していく。
西森:これから「聞く人が出ているドラマがかどうか」の視点で見るというのもありそうですね。

一歩先をいく海外ドラマ


清田:これは「ポリコレ」にもつながる話だと思いますが、そういう部分で言えば、Netflixの海外ドラマなどは圧倒的に先を行ってるなって感じがします。僕は「LOVE」と「easy」(ともに2016年、Netflix)というドラマが大好きなんですが、そこでは例えばレズビアンカップルの失恋が単なる一つの失恋模様として描かれているし、ピルもタバコも宗教も女性の自慰行為も、ことさら特別なこととしてではなく、ごくナチュラルな要素として描かれている。登場する男性たちもやはり進歩的です。そういう点において、日本のドラマは今後どうなっていきますかね?

西森:「カルテット」にしても、「ひよっこ」にしても、企画書に「こういうドラマですよ」って始まる前からキャッチコピーを書いて、会議に出席している人を納得させるドラマじゃないと思うんですよ。でも、さっきも「ひよっこ」の乙女寮のシーンでも言いましたが、一言で説明できないような、あいまいな表現の中に、ぐっとくるシーンがあったりもする。そういうドラマって良さが伝わるまでに時間がかかって視聴率がすぐに伸びたりしないこともありますけど、「ひよっこ」なんかは、峯田和伸さんが演じる宗男おじさんの戦争にいったときの秘密が語られる、一番このドラマの言いたいことが詰まっていた回が最高視聴率の21.4%をとったりもしました。わかりやすく刺激的なエピソードに頼らなくても、ちゃんと見ている人は見ているんだということがわかったことは希望だと思います。

大山:一進一退な気もします。「カルテット」でさえもラブサスペンスというキャッチフレーズを掲げることで視聴者に食いついてもらいたかった。でも、実際はもっと.デリケートなことを表現していますね。

西森:楽しくたくさんの人に見てもらうことをちゃんと意識しながら、表現していくことを「逃げ恥」の野木さんはきちっとやりきってますしね。

俳優や脚本家、ドラマの歴史、ストーリー考察、キャラクター分析と、2時間では語り尽くせないほど白熱したイベントとなった。
高視聴率を叩きだす作品や、数字には反映されなくても放送中にSNSで盛り上がる作品と、視聴スタイルも変わりつつある中で、ドラマはもっともっと面白くなりそうだ。

(柚月裕実)

TBSラジオ「文化系トークラジオLife」
偶数月・第4日曜日25時〜生放送。AM954/FM90.5ラジコ、ツイキャス、Ustreamでも生配信
ドラマ史上の大事件「逃げ恥」以降、進化のキーワードは「女子の連帯」「聞く男」座談会
「あなたのことはそれほど」で、不倫相手の有島に「趣味を持て。俺に会えない時用に」と言われる美都。西森さんは、不倫ということで、有島は、自分にかかる比重がかかったり、自分の時間が削られるのが嫌でなのではないか、と語る。

【プロフィール】
西森路代
「文化系トークラジオLife」crew/ライター
1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣OL、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子について主に執筆。共著に「女子会2.0」(NHK出版)がある。

岡室美奈子
早稲田大学文学学術院教授/演劇博物館第八代館長
三重県生まれ。アイルランド国立大学ダブリン校にて博士号を取得。専門は現代演劇研究、テレビドラマ批評。著書に、『ベケット大全』(白水社)、『サミュエル・ベケット これからの批評』(水声社)、『六〇年代演劇再考』(水声社)などがある。

大山くまお
ライター/編集者
1972年生まれ。愛知県出身。「名言ハンター」としても活躍。著書に『「がんばれ!」でがんばれない人のための”意外”な名言集』(ワニブックス)、共著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(文春文庫)他多数。

清田隆之
ライター/桃山商事代表
1980年生まれ。東京都出身。恋バナ収集ユニット「桃山商事」の代表として、主に男女のすれ違いについて研究。「日経ウーマンオンライン」や雑誌『精神看護』などでコラムを連載。著書に『大学1年生の歩き方』(トミヤマユキコとの共著/左右社)。桃山商事の新刊『生き抜くための恋愛相談』(イースト・プレス)が9月に発売。