福田康夫からさかのぼり、四代続けて首相を生み出してきた自民党の最強派閥「町村派」(旧森派)。他の追随をゆるさないこのキングメーカー集団が今、自らの肝を冷やすスキャンダルに見舞われようとしている。

「派閥会長の町村信孝官房長官や森喜朗元首相は、文教族(文部行政に多大な影響力を持つ国会議員)のドンたち。そのお膝元の文部科学省で有力幹部OBが逮捕されたものだから、『捜査は、さらに広がるのか』と官邸サイドが探りを入れています」(政治部記者)

 しかも摘発に動いたのは、「時の政権に逆らうことは絶対ない」(同)といわれてきた警視庁だったことから、さらに波紋は広がったようだ。調べによると、逮捕された文科省文教施設企画部の前部長・大島寛容疑者は、ゼネコン「五洋建設」の子会社「ペンタビルダーズ」顧問・倉重裕一容疑者から300万円近い現金を受け取った疑いをかけられている。事件のポイントは、大島の所属する「文教施設企画部」にあるという。

「この部署は、小学校から大学まで、全国のありとあらゆる学校施設の建設プランを練り上げ、予算付けをするところ。最近の主なプランを見ると、国立大学の研究施設に耐震性を持たせるためのリフォームの10年間の予算がなんと2兆8000億円。

このほか、全国の小学校や中学校を対象に、アスベストの除去事業なども計画し、こちらの予算も1兆円近く見込まれています。ひた隠しされてきた巨大な文教利権なるものが、ここに眠っているんです」(文科省クラブ詰め記者)

 そんな状況下でご多分に漏れず、文科省にも受注業者間の談合を取り仕切る天下り団体が存在していたようだ。

「社団法人『文教施設協会』です。会長の有馬朗人は元文科大臣だからいいとして、副会長には日立製作所常務や新日鉄のグループ会社副社長が就任。128社を数える会員にはゼネコンや設備業者、学習机から体育館の跳び箱業者まで、学校施設業界のありとあらゆる業者が加入しています」(同)

 この協会の常勤理事には、歴代の文教施設企画部長の天下りが定番。しかも、今回逮捕された倉重容疑者はこの協会の「会長秘書」の肩書を持ち、同協会を舞台に業者間の受注調整に奔走したとみられている。

 そして文教施設企画部が狙われた理由は、もうひとつあるという。

「文科大臣直下の大臣官房の中に組み込まれているため、政治家の口利きが横行しやすいんです。たとえば、ある自民党大幹部は文科大臣時代に、アスベスト問題を記者団に尋ねられると、待ってましたとばかりに『教育上速やかに対処しなくちゃいかん』と言いだして、実態調査もせずに、ポンと1000億円近い緊急予算をつけてしまった」(同)

 こうした政治家の口利きが横行する大臣官房に果敢に切り込んだのは、警視庁の刑事部捜査2課。「ナンバー」と呼ばれる汚職専門の捜査班を投入し、官僚汚職から永田町への口利き疑惑まで、洗い出しを進めているようだ。

「ナンバーの中には、旧厚生省事務次官の岡光序治を6000万円のワイロ受領で逮捕した敏腕捜査官たちが多く所属し、東京地検特捜部も舌を巻くほどの精鋭揃いなんだ。しかも2課長のWさんは、タブー視されてきた同和利権の頂点に立つ食肉業者『ハンナン』の浅田満を逮捕した張本人。

そんな経歴を知って、官邸もヒヤヒヤし始めたようだね」(警視庁クラブ詰め記者)

 捜査2課といえば、政権中枢を狙いすました事件に突然着手することがあり、官邸を慌てさせてきた過去がある。

「04年9月には、“文教族のドンの中のドン”である森元首相が会長を務める財団法人『世界青少年交流協会』の幹部5人を、補助金詐取の疑いで逮捕しているんだ。あのときは、最高責任者の森本人も取り調べを受けるのではないかと囁かれ、一時期、騒然としたもの。警視庁には官邸の圧力がもろにかかり、取り調べは見送られたようで、あのときの悔しさを捜査員たちは今も忘れてはいない」(同)

 文科省汚職に対する捜査の手は、はたしてどこまで伸びるか。警視庁のお手並み拝見だ。 (編集部)

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