【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#121


 アルバム『アビイ・ロード』(1969年9月26日発売)①


  ◇  ◇  ◇


 実質的ラストアルバムである。ビートルズ、ここに終われり。


 リリースはアルバム『レット・イット・ビー』の方が後だが、録音は、『アビイ・ロード』の方が後というのは有名な話。というわけで本連載では先に『アビイ~』を取り上げる。
『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(1967年)と並んで、彼らの最高傑作と評される作品である。


 確かに2枚とも、よく出来ている。ただその「傑作性」=「傑作」としての手触りに違いがある。
『サージェント・ペパーズ~』は、ライブをやめて、スタジオ活動を中心に据えた4人が、4トラックという制限の中で、途方もない情熱をぶつけ合いながら紡ぎ出した録音芸術の頂点というアルバムである。だから「ホット」だ。


 対して『アビイ・ロード』は実に「クール」なのである。


 8トラックという4トラックの倍の余裕を持った録音機器を使って、メンバーそれぞれがバラバラに、自分のベストパフォーマンスを録音したという感じ。


 情熱のぶつかり合いがない、とまでは言わないが、『サージェント・ペパーズ~』に比べて相当少ない。


 そもそもメンバー同士にかなりの距離感が生まれている。


 ジョンは、もうオノ・ヨーコにべったりで、スタジオに呼び付け、ずっとはべらせている。

『平和を我等に』(69年)などメッセージ性の強い曲も「プラスティック・オノ・バンド」名義ですでにリリース。ビートルズは片手間という感じになっている。


 一方、ポールの発言権はいよいよ増していて「ポールと残り3人」という感じになっている。B面のメドレーは、明らかにポールのリーダーシップによる産物である。


 ジョージは、ついにここで開眼。『サムシング』という名曲を放ち、これまで自分を邪険にしてきたジョンとポールに才能を見せ付ける。


 そしてリンゴは、『ジ・エンド』(という、そのまんまのタイトルの曲がある)でようやっとドラムソロをプレー。彼特有の太いリズム感によるソロで「ドラマー・リンゴ、ここにあり」と宣言。
『アビイ・ロード』とは、このような「個の集積」のアルバムなのだ。


 ホットかクールか、どっちがいいかは好みによる。でもまぁ、結論的には、どっちも最高なのだけれど。


 ビートルズ、いや「ジョンとポールとジョージとリンゴのアルバム」は、最後を予感した世界中の若者が殺到して、売れに売れた。


 そして──ビートルズ、ここに終われり。


▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966‐2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。


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