「親から実家を相続しましたが、とりあえずそのままにしています。」

相続のご相談で、こうしたお話を伺うことは少なくありません。

売却する予定もない。

住む予定もない。
活用方法も決まっていない。

だから、「しばらく様子を見る」。

一見、自然な判断に見えます。しかし、不動産の保有は、それ自体が一つの経営判断であるという認識が必要です。

預貯金であれば、口座に置いておくだけで維持費はかかりません。一方、不動産は所有しているだけで毎年さまざまな費用が発生する資産です。今回は、「持ち続ける」という選択にどのようなコストが伴うのかを、数字を交えて整理します。

見えにくい「保有コスト」が積み重なる

不動産を所有すると、まず毎年発生するのが固定資産税です。都市部では都市計画税も課税されます。

さらに、

火災保険料
建物や設備の修繕費
草刈りや庭木の剪定費
空き家管理の委託費
遠方であれば現地までの交通費

なども継続的に発生します。

国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査」でも、空き家所有者の多くが管理・維持に負担を感じており、管理上の心配事として最も多かったのは「住宅の腐朽・破損の進行」(58.0%)でした。


つまり空き家は、「使っていないからお金がかからない」のではなく、「使っていないのにお金がかかる資産」なのです。
空き家の維持費は年間数十万円になることも

筆者が一般的な戸建住宅を想定して試算したところ、固定資産税や火災保険料、草刈り・植栽管理、修繕費などを含めると、年間30万~50万円程度の維持管理費が必要になると考えられます。

年間38万円としても、10年間で380万円です。しかも、その間に建物の資産価値が上がる保証はありません。むしろ建物や設備は経年劣化が進み、一般的には資産価値が徐々に低下していきます。
放置すると、負担はさらに大きくなる

「誰も住まないから、そのままでいい。」

この考え方が最も危険です。人が住まない住宅は、想像以上のスピードで老朽化が進みます。換気されない室内では湿気がこもり、雨漏り、シロアリ被害、カビ、配管の劣化、鉄部の腐食などが進行します。庭木・雑草の繁茂、害虫の温床化、景観の悪化は、治安の悪化、不審火の発生などを誘発し、近隣トラブルの原因にもなります。

加えて、空家等対策特別措置法の改正により、適切な管理がされていない「管理不全空家」と判断されると、住宅用地に適用されていた固定資産税の軽減措置が解除される可能性があります。結果として、税負担が大幅に増えるケースもあるため注意が必要です。
「持ち続ける」という選択にも根拠が必要

もちろん、不動産を持ち続けること自体が誤りというわけではありません。


自分や子どもが将来住む予定がある
建替えや活用を計画している
市場環境の変化を見極めたい

こうした明確な理由があるのであれば、それも合理的な判断です。

しかし、「何となく」「親が残してくれたから」という理由だけで保有を続けると、毎年コストだけが積み上がっていきます。不動産は、保有しているだけでも継続的な経営判断が求められる資産なのです。
「保有するコスト」まで考えて初めて意思決定になる

相続不動産について考えるとき、多くの方はまず「売るか、貸すか、住むか」という選択肢に目を向けます。しかし、その前に把握すべきなのが、

「持ち続けることで、毎年どれだけのコストが発生するのか」

という視点です。固定資産税や修繕費といった直接的な費用はもちろん、管理の手間や時間も見えないコストの一つです。

こうした負担を正確に把握したうえで、不動産は「持つ」ことではなく、「持ち続けるかどうか」を判断すること自体が経営判断なのです。それが、後悔しない相続不動産マネジメントにつながります。

「持っているだけだから大丈夫」。その思い込みが、将来大きな負担になることもあるのです。

次回は、「相続不動産と家族経営の難しさ」をテーマに、共有名義や親族間の管理、役割分担など、相続後に起こりやすいトラブルとその防止策について解説します。

佐嘉田 英樹 さかた ひでき アテナ・パートナーズ株式会社 代表取締役。
1991年に東京大学卒業後、富士銀行(現・みずほ銀行)入行、主に融資営業・マーケティング戦略企画に携わる。その後不動産・建設業界に身を転じ、建売分譲、賃貸アパート、介護福祉施設等の企画開発・売買などに従事し、2023年8月に独立。地主・不動産投資家・中小企業の不動産活用コンサルティングやプロジェクト・マネジメント、テナント企業の開業支援を行う。宅地建物取引士、不動産コンサルティングマスター、2級建築士、FP2級など幅広い専門知識を駆使し、総合的な視点からクライアントの課題解決にあたる。
アテナ・パートナーズ株式会社:https://athena-ptr.co.jp/
アテナ・パートナーズ株式会社は、お客様のニーズや目的を詳細にヒアリングして、物件や市場の調査を行った上で、所有不動産の有効活用、開発、建て替え、リノベーション・用途変更、売却、交換など、多角的・戦略的な企画提案・マネジメントを行う。企画計画から資金調達、テナント誘致、設計、工事、引き渡しまで一貫してプロジェクトをマネジメントすることで、独自のビジネスモデルを展開する。 この著者の記事一覧はこちら
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