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インタビュー

平井 堅

ヒライ ケン

平井 堅

テージにはちょくちょく立っていたし、『歌バカ』は依然として売れ続けていたものの、シングルに関しては昨年6月の『バイマイメロディー』以来音沙汰なし……。かと思えば明けて2007年、いきなり2ヶ月連続リリースである。「去年ノンビリしたのが今年のパワーになるというか、ジャンプする前に屈んでいたような感じ」との本人の説明に納得々々。しかも相次いで登場するシングル――『哀歌(エレジー)』『君の好きなとこ』――は、ほぼ同時期に綴られ、ナマ音主体のプロダクションはどちらもお馴染みの亀田誠治によるものだが、人格がまるで違うのである。まさにコインの表裏。並べることによってお互いを引き立てる、陰と陽。「二部作と呼んでも過言じゃない」と彼は言う。誕生した経緯も対照的だ。まずは、すでに話題騒然の映画『愛の流刑地』の主題歌『哀歌(エレジー)』から振り返ってみよう。インパクトにおいては『楽園』『大きな古時計』『瞳をとじて』『POP STAR』に匹敵するこの曲が、彼のアーティスト像に新しい局面を加えたことは間違いない。ま、こんな曲を歌いこなせる人は平井堅くらいしかいないのだが。
 久々のマイナー・コードが醸す陰影、ウエットな耳ざわり、タイトルを含めて昭和レトロの和テイスト、でもって初の女言葉!かといってギミッキーな部分は一切なく、文学的な薫りさえ漂う。サウンドもリリックもこれまでの平井堅のヴォキャブラリーにはなかったタイプだけに、きっと抵抗を覚える人もいるだろう。それに『愛の流刑地』はご存知の内容のR15映画。少なからずリスクもあったわけだが、彼は原作と脚本を読んですぐさまインスピレーションを膨らませ、自分の枠から飛び出せるチャンスに飛びついた。しかも、当初は『君の好きなとこ』と併せて1枚のシングルに収める予定だったものを、自らスタッフを説き伏せる形で単独リリースに至ったという。「女性の情念を描いた曲をやりたいなという意識は特になかったんです。それを映画にうまく引き出して頂いて、やっていくうちにどんどん面白くなりましたね。男性が女性目線の歌を歌うケースは特に珍しいわけじゃないから、13年も歌ってきてやってなかったのが不思議なくらいですね。映画は男性の目線に貫かれているんですが、テーマは冬香というヒロインの激情だったり、愛に生きた彼女の人生だと思って、完全に冬香に感情移入して曲を書いたので、ある意味で冬香が憑依していた感じ。マイナー・コードの哀愁を漂わせる中島みゆきさんとか椎名林檎ちゃんに、曲を書き下ろしてるような気持ちでした(笑)」。
 聞けば、当初はもっとヘヴィな言葉をちりばめて、“やりすぎ”と制止されるほどなりきって(・・・・・)いたとか。「歌ってる時だけでも酔いしれていられるというか。僕は社会の枠組みの中でちっちゃく生きてるので(笑)。愛の絶頂に殺して欲しいというセンセーショナルな感情だったり、冬香みたいな感覚を持ち得ないだけに、直情的な人間になれるのが楽しいし、役者に近い快感がありましたね。本当にタイアップの醍醐味です」。
そんな新境地を開いておきながら、2月28日に登場する『君の好きなとこ』ではまた一転、メジャー・コードのポップ路線に移行。甘酸っぱいラヴソングで中和する。『エレジー(哀歌)』とは逆に超天然型。「久しぶりにアーティスト欲丸出しで書いた曲で、誰かに気に入られようとか、売れ線を狙おうという意識が全くなくて、本当にピュアに出来上がった。“これぞやりたかったもの!”と言える曲なんですよ。歌詞で引っぱるポップスが好きで、多分この曲も歌詞を聴かない人にはきっと届かない。タイトルも、サビで羅列する感じも、ラストの落とし込みも頭の中にぱっと浮かんで、その瞬間がうれしくて、それをそのまま具現化しただけのこと。とにかくキュンキュンして欲しいし、ぜひ告白ソングとして歌って欲しいですね(笑)」。
つまり『哀歌(エレジー)』と『君の好きなとこ』には、クリエイティヴな意味で彼に大きな充実感を与えた、それぞれにキャラが濃い曲だという共通項がある。話をしていても、セールスはどうあれとにかく世に出したい!という熱い思い入れが伝わってくる。また彼はこれら2曲を語る時に、“回り道”という言葉を度々使った。そこには『瞳をとじて』以来シングルでは歌っていない、バラードを巡る葛藤があるようだ。例えば『君の好きなとこ』のカップリング曲『美しい人』こそ、言わば無難なバラード。でも敢えて脇役に据えてひとつの意思表示をしている。「拒絶してばかりいても良くないけど、やっぱりバラードの波及力の大きさと怖さを体感した人間だから、乱発はしたくない。すべきじゃないと思うんですよ。ぶっちゃけ、凡庸なバラードはいつでも作れる。どうせなら焦らずに、一番いいタイミングですごくいい曲を作りたい。それまでのいい意味での回り道は、もう少し遊んでいたいな、新しい側面を出したいなと思っていて。だから“平井堅=バラード”のイメージに反抗していると言うより、逆に大切にしてるのかもしれないですね。薄ぬるいバラードを出して適当なセールスを稼ぐよりは、もっとチャレンジしてこけるほうがマシ」。
 ……と、いつになく挑戦的な言葉を吐く彼。あまりに両極端な2曲を突きつけられて、“この先どうするつもりなんだろ?”と戸惑う人も多いはずだが、それもまた計算済み。「攻めの一年」を掲げる2007年の平井堅は、いたって強気なのである。

文/新谷洋子

NEW RELEASE

『君の好きなとこ』
New Single
『君の好きなとこ』
発売日:2007/02/28
DFCL-1341
価格:¥1,223(税込)
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