「いつまで働くか」「定年後はどんな暮らしを送りたいか」——年齢を重ねるにつれ、そんなことを考える人も多いのではないでしょうか。

68歳で日本大学理事長に就任した林真理子さんは、そんな人たちに向けて、こう語ります。


「70歳を過ぎても働く場所があるなら誇りに思っていい」

仕事を続けることにも、仕事を離れて穏やかに暮らすことにも、それぞれの価値がある——。

本記事では、林真理子さんの著書『80代になるとたいていボケるか死ぬ。70代は神様から与えられた特別な時間』(幻冬舎)より一部抜粋し、70代を自分らしく生きるための考え方を紹介します。

■働くつらさはまだ捨ててはいけない
日大の理事長を引き受けたのは68歳の時。自分でも驚くぐらい自然に、

「面白そう、やってみよう」

と思った。自分がもうじき70歳になるとは考えてなかったのは不思議だ。

理事長の仕事は忙しく、毎日大学本部に出かけている。いろいろなことがあったが、なんとかこれを乗り越えようと自分に言いきかせてきた。よく親しい友人たちに言う。

「おかげでものすごく強い人間になった。だけど人間、70歳になってこんなに強くなってどうするんだ!!」

が、まだまだ生きるよ、まだまだ働くよ、と皆が口を揃えて言う。

もし70を過ぎても働く場所があったとしたら、それはその人がそのように生きてきたからだ。
誇りに思っていい。

そしてどんなに小さな仕事でも、頼まれたら引き受ける。その仕事を心を込めて遂行する。

昨年、登下校中の小学生の列に、乗用車がつっ込むという事件があった。子どもたちに逃げるように叫び、犯人を車からひきずり出したのは、元大阪府警の警官だった。子どもたちの「学校支援員」として立っていたのだ。

取材に、

「子どもを守るのは、元警官として当然のことです」

と答え、私は心をうたれた。

年をとってからの働き方のいい例だろう。まず世の中のためになること、を考えていけば何かが見つかる。

何にせよ、働くことは楽しい。

■“楽しい隠居生活”という生き方
それでも「もう働くのはいいかなー」という人も多いに違いない。そういう人に対して無理強いはしない。


私の友人(男性)は先日、

「引退してからは、楽しい隠居生活をしています」

というメールをくれた。

「楽しい隠居生活ってどういうこと?」

「好きな時に起きて、好きな時に寝る、そして好きな音楽を聴いたり、好きな本を読む。若い時と違っているのは、お金と時間がちゃんとある。っていうことかな」

理想のリタイア生活ということか。しかし「楽しい隠居」というのはいい言葉だ。

よく落語でも何かあると、

「ひとっ走り行って、横丁のご隠居に聞いておいで」

ということになっている。

隠居には穏やか、という意味も含まれている。品があって穏やかな老人、音楽や本を楽しむ教養ある人。

もし完全にリタイアするなら、これをめざしたいものである。
この書籍の執筆者:林真理子 プロフィール
1954年、山梨県生まれ。82年エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』が大ベストセラーになる。86年『最終便に間に合えば』『京都まで』で直木賞、95年『白蓮れんれん』で柴田錬三郎賞、98年『みんなの秘密』で吉川英治文学賞、2013年『アスクレピオスの愛人』で島清恋愛文学賞、20年、菊池寛賞、22年、野間出版文化賞を受賞。
18年、紫綬褒章を受章。22年、日本大学の理事長となる。
編集部おすすめ