フィリピン・ルソン島パンパンガ州アンヘレス市バリバゴ地区のテオドロ通りで発生した9階建てビル(ホテル予定地)の倒壊事故は、発生から40時間以上が経過し、事態は最悪の局面を迎えている。現地の合同救難チームは25日夜、がれき内からの生命反応が完全に途絶えたと判断し、生存者救出(レスキュー)作戦を終了。
明けた26日午前からは、重機を本格投入して遺体を収容する「リトリーバル(回収)作戦」へと移行した。

その他の写真:倒壊した9階建て建設中ホテル 現地在住の桜田和也さん 提供写真

 現地主要メディアの報道を精査すると、公式発表の死者4人、行方不明者16人という数字の裏に、施工会社の名簿に載っていない「複数の幼い子どもたち」が巻き込まれている凄惨な実態と、フィリピンの建設業界が抱える深い闇が浮上してきた。

 1.生存者が明かす悲痛な証言「現場には1~2歳の幼児がいた」
この未曾有の人災において、最もショッキングな事実を報じたのはフィリピン最大級の主要紙『インクワイラー(Philippine Daily Inquirer)』である。同紙の取材に応じた、奇跡的に生還した建設作業員らの生々しい証言が現場に大きな衝撃を与えている。

 60歳の作業員エルネスト・トレロソさんの証言:
「同僚の作業員のうち2人が、地方から家族を現場に呼び寄せて仮設宿舎で一緒に寝泊まりしていた。そこには3人の小さな子どもたちがいた」

 46歳の作業員ブライアン・シタンコさんの証言:
「確かに子どもたちが現場にいた。私が覚えている限りでは2人の子どもがおり、そのうちの1人はわずか1歳から2歳ほどの幼児だった」

 また、大手放送局『ABS-CBN』は、公式な行方不明者数が「16人」に修正されたと伝えた。当初は17人とされていたが、リストに登録されていた作業員の1人が「事故当時は別の場所にいて無事である」と当局に連絡してきたためだ。しかし同局は、「この16人という数字はあくまで元請け業者の職長(フォアマン)の記憶や、現場外の親族から寄せられた捜索願ベースの『作業員数』に過ぎない」と指摘。地方から集まった日雇い労働者が私的に連れてきていた「名簿外の同伴家族や幼児」が、さらにがれきの下に取り残されている可能性が極めて高いと報じている。

 2.最悪の「パンケーキ崩壊」が阻む救助活動
フィリピンのニュースメディア『GMAニュース』は、救助活動がなぜここまで難航し、生存者捜索の打ち切りを余儀なくされたのか、その技術的要因を報じている。

 フィリピン消防局(BFP)の中央ルソン地域広報官のマリア・レア・サジリ上級局長らが同局の取材に説明したところによると、今回の建物は各階の天井と床が垂直に潰れて重なり合う「パンケーキ崩壊(Pancake Collapse)」を起こしている。
生存空間が完全に押し潰されやすい上に構造体が極めて不安定なため、不用意に重機を動かせばドミノ倒しのように二次崩壊を招く危険が高い。そのため、これまでは救助犬(K-9)や油圧カッター、熱探知ドローンを駆使し、雨の中で手作業による慎重な捜索を続けざるを得なかったという。

 これまでに死亡者4人、生存者26人、行方不明者16人が確認されている。死亡者には隣接する宿泊施設(ウォーキンズ ホテル・Walkins Hotel)に滞在していて巻き込まれたマレーシア人観光客1人と、建設作業員3人が含まれ、生存者のうち8人が病院で負傷治療を受けている。

 3.暴かれる致命的な「手抜き工事」と過去の作業停止命令

 事故原因の追及を進める地元紙『デイリー・トリビューン(Daily Tribune)』などは、施工業者による悪質なコンプライアンス無視の実態をスクープしている。

 アンヘレス市のカルメロ・ラザティン2世市長によると、建物のオーナーであるジャクソン・リム氏と、元請け業者である「ゴールデン・イヤーズ・コンストラクション(Golden Years Construction and Steelworks)」は、2023年6月に「プールと2つのルーフデッキを含む9階建てビル」として市から正規の建築許可を取得していた。

 しかし、現場のデータや設計履歴を見た民間の建築専門企業(Mopada Construction)などは同紙に対し、建物の土台となる1階部分の柱の太さ(構造寸法)が、せいぜい3~4階建て程度しか支えられない致命的な強度不足(過小寸法)であったと指摘。ここに9階建ての荷重に加え、1立方メートルあたり1トンもの重量がかかる巨大なスイミングプールを最上階に設置しようとしたため、柱が自重に耐えきれず座屈(バックリング)を起こして垂直倒壊したという、最初から破綻していた「手抜き工事(サブスタンダード)」の実態が明らかになった。

 さらに労働雇用省(DOLE)中央ルソン局のジェラルディン・パンリリオ局長が25日に明かしたところによると、同省は昨年(2025年)9月の時点で、安全違反により当該現場に「作業停止命令」を出していた。検査官の立ち入りを拒否した同現場を外部から目視検査した際、命綱の未設置や保護具(ヘルメットやブーツ)の不着用、足場や電気系統の重大な欠陥が確認されたためだ。その後、形式的な是正報告で命令は解除されたが、安全管理体制は当時から完全に破綻していた。
【編集:EULA】
編集部おすすめ