コンプリート・シングル・コレクション『POWERS OF TEN』リリース。10年の想いを語る
| 奥田民生ひとりカンタビレ | 2010.05.23(SUN) at EIGHT HALL |
3月に始まった今ツアーも、ついにファイナルだ。数々の名曲を、オーディエンスの目の前でたった一人でレコーディングしていく。そんなことは誰も考えなかったし、やれるとも思っていなかった。それに敢然と挑む奥田民生はどんなに意気込んでいるのかと思っていても、開場時からステージ上で作業しているワークシャツ姿のOT(奥田民生)を目にすると、こっちも力が抜けてしまう。しかも金沢EIGHT HALLにはオツマミのおでんやギョーザの美味そうな香りが立ち込めてるし、OTもグビグビ、ビール呑んでるし。
この日もレコーディングはさくさく順調に進んでいく。ドラムはテイク2でOK。「ギョーザはどうですか?」と余裕のOT。ベースも1回弾いて、イントロを少し直しただけ。直し部分がコンピュータ画面に表示されると、「見た目で直してるのがバレバレです」と民生は自分で大笑い。取り直しは隠したくなるものだが、それも含めて全部オープンにしてしまうのが今回の企画のすごいところだ。というより、民生のすごさだ。一方で、歌などへのこだわりは絶対に譲らない。生演奏の中でのプライオリティをしっかり把握している民生ならではのジャッジだ。そして、それがあるからこそ、今回のツアーは実現した。それにしても、どの楽器も上手い。許される範囲とはいえ、ほとんどの演奏を一回で決めていく。見ていると簡単に思えてしまうが、これも民生でなければ出来ないワザだ。例えばタンバリン。小学校の音楽の時間に、誰でもやったことのあるシンプルな楽器ながら、実は奥が深い。これも一発で決めて「タンバリンなら世界で20位以内」と豪語する民生。
ツアー中で一番少ない超ラッキーな86名のオーディエンスからの直接質問に答えたり、途中、トイレ休憩をはさみながらも2時間弱で演奏部分が完成。8時から歌入れがスタート。いよいよ今夜の曲の全貌が分かる瞬間に、客席も少し緊張気味。<君んとこに行くまで だんだんすごくなるよ~立ちすくんでくれ>と、"カンタビレ"ツアーの進行がそのまま歌になっている。特に<忘れちゃってくれ 忘れないでくれ~はだかになってくれ かばんに入れて全部持っていく>と畳み掛けるフレーズでは、涙を拭いている観客もいた。たった今、初めて聴く歌に心を揺さぶられる感動を、その人は一生忘れないだろう。
「すごく頑張ってます。クラッときてる。今のは発声練習でした。酔いが一気に回ってくるね」と民生。次のテイク2でメインボーカルはOK。コーラスはOTにしか分からないレベルまで潜りこんで、素晴らしい完成度だ。
「今回のツアーは、ずっと元気でちゃんと声が出て良かったですよ。本日も良いものが出来たと思います。こんなしんどいのは二度とやりたくないので、皆さんは貴重なものを見たと思います」。
ツアー最後の試聴会が始まる。この時点でやっと歌詞と「解体ショー」というタイトルが発表された。普通なら公開されないレコーディング作業の裏の裏までを見せた今回のツアーを、民生は"解体ショー"と呼んでみせた。アルバムの最後を飾るに相応しいタイプのパワフルなロックが金沢EIGHT HALLに響き渡る。OTはステージ上のソファに寝そべって聴いている。予定より5分早い、3時間25分で今日のカンタビレは終了。配信もツアー中最速の24時00分にアップされて空前のツアーの全てが終わったのだった。
【奥田民生ひとりカンタビレ】2010.05.07(FRI) at SHIBUYA-AXのレポートを見る
(取材・文/平山雄一)