混雑した電車の中で、周囲にぶつかりながら平然としている人にモヤッとした経験はありませんか?

今回は、そんな状況に直面した女性のエピソードをご紹介しましょう。

混雑した朝の通勤電車で……

ある日の朝。斉藤麻美さん(仮名・33歳)は、いつものように通勤電車へ乗り込みました。


車内はすでにかなり混雑していて、座席はもちろん満席。乗客同士の肩やバッグが軽く触れ合うほどだったそう。

スーツ姿の会社員、眠そうな学生、大きなトートバッグを抱えた女性……誰もが静かにスマホを見たり、目を閉じたりしながら、朝特有のどんよりした空気の中で揺られていました。

「すると突然、隣に立っていた50代くらいの女性が、吊り革を両手で持ったまま腰をぐいぐいひねり始めたんですよね」

満員電車の中で?! いきなりストレッチを始めた“迷惑おばさん...の画像はこちら >>
最初は「少し体勢を変えただけかな?」と思ったそう。ですが、その女性は周囲などまるで気にしていない様子で、狭い車内にもかかわらず身体を左右へ大きくひねり始めました。

「イタタタ、運動不足はダメねぇ!」と小さな声で独り言を言いながら、今度は片脚を後ろに伸ばし、車内で堂々とストレッチを始めたのです。

周囲にぶつかっても平然と続ける

「その度に肘やバッグが私や周りの人に当たって危ないし、なにもこんな場所でやらなくても……と正直イラッとしてしまいました」

麻美さんは思わず身体を引きましたが、混雑しているためあまり逃げ場もありません。

近くにいた男性は露骨に眉をしかめ、別の女性客も迷惑そうに視線を送っていたそうですが、相手が年上ということもあってか、誰も注意できなかったといいます。

「ですが次の瞬間、ストレッチをしている女性の近くに立っていた30代くらいの女性が、落ち着いた口調で『それ、腰を痛める動きになっていますよ』と声をかけたんですよね」

車内の空気が一瞬ピタッと止まり、ストレッチをしている女性も「え?」と驚いたように振り向き、周囲の乗客たちも思わずそちらへ視線を向けたそう。

優しい注意の仕方に思わず感心

「するとその女性は、笑顔で『あと、電車の中でやるのは危ないです。揺れるので、周りの人にもぶつかってしまいますし』と続けました。優しい言い方なのに、不思議とどっしりとした説得力があったんですよ」

怒ったり責めたりするのではなく、本当に相手の身体を心配しているような、落ち着いた話し方だったそう。

満員電車の中で?! いきなりストレッチを始めた“迷惑おばさん”。周囲にぶつかりまくった結果…
画像はイメージです(以下同)
そのせいか、車内の空気も不思議とギスギスせず、むしろ「よく言ってくれた」という安心感のようなものが広がっていきました。

ストレッチをしている女性は少し気まずそうに「やだ、そうなんですか?」と聞き返しました。


注意した女性は穏やかにうなずきながら「はい。腰をひねるなら、骨盤を固定した方がいいんです」と説明。さらに、周りを見て、狭い車内でもできる程度に軽く姿勢を見せながら、「こういう感じで、ゆっくり。お家でやってみてください」と丁寧に動きを教えたそうです。

「その動きには無駄がなく、とても綺麗だったので私はつい見入ってしまったんですよね」

女性の正体は?

周囲の乗客たちも、いつの間にか静かにそのやり取りを見守っていました。

すると麻美さんの横にいた男性が、一緒にいた女性に小声で「たぶん、インストラクターさんとかなんじゃない?」とつぶやいたそう。

すると女性は少し照れたように笑い「ヨガ講師なんです」と頭を下げました。

満員電車の中で?! いきなりストレッチを始めた“迷惑おばさん”。周囲にぶつかりまくった結果…
笑顔の女性
そのやり取りを聞いていたのか、周囲の何人かが微笑んだそう。

「さっきまで周囲にぶつかりまくっていたストレッチをしている女性も『教えてくれてありがとう。それと、ごめんなさい』と周りの人たちにぺこぺこ頭を下げ、大人しく吊り革につかまり直していましたね」

ほんの数分前までピリついていた空気が、気づけばすっかり和らいでいました。

その様子を見ながら、麻美さんは心の中で感心してしまったそう。

「次の駅で降りていったヨガ講師の女性が、最後まで品のある雰囲気で素敵だったので……私もその日の晩、女性が説明していたストレッチをやってみてしまいました。
結構気持ちよくてクセになりそうです」と微笑む麻美さんなのでした。

<文・イラスト/鈴木詩子>

【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop
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