レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーが自身のトランペットを中心に据えたアルバム『Honora』を作った時に、インスピレーションとして挙げていたのがミシェル・ンデゲオチェロの『The Omnichord Real Book』と、ジェフ・パーカー & ETA IVtetの『The Way Out of Easy』だった。前者はサックス奏者のジョシュ・ジョンソンがプロデュースした作品で後者はジェフ・パーカー率いるバンドのアルバムだが、その両方にジェフとジョシュが参加している。
さらに『Honora』には、この二人に加え、同じくETA IVtetのメンバーであるベーシストのアンナ・バターズも起用され、中核を担っていた。

そんなふうにフリーすら魅了したETA IVtet(イーティーエーカルテット)は近年、世界中のメディアで絶賛されている。ジェフ、ジョシュ、アンナにドラマーのジェイ・ベラローズを加えた彼らの特徴は完全なる即興演奏。1曲15分から25分くらいの長尺の即興演奏を行い、その中で曲が少しずつ変化しながら、ひとつの物語を紡いでいく。それは事前にも決めていないし、途中で話し合ったりもしない即興なのだが、まるで既存の曲を演奏しているように感じさせる瞬間が何度もある。彼らは演奏しながら音で対話しながら曲を組み立てていく。そのマジカルといってもいい光景に多くのアーティストが賞賛を送っている。

今回、新作『Happy Today』のリリースに合わせ、リーダーのジェフ・パーカーに取材を行った。ETA IVtetがどのように生まれたのか、そして、この特殊な即興演奏にはどんなコンセプトや意図が共有されているのか。『Mondays At The Enfield Tennis Academy』(2022年)、『The Way Out of Easy』(2024年)に続く新作『Happy Today』は、過去の2作よりさらに洗練された作品だ。もはやその音楽性が極まった感もあるETA IVtetの全貌をたっぷり語ってもらった。

ジェフ・パーカーが語る究極の即興演奏論 ETA IVtetで実践する「静的な空間の探究」

ETA IVtet:左からアンナ・バターズ(Ba)、ジェイ・ベルローズ(Dr)、ジェフ・パーカー(Gt)、ジョシュ・ジョンソン(Sax)

自分たちの演奏場所を自分で作る

―LAのバー「ETA」で2016年から始まった月曜レジデンシー公演が、ETA IVtetのスタートになったそうですね。
ETAでの公演はどんなきっかけでいつ始まったんですか?

ジェフ:最初に始まったきっかけは、当時僕がまだLAに来たばかりで、知り合いもほとんどいなかったからなんだ。だから、とにかく自分で何か色々やりたいと思って、ETAのオーナーだったRyan Julio(ライアン・ホリオ)に毎週月曜日にここで演奏させてくれないか頼んだ。それで、ベースにアンナ・バターズ、ドラムにジェイ・ベルローズを誘ったんだ。ジョシュ・ジョンソンは最初はただのリスナーというか、ファンみたいな感じでよく聴きに来ていて。それで、そのうちサックスを持っておいでよ、って声を掛けるようになった。そこから毎週演奏するようになって、最初はビバップみたいなジャズ・スタンダードを中心にやっていたんだけれど、次第にオーネット・コールマンの曲だったり、もっと自由に即興へと開いていけるような音楽を演奏するようになっていったんだ。僕にとって音楽がより面白くなってきたのは、まさにその頃だったね。ETAで3~4年ほど続けた頃には、もうあまり決まりきった構造に頼らず、本当に自由に即興で演奏するようになっていたよ。それ以降は、コード進行や構成の上で演奏するというよりも、即興そのものにフォーカスしたバンドにしていこうと考えるようになっていったんだ。

—オーネット・コールマンの曲をやり始めたのは重要な変化だったのではないかと思いますが、どんなきっかけがあったのでしょうか?

ジェフ:このバンドは、もっと伝統的なジャズのスタイルで演奏するよりも、構造の少ない音楽をやる方がしっくりきていたんだよね。メンバーそれぞれのバックグラウンドもかなり違うし、その方が僕たちにとってずっと自然に演奏できる場所なんじゃないかと思ったんだ。正直に言うと、いわゆるストレートアヘッドなジャズをやろうとすると、グループとしてはむしろぎこちなさがあった。
だから、僕の判断としてはメンバー全員がもっと心地良く即興できる場所を探した、という感じかな。それと、実際こちらがリラックスして演奏できている時の方が、オーディエンスの反応もずっと良かったんだよね。

2018年、ETAでのライブ録音

―あなたはシカゴにいた頃、Rodanというレストランでも長い間レジデンシー公演を行っていたと思います。Rodanではどんなことをやっていたのか聞かせてもらえますか?

ジェフ:Rodanでも、最初に演奏していた頃はかなり似通った状況だったね。その時は、以前ジェイミー・ブランチのバンドでも一緒だったベーシストのジェイソン・アジェミアンと、日本出身で、今は福岡に住んでいるドラマーのノリ・タナカ(田中徳崇)と一緒にやっていたよ。そこで僕たちは、ETA IVtetにも通じるような即興のやり方を探っていたんだ。というのも、Rodanは当時とても賑やかな場所で、とにかく店内も騒がしかったから、観客の注意を奪い合うような演奏をするより、その場の空気に溶け込むような音楽を作ろうと考えたんだ。だから、長尺の即興演奏が多かったし、かなりアンビエント寄りの、反復を活かした音楽を追究していた感じだった。つまり、ETA IVtetでやっていることの土台のようなものは、既に Rodanの頃から始まっていたんだ。あの頃から、長尺の即興演奏を続けていたんだよね。

—なるほど。その会場がどういう店かということが、やっていた音楽に影響を与えていたということですよね。


ジェフ:うん、間違いなくそうだね。ああいう環境だったからこそ、僕たちにとってはもっと自由に探求できる場所になったんだと思う。正直、人からそこまで注目されていないと感じると、プレッシャーも減るし、もっと思い切ったことができるんだよね。いわゆるステージ上で演奏している感覚とも違ったし。だから、自分たちにとって正に実験が可能な場になっていたんだ。

—つまり「Rodan」「ETA」とそれぞれの土地に自身の拠点となるスペースを見つけて、そこでレジデンシーを行ってきたわけですよね。レジデンシーという形で同じ場所で定期的に自分自身のプロジェクトで演奏し続けることは、あなたの音楽にどんなものをもたらしてきましたか?

ジェフ:ETAはいつも居心地の良い場所だった。なんというか、ほとんど”家”のような感覚だったね。新しいことを試したり、色々発展させたりできる場所だったし、観客も含めたコミュニティを育てていける場所でもあったんだ。実際、毎週同じ人たちが聴きに来てくれることも多かったんだよね。毎週演奏できる場所を持つということで僕がいちばん好きだったのは、やっぱり人が集まるコミュニティを作れたことかな。みんなが集まって、ポジティブでクリエイティブなエネルギーを共有できる場を作る、というか。
僕にとって、それは人生の中でとても大事なことなんだ。それに、コミュニティ全体にとっても重要なことだと思う。創造的な音楽を中心に人が集まれる場所というのは、本当に貴重な存在だからね。特に、僕が住んでいるLAのイーストサイドには、当時そういう場所が欠けていた。だからこそ、あの場所には大きな意味があったと思う。

—シカゴにいたRodanの頃は、自分がいたコミュニティの延長で始められたけれど、ETAの頃はゼロからコミュニティを作ったわけですよね。コミュニティを作ることもレジデンシーを始める目的のひとつにあったんですか?

ジェフ:そうだね。ただ、LAのコミュニティというか、ETAの周りにできた流れは、本当に自然発生的なものだったんだ。別に”コミュニティを作ろう”と思って始めたわけじゃなかった。ただ、僕はシカゴでの経験を抱えたままLAに移ってきていて、その影響は大きかったんじゃないかな。シカゴ時代のメンターのひとりに、偉大なテナーサックス奏者のフレッド・アンダーソンがいた。彼はAACM(Association for the Advancement of Creative Musicians)の創設メンバーのひとりで、僕もAACMのメンバーなんだよね。
フレッドはシカゴでVelvet Loungeというヴェニューをやっていて、それもまさに同じようなストーリーを持っているんだ。彼はシカゴでなかなか演奏の場をもらえなかったから、自分で演奏する場所を作ったんだよ。でも、自分の場所を作ったことで、自然とほかのミュージシャンたちもそこに集まるようになって、結果的にコミュニティが生まれていった。僕はそのことを、フレッドから学んだんだと思う。

だから、ETAで演奏を始めた時も、単純に自分が演奏できる場所がほしいという気持ちだった。コミュニティを育てようという意識が最初からあったわけではなかったんだ。でも、もしそういう場所がその街に欠けていたら、人は自然とそこに集まってくるんだよね。やっぱり、そういう場は僕たちにとって必要なものだから。

—あなたはスーパースターなので、世界中の優れたアーティストから声が掛かっていろんなところで演奏することもできるわけですよね。そこであなた自身がハブのような役割になって、自分のコミュニティをしっかり作ったりすることが大事なのかもしれないですね。

ジェフ:う~ん、まあ、ある意味ではそうなのかもしれないね。自分のホームにいるのは居心地が良いし(笑)。
でも、自分がハブになっているという感覚はないかな。どう答えれば良いかちょっと難しいね。ただ、僕はミュージシャンとして生きてきたし、それが僕の生業でもある。音楽学校にも行って、譜面を読むとか、プロとして生活していくために必要な技術も学んだ。でも、同時に、自分のやっていることは”アート”でもあると思っているんだよね。昔から音楽への好奇心がとても強くて、最初に音楽に惹かれたきっかけも、父親のレコードを聴いたことだった。そのレコードを聴いて、自分も演奏したいと思うようになったんだ。それに、僕はもともとレコードそのものが好きだったから、そこからヒップホップにも入っていった。ヒップホップは、レコードを使って音楽を作る文化でもあるからね。レコードを収集しているうちにDJもやるようになって、さらにヒップホップのプロダクションにも関わるようになったんだ。

でも、当時の僕はただ”音楽家として仕事をしている”という感覚だったんだよね。自分のやっていることを見て、若い世代のミュージシャンたちが影響を受けたり、自分のキャリアの参考にしてくれたりしているなんて、あまり意識していなかった。でも、そういうことは本当に意味のあることだと思う。だから、”ハブ”という言い方をするなら、それは何かの中心になろうとしているというより、芸術的な人生を生きようとしている、ということに近いのかもしれない。そうやって生きている姿が、見ている人たちにとってひとつの例になることがあると思うから。実際、僕のメンターたちも僕にとってはそういう存在だったからね。

—「Rodan」「ETA」もレストランもしくはパブのような場所ですよね。ライブハウスではなく、そういった場所であなたのような実験的な音楽のレジデンシーが行われるのはアメリカではよくあることなのですか?

ジェフ:うん。まさにそうだね。クリエイティブ・ミュージックの伝統は、結局のところ、ミュージシャン自身が自分たちの演奏場所を作ったり、見つけたりしなければいけないというところがある。少なくとも僕が見てきた中では、そういうことをしているのは、やはり創造的な音楽をやっているミュージシャンたちなんだよね。彼らは演奏できる機会や場所があれば、どこでもプレイする。それに、そういうヴェニューは、必ずしも整った場所とは限らないんだ。むしろ、まだ確立されていないような場所であることも多いね。

ETA IVtetが探究する「静的な空間」

—ここからはETA IVtetについて聞こうと思うのですが、まず「長尺の即興演奏」だけでいこうとバンドの方向性を決めたきっかけはありましたか?

ジェフ:僕としては、その頃がバンドとしていちばんインスピレーションを感じていた時期だったと思う。正直に言うと、フリー・インプロヴィゼーションを探求し始めてから、初めてこの音楽は本当に面白い、と感じるようになったんだよね。それに、僕が信頼している友人たちや、尊敬できる意見を述べている人たちがライブを観に来て、「君たちがやっていることはかなりユニークだよ。もっと掘り下げるべきだ」って言ってくれたことも大きかった。そういう反応を聞いたり、実際に観客が僕たちの音楽にどのように反応しているかを観察したりして、じゃあ、この方向にフォーカスしていこう、と思うようになったんだ。

『The Way Out of Easy』(2024年)

—今のETA IVtetがやっているのは「長尺の即興演奏」で、作曲のクレジットは4等分されています。即興をする際に「何かしらのアイデアやフレーズなどの事前に用意してきて共有するもの」「方向性や世界観など、事前にメンバー間で決めておくもの」はあるんですか?

ジェフ:いや、音楽について話し合うことはまったくないね。これまで一度も話したことがない。ただ演奏を始めて、そこで何が起こるかを見る。それだけなんだ。

—それは最初からですか?

ジェフ:まだ特定の曲やコンポジションを中心に演奏していた頃は、今日は何をやろうかという話はしていたね。たとえば週の前半に、今週はこの曲をやってみようかとか、このチューンを見直してみようとか、そういうやりとりはしていたよ。だから、ETAに行く時には、ある程度その日演奏しようと考えているものがあったんだ。でも、即興演奏をやるようになってからは、本当に一度も話し合ったことがないね。まったく何も決めずに始めるんだ。

—誰から始まるとかも決まっていないんですか?

ジェフ:時には順番に音を出していくこともあるけどね。誰かが始めて、なんとなく順番に次の人が音を出していくみたいな。アンナが始めることもあるし、ジョシュ、あるいはジェイが始めることもある。時には全員同時に始めたりもするけど。

ジェフ・パーカーが語る究極の即興演奏論 ETA IVtetで実践する「静的な空間の探究」


ジェフ・パーカーが語る究極の即興演奏論 ETA IVtetで実践する「静的な空間の探究」


—長尺の即興演奏は、最初は抽象的なものだったり、上手くまとまらなかったりみたいなこともあったのかもしれないですが、今のネット上にある動画や作品を聴いていると、すごくまとまりのある、完成したものに聴こえます。自分たちの音楽が成熟していく過程や、完成していく課程について聞かせてもらえますか。

ジェフ:もちろん。やっぱりETAでほぼ毎週ずっと演奏してきた時間の中で、僕たちはお互いを信頼する感覚を学んでいったんだと思う。それに、このカルテットは即興する時も”作曲的”に考えているんだよね。ただ衝動的に反応し合う、という感じではなくて。たとえば、ひとつのアイデアを出したら、それをすごく長い時間ずっと繰り返すこともある。そうすることで、ある種の心地良さというか、安定した瞑想的な空間が生まれてくるんだ。そこから少しずつ動き始めて、そのアイデアから離れていく。基本的なコンセプトとしては、まずアイデアを提示して、それを定着させて、反復する。そして、グループとしての感覚やヴァイヴが定まってきたところで、そこから変化していくという感じかな。そういう考え方で即興をやるには、やっぱり時間が必要なんだ。というより、むしろ”長く続いていくこと”自体が重要なんだよね。

僕はよく、「ETA IVtetは静的な空間(static space)を探求している」と言っているんだけど、それは、ものすごく起伏の激しい音楽というよりも、もっと平坦(flat)な風景の中で少しずつ物事が動いていくような感覚だね。いわゆる、ピークと谷が連続するような展開ではなくて、もっと平坦なランドスケープを探っていく感じ。それは、自分がヒップホップのプロダクションに関わってきた経験とも繋がっていると思う。同じものを長い時間ずっと聴き続けることで、作り手としても、聴き手としても、ある種の瞑想的な状態に入っていく感覚があるんだ。それと、ジェイのスタジオ・ミュージシャンとしての経験から来ている部分も大きいと思う。彼の感覚には、全体を均一に保つことへの意識があって。もちろん、音楽の中にはダイナミクスはあるんだけれど、ものすごく大きく上下するというよりは、比較的狭いダイナミック・レンジの中で変化を作っていくという感覚かな。

—そのフラットでスタティックな演奏で、ダイナミズムが少ない演奏というのは、言うのは簡単ですが実際にやると難しいですよね。それをやる上で、特に意識していることはありますか?

ジェフ:そうだね。僕たちは本当に”あるゾーン”に留まり続けることを目指しているんだ。それはかなり意識的にやっていることだね。ETA IVtetについて僕がよく言っているのは、僕たちは即興している時でも、すべてに強い意図を持って演奏している、ということなんだ。つねに考えながら演奏している感覚がある。だから、多くのフリー・インプロヴィゼーションのように、瞬間的・反射的に反応し合うタイプとは少し違うんだよね。僕たちの意図としては、全体をなるべくフラットに、一定の状態に保つことにあるから。もちろん、その中で観客がすごく盛り上がる瞬間もあって、特にジェイがビートをドロップする瞬間なんかは、みんな本当に沸くんだ。彼は、ある意味コメディアンみたいなんだよね(笑)。ジョークを語って、最後にパンチラインを落とすみたいに、絶妙なタイミングでビートを入れる。すると観客が『おおっ!』ってなるんだ(笑)。

—ETA IVtetが目指しているのは、同じムードやゾーンに入っていて、それを変えずにキープすることだと。だとしたら、そのヴィジョンを共有できるようなメンバーを集めたとも言えますか?

ジェフ:うん、でもそれは最初から意図していたわけではなかったんだ。ただ、僕たちの演奏スタイルには、僕のプロジェクトであるザ・ニュー・ブリードの影響がかなりあると思っているよ。ジョシュはニュー・ブリードの重要なメンバーだし、ジェイもアルバムに参加している。ニュー・ブリードの音楽は、僕自身が作曲をしているんだけど、その出発点になっているのは基本的にはループなんだよね。サンプリングされたループとか、ドローンのようなもの。それに、ジョシュがサックスにエレクトロニクスを取り入れ始めたのも、ニュー・ブリードのグループの中で起こったことだった。そういうニュー・ブリード的な美学が、だんだんETA IVtetの即興のやり方の中にも入り込んでいったんだと思う。

—あまりダイナミクスがなくて、ずっとステイするみたいなところに魅力があるのは分かるんですが、とは言え結構ダイナミックにいきなり変化するのも特徴ですよね。長い時間の中で完全に別の曲になる瞬間もあります。その大きな変化にもみんなで同時に着いていくと思うんですけど、その大きく変化するみたいな瞬間については、どう考えていますか?

ジェフ:僕たち自身は、そこまで意識的に『ここで変化させよう』と考えているわけではない。変化はもっと自然におきていくものだからね。もちろん、その一部は観客のエネルギーに反応している部分もある。僕たちはライブ・バンドだと思っているし、ETAバンドのコンセプト自体も、ステージの上というか、実際に観客の前で演奏する中から生まれてきたものなんだ。それにはすごくはっきり感じた経験があって、最新作の『Happy Today』を作る前に、僕のスタジオで観客なしの状態で演奏したことがあったんだよね。その時の結果も悪くはなかった。でも、本当に音楽が生き始めたのは、観客の前で演奏した時だったんだ。だから、君が言っていたような、ダイナミクスが変化していったり、途中でまるで別の曲みたいに聴こえてきたりする感覚というのは、かなりの部分が観客の前で演奏し、そのエネルギーを感じながら反応していることから生まれているんだと思う。

即興演奏で大切なのは「信頼と忍耐」

—ところで、ETAは、他の人の演奏に素早く反応するタイプの即興ではないわけですよね。他の人の演奏を聴きながら反応せずに一旦待って、自分の音をじっくり出すようにする、つまり急いで音を出さないようにしていると。つまり、他の人の演奏を音を出さずに聴く時間さえあるわけです。そういう態度は、ずっとジャズをやってきた人たちからするとかなり特殊で、それはそれで簡単ではないような気がするんですけど、どうですか?

ジェフ:それはすごく僕たちらしい特徴だと思う。僕たちの即興のやり方は、結局のところ信頼と忍耐に基づいているんだよね。本当に、その2つなんだ。信頼と忍耐。誰かが何かを提示した時に、他のメンバーがそれに反応して、適応してくれることを信じて待つ必要がある。できるだけシンプルに言うとすれば、恐らくそれに尽きると思うな。

—ETAのライブ動画を観るとアイコンタクトもほとんどなくて、特にあなたはずっと下を向いたまま演奏しています。もはや見なくて良いことと、じっくり音を聴いてから自分の音を出せばいい、ことは関係していそうですね。

ジェフ:うん。言葉でやりとりする必要はあまりないんだよね。僕たちはちゃんと聴いているから。もちろん、僕自身はペダルも見ているからね。足元のペダル・ボードをいじりながら、音を変化させたりもしているしね。でも、基本的にはひたすら聴くことが重要なんだ。お互いの音を注意深く聴いて、待つ。このバンドのかなり大きな部分は、互いの音を聴き合うこと、待つこと、その2つに支えられていると思う。

—我慢するというか、すごくじっくりと演奏する経験をしたことは、自分の音楽にどんな影響を与えていると思いますか?

ジェフ:ETA IVtetは、僕がやっている様々な活動の中でも、かなり独特な存在なんだ。本当にユニークなグループだと思う。ただ、自分の作曲のアプローチがETA IVtetの音楽の作り方に影響を与えている部分の方が、ETA IVtetが僕の他の音楽に影響を与えている部分より大きい気がするね。でも、結局のところ、それらはすべてひとつの音楽世界というか、ひとつのコンセプトやアプローチの一部なんだと思う。恐らく、キャリアのほとんどを通して僕が育て続けてきたものなんじゃないかな。つまり、電子機器やテクノロジーから生まれる音楽を使いながら、そこから人間的な音楽を作ろうとしてきた、というか。

さっきも言ったけれど、僕がヒップホップに強く惹かれた理由のひとつは、テクノロジーや録音メディアを使って新しい音楽を生み出していたところなんだ。従来のように、楽器を演奏するのとは違った、とても非伝統的な音楽の作り方だった。僕は子どもの頃に音楽を始めた時から、ずっとそういったものに興味があったんだよね。だから、自分のキャリア全体を通してやろうとしてきたことというのは、結局は型にはまらないやり方で音楽を創ることなんだと思う。

—あなたは実験的なソロギターのアルバム『Slight Freedom』『Forfolks』の2作を過去に制作しています。ひとりで演奏したアルバムを制作したり、そのために試行錯誤した経験はETAでの即興演奏に何かしらの新しいアイデアやヴィジョンをもたらしたと思いますか?

ジェフ:うん、まさにそうだね。さっきも言ったけれど、僕自身……特にジョシュと一緒に、ループ・ペダルやサンプラー、デジタル・ディレイみたいな機材をかなり使っているんだ。そういう電子機器を使うことで、自分たちの演奏を録音して反復したり、音を重ねたりできる。たとえば、自分で演奏したものを録音して、持続的な音の風景のようなものを作って、その上でさらに演奏を重ねることができるんだよね。それは、僕がソロ作品でつねに探求してきたことでもある。最初にそういう実験を始めた頃は、どちらかというとアンビエント・ミュージックを作りたかったんだ。たとえばブライアン・イーノやハロルド・バッドみたいな感じの。でも、やっていくうちに、そういう音の環境を作った上で、さらにその上に即興を乗せられることに気付いたんだ。あるいは、それを新しい音楽を作曲するための方法としても使えるようになった。そのアプローチが、だんだんETAでのグループでの即興演奏にも入り込んでいったんだよね。ちょうど同じ頃に、ジョシュも似たようなアイデアを探求していたこともあった。だから、僕のソロ活動でやってきたことは、間違いなく今のすべてに影響していると思うよ。

『Forfolks』

—あなたはいろんなタイプの音楽をやっていて、すごく自由な発想を持っていて、境界線みたいなことを考えずに活動しています。こうなってくると実はギターじゃなくていいやとかもあるのかなと想像したのですが、あくまでギターだけは手放さないところを見ていると、やっぱりギターという楽器はあなたの音楽に欠かせないものですか?

ジェフ:うん、もちろん。ギターはやっぱり自分の声というか、自分にとっての”音楽的な声”なんだと思う。もちろん、他にも色々やっているけれどね。でも、ギターがいちばん自然で、いちばん居心地の良い場所なんだ。今でも本当にギターを弾くのが好きだし、すごく楽しんでいるよ。それに、自分が作曲する音楽の多くは、ギターを新しい場所に置いてみたい、という感覚から生まれているんだよね。時には、自分で書いた曲がギターで弾くには難しすぎることもある。かなり複雑なコード進行だったりするから、演奏するのが大変なこともあるんだよね。でも、そういうことが結果的に、自分をより良いギタリストにしてくれるんだ(笑)。

—では、最後に。あなたが始めたレジデンシーをきっかけにいろんな人が集まってコミュニティができて、そこからETA IVtetができました。そのコミュニティの影響は現在すごく大きいものになっていますよね。たとえばレッチリのフリーやミシェル・ンデゲオチェロのような人があなたの周りのコミュニティからすごく大きな影響を受けている。あなたのコミュニティはすごく大きい存在になってきていると思うんですよ。ミシェル・ンデゲオチェロにインタビューした時にも真っ先にあなたの名前が出てきました。今、多くのアーティストがジェフ・パーカーのやっていることにすごくインスピレーションを受けているのはジャーナリストとしてもものすごく感じます。それについてどんなことを感じていますか?

ジェフ:本当にありがたいことだと思っているよ(笑)。自分が提示してきたアイデアを、みんなが受け取ってくれていることに対してね。すごく光栄なことだと思う。実は、ミシェル・ンデゲオチェロが僕のソロギターのキャリアを始めさせてくれた人なんだ。2013年頃、彼女がシカゴで3日間の公演をやった時に、オープニング・アクトとして呼んでくれてね。その頃の僕は、ちょうどLAに移ったばかりで、本当に知り合いもいなかった。だから、毎日リハーサル・スペースに行って、ループ・ペダルを使った実験をずっとやっていたんだ。そんな時にミシェルから連絡が来て、前座をやってくれないかって言われた。それで、じゃあ、最近ずっとやっているこのループ・ペダルの演奏をそのままやってみよう、と思ったんだよね。その時の音楽が、そのまま最初のソロ・ギター作品『Slight Freedom』に繋がっていったんだ。ミシェルやフリーみたいな、ものすごく影響力のあるミュージシャンたちが、自分のやっていることに注目してくれているのは、本当に光栄なことだと思っているよ。僕自身、長年彼らからずっと影響を受けてきたからね。だから、自分も何かを返せているのだとしたら、それはすごく嬉しいことだよ。

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ジェフ・パーカーが語る究極の即興演奏論 ETA IVtetで実践する「静的な空間の探究」

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