はじめに

「今の環境で努力を続けていれば、自然と年収は上がるのだろうか」と、キャリアの節目で自身の市場価値や給与に対して不安や疑問を抱くエンジニアの方は多いのではないでしょうか。

昨今のIT業界では、生成AIの普及に伴い、エンジニアに求められるスキルや役割が急速に変化しています。
その結果、同じスキルや経験を持っていても、市場や企業によって年収に大きな差が生まれるケースが珍しくありません。年収アップを実現するには、スキルを磨くことに加え、そのスキルが評価される市場や企業を見極める視点が重要です。本記事では、年収を左右する2つの外的要因の視点から、年収アップにつながる考え方を解説します。
エンジニアの「スキル」と「案件単価」のリアルな相関関係

大前提として、エンジニアの年収は「スキルが高い人ほど上がる」と考えられがちですが、それだけではありません。同じスキルを持っていても、所属する企業の評価制度や事業の成長性、市場環境によって年収には大きな差が生まれます。

ここでは、会社の業態別の違いや評価制度との関係性について見てみましょう。
○クライアントワーク企業の場合

特にクライアントワークであるSIerやSESなどでは、エンジニア自身が案件に参画すること、つまり「現場に存在すること」そのものが会社の売上に直結します。

より難易度の高い高単価案件を担えるようになることで会社としての売上も上がるため、個人の年収も上がりやすくなります。

高単価の案件をこなせるようになるためには、コンサルティングや技術選定、顧客との折衝、アーキテクチャ設計、要件定義、基本設計など、技術的に難易度の高い工程を担えるようになることや、プロジェクトマネジメントやプロジェクトリーダーなどのマネジメント経験を積むことが近道となるでしょう。

これらの業務を経験した上で、経験年数を伸ばしたり、規模が大きい案件や複雑な案件の経験を積んだりすることで、さらに個人としての単価向上につながります。
○事業会社の場合

自社でサービスを提供している事業会社では、エンジニアの存在そのものが直接会社の売上に反映されることはほとんどありません。

エンジニアには品質の高いサービスを提供することが求められますが、マーケターや営業などのビジネスサイドの後押しもあってこそ、サービスは顧客の手に届き、会社の売上となります。


そのため、難易度が高い工程やマネジメントを担えるだけでは年収が上がらないケースもあるでしょう。

事業会社では、技術的な観点だけではなくビジネス的な観点を元に、事業やプロダクト全体の現状を把握し課題を理解すること、それを技術でどう解決できるかを考えることが求められます。

プロダクトそのものを、技術的な側面ではなくビジネス的な側面で捉えられるようになると、事業会社でも年収は上がりやすくなります。
○評価制度との関係性

上記を前提に、創出した価値と評価制度の結びつき方によって、年収の査定は決まります。

単価連動性と呼ばれる仕組みを採用するクライアントワーク企業では、案件単価がそのまま年収に反映されます。この仕組みを取り入れている企業では、自身のスキルを上げて難易度の高い高単価案件を担えるようになることが、最もシンプルかつ確実に年収アップへと繋がります。

しかし、この仕組みを取り入れている企業は多くはないため、実際にスキル向上に伴って年収が右肩上がりの直線を描いて上昇することはあまり現実的ではありません。

クライアントワーク企業の多くや事業会社では、社内の等級制度や評価ランクによってあらかじめ支給される金額のレンジが定義されています。

等級やランクの区分は大まかであることが多く、役割や期待されるレベルが広く定められています。そのため、スキルが少し上がった程度では、すぐに給与アップへ繋がりにくいのが現状です。

そして給与レンジを次のステージへ引き上げるためには、数年単位でのステップアップが必要なケースがほとんどです。
給与の原資に大きく関わる、会社の資金体力と成長領域

ここまでは会社の業態別の違いや評価制度などの個人スキルとの関わりが深い企業軸の外的要因についてお話ししました。
ここからは、年収を決定づけるもう一つの重要な要素について解説します。

それは「会社の資金体力」であり、「現在その会社が属している/注力している業界・領域が伸びているか」という市場軸の視点です。

これはエンジニア自身のスキルではないため、外的要因となります。

どれだけ個人のスキルが高くても、会社や事業自体が儲かっていなければ社員に還元される給与の「原資」そのものが不足してしまいます。

逆に、活発な投資が行われ、お金の流れが集まりやすいような「伸びている領域」に身を置けば、それが給与やインセンティブとして還元されやすいということです。

転職市場で、年収が大幅にアップしたという広告を目にすることもあると思いますが、大幅アップの要因は伸びている市場・企業に転職をしたというケースが多いです。

同職種同業界の転職の場合、通常は現年収の1~2割アップが市場の相場と言われています。現年収500万円のエンジニアの場合、550~600万円の提示がおおよその目安となります。

これは、エンジニア自身のスキルがより正当に評価されることや、より親和性の高い領域で高く評価されることが要因となりやすいでしょう。

しかし、現年収の30%以上という大きな金額で上乗せされることはあまり発生しません。そのようなことが起こるケースは、伸びている企業や伸びている業界など、お金が集まっている場所に移動することが要因となることが多いでしょう。

では、現在の市場においては具体的にどこに資金が集まっているのでしょうか。
伸びている市場は多くありますが、代表的な注目領域として、以下の3つが挙げられます。
○クラウドベンダー領域

1つは、クラウドベンダー領域と呼ばれる、AWS/Azure/GCP等のクラウドの導入や運用のサポートを行うSIerです。

企業のDX推進や基盤移行の需要は依然として高く、大規模な予算が投じられ続けています。AI活用推進がクラウドの需要に拍車をかけ、さらに多くの企業がクラウドへの投資を増やすようになりました。

またこの領域は、各クラウド企業から認定を得ているかどうかで企業としてのクラウドへの強さや対応力の高さを測りやすいため、大規模案件や難易度の高い案件が集まりやすい特定の場所が存在します。
○データ利活用ベンダー領域

2つ目は、データの活用基盤の構築、生成AIや機械学習のモデル構築などを担うデータ活用領域のベンダーです。

AI活用やデータ分析の重要性が叫ばれる昨今、データを適切に利活用するための基盤構築や、実際にデータを利活用するモデルの構築ができる領域は非常に市場価値が高いと言えるでしょう。

また、データ利活用の重要性が浸透したのは比較的最近であるため、まだこの領域におけるベテラン層が市場にあまり存在していません。

新しい領域でいち早く経験を積んでベテラン層に近づくと、さらなる市場価値の向上につながります。
○システム刷新領域

最後はシステム刷新が大幅に行われている領域です。具体的には、金融業界や製造業界がこれに当たります。

これまではかなりレガシーな環境がメインと言われていたものの、直近はクラウド環境への移行やモダン言語へのリプレイス、システムの刷新などが急激に進んでいます。


特に金融領域では、ブロックチェーンやトークンなど新しい技術の活用も積極的に進んでいます。また、セキュリティリスクなどの課題も残っている領域であるため、今後も革新的な技術が生まれやすい環境です。

これまで進化に時間がかかった分、負の遺産が多いことや新しい技術が出てきていることから急激な変革期を迎えており、投資されやすい領域だと言えるでしょう。

ここで一つ注意したいのが、自社サービスを運営する「事業会社」の見極めです。

事業会社を転職先として検討する際は、「会社全体の規模が伸びているか」だけでなく、「そのサービス単体としてしっかり売上が伸びているか」「これから業界全体として伸びていく領域か」を見極める必要があります。

例えば、表向きはスマートな自社サービス企業を謳っていても、実はメインの売上をSIer事業やSES事業に頼っており、肝心の自社Webサービスは赤字が続いているようなケースも珍しくありません。

このような構造の場合、自社サービス側のエンジニアに対して十分な給与還元が行われにくい背景があるため、事業の収益構造まで一歩踏み込んでリサーチすることが重要です。
事業会社から転職するエンジニアの転職理由は、サービスの売上の不調に起因していることも多いです。

「売上が伸びず給与に還元されない」「エンジニアリングや技術に投資ができず予算が下がりやりたいことに挑戦できない」「メンバーが減っているが売上の不調で増員できず稼働が増えている」など、歪が生じる場所はそれぞれですが、多くは売上の不調が原因となっています。

年収の観点だけではなく、長期的に就業できるかという観点でも、事業会社のサービスが伸びているかは重要な要素です。
まとめ

年収アップを実現するためには、スキルを磨くだけでは十分ではありません。市場で評価されるスキルや経験を身につけることに加え、その価値が正当に評価される企業や、成長が続く市場・事業領域を選ぶことも重要です。


まずは、自身のスキルや経験が事業やプロダクトにどのような価値を生み出しているのかを振り返り、より高い価値を発揮できるスキルや役割を目指しましょう。そして同時に、自分が活躍する市場や企業が今後も成長を続ける領域であるか、評価制度や事業の将来性も含めて見極める視点を持つことが大切です。

「何を身につけるか=スキル・経験(内的要因)」と「どこでその力を発揮するか=会社・市場・評価制度(外的要因)」の2つを意識してキャリアを選択することが、変化の激しいIT業界において市場価値を高め、長期的な年収アップにつながるでしょう。

土屋晴菜子 九州大学を卒業後、レバテック株式会社に新卒で入社。キャリアアドバイザー並びにリクルーティングアドバイザーを兼任し、個人法人双方の視点から支援。 年間約300名ほどのエンジニアの方のキャリア相談を行う。深いIT知見から、スタートアップ企業の採用支援やデータサイエンス領域人材の支援に強み。 この著者の記事一覧はこちら
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