【スージー鈴木のゼロからぜんぶ聴くビートルズ】#122


 アルバム『アビイ・ロード』(1969年9月26日発売)②


  ◇  ◇  ◇


■『サムシング』①


「ソングライター・ジョージ、ここにあり」と高らかに宣言したような名曲といっていい。


 ビートルズのキャリアを野球に例えると、チーム「ジョージズ」が九回裏ツーアウトから放ったホームランのよう。

そして相手チーム「ジョンとポールズ」と同点に追いつき、延長戦としてのソロ活動に堂々と進んでいくという感じの曲だ。


 楽曲の優美さには、俗に「クリシェ」と呼ばれる半音下降進行が効いている。聴いているとグッとくる、日本人がとにかく大好きなコード進行。


 歌い出し(試聴リンク再生時間「0:05」から)のメロディーは、絵に描いたように半音ずつ沈んでいく。


「♪(ドの音)サムシング・イン・ザ・ウェイ・シー(ここからシ)ムーブズ(ここからシ♭)アトラクツ・ミー・ライク~」という具合である。


 まぁ、言ってみれば、まったく奇をてらわないド直球のクリシェなのだが、その分、心に残りやすい。


 この「歌い出しクリシェ」は、のちの音楽家に大きな影響を与えた。日本でいえば例えばサザンオールスターズ『いとしのエリー』(79年)が代表的な「サムシング・チルドレン」といえる。


 あのネットフリックスのガス人間も「♪泣かした事もある~」のバックで流れるクリシェにグッとくることで、全身が動き出すのではないか。【オリジナル記事で試聴する


 実は『サムシング』にはもう一つクリシェがある。「0:27」から「♪アイ・ドント・ウォナ・リーブ・ハー・ナウ ユー・ノウ・アイ・ビリーヴ・アンド・ハウ」のバックで「ラ↓ソ♯↓ソ↓ファ♯」という半音下降音列が動いている。


 そして転調。

「1:11」のところの目の覚めるような転調たるや(キーがCからAに)。視界がパーッと広がる感じになるではないか。


 歌い出しでグッとクリシェ、途中でもグッとクリシェ、そしてパーッと転調。九回裏ツーアウトからのホームランの舞台裏では、このような「グッ、グッ、パーッ」が仕掛けられているのだ。


 また「ジョージの曲ではポールのベースが攻める法則」は、ここでも発動。でも、今回は「悪目立ち」ではなく、曲の中に、素直に馴染んだ形で、しびれるような美メロを弾いている。ある意味、歌メロよりも美しい。ポール好きのベーシストが全員コピーする美メロだ。


 という『サムシング』、フランク・シナトラいわく「史上最高のラブソング」。まさに「ソングライター・ジョージ、ここにあり」。 (この項つづく)


▽スージー鈴木(音楽評論家) 1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。

主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966‐2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。


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