生焼け状態で食べると小人が見えるキノコが存在する。中国とフィリピンに自生しており、中国・雲南省の市場では古くから食用として販売されている。
国籍や文化的背景に関係なく、このキノコを食べた人のほぼ全員が「小人の幻覚を見た」と証言している。
アメリカのユタ大学の研究チームがこのキノコのゲノム解析を行った結果、幻覚を引き起こすと知られているどの成分も検出されなかった。小人の幻覚を見る原因物質はいまだ未知のままだ。
この研究成果は『Mycologia[https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00275514.2026.2670968]』誌(2026年6月5日付)に掲載された。
食べると小人の幻覚を見る不思議なキノコ
中国南西部の雲南省やフィリピン北部のコルディレラ地方に自生する、イグチ科ランマオア属のキノコ、ランマオア・アジアティカ(Lanmaoa asiatica)は、森に生えるマツの木の根と共生しながら育つキノコで、傘の裏側がヒダ状ではなく、無数の細かい管が集まったスポンジ状の構造になっているのが特徴だ。
傘は赤みがかった色をしており、傷をつけると青く変色する性質を持つことから、中国では「見手青(ジエンショウチン)」と呼ばれている。
雲南省の市場やレストランでは、古くから食用として扱われてきた。
うま味が強く、アジアで評価の高い食用キノコとして親しまれている一方、十分に加熱しないまま食べると幻覚作用が強く出るとされている。
雲南省のレストランの中には、中毒を防ぐため独自の調理・提供の手順を定め、このキノコと一緒に酒を飲むことを禁止している店もある。
地元自治体もキノコのシーズンになると、中毒の危険性を知らせるショートメッセージを住民に向けて送信している。
それでも中毒は後を絶たず、目の前に小さな人間のような姿をした存在が踊ったり、行進したり、食べた人をからかったりする幻覚を見るという。
実際に小人を見たという人の聞き取り調査
今回の研究を行ったアメリカ、ユタ州の菌類学者コリン・ドムナウアー氏とブライン・デンティンガー氏率いる研究チームは、雲南省でこのキノコについて聞き取り調査を行った。
ドムナウアー氏の聞き取りによると、夕食でこのキノコの炒め物を食べたという人物は、食べた後、渦巻く色や形が見え始め、テーブルクロスをめくると、その下に無数の小人たちが兵士のように整列して行進していたという。
この人物が小人の身長を実際に測ったところ、約2cmだったと証言している。
更に、雲南省の病院の記録によると、このキノコによる幻覚症状で受診した患者の96%が、小人や妖精のような存在の幻覚を見たと報告している。
同様の幻覚症状が複数の地域で報告されている
小人の幻覚を引き起こすキノコは、中国以外でも確認されている。
フィリピン北部のコルディレラ地方に暮らす先住民の間では、「セデスデム(Sedesdem)」と呼ばれる野生キノコを食べると小人が見えるという伝承が受け継がれてきた。
研究チームが現地でキノコを採取しDNAを解析したところ、セデスデムは中国の見手青とまったく同じ種、ランマオア・アジアティカであることが判明した。
1934年に外部の人間が初めて、インドネシアの東、ミクロネシア連邦の南にあるパプアニューギニアの山岳地帯に入ったときにも、よく似た現象が記録されている。
現地の人々が「ノンダ(nonda)」と呼ぶ野生のキノコを食べた後に一時的に錯乱状態になる光景が目撃された。
顔の周りに小さな人たちが見えると訴え、追い払おうとしていたという。
なお、パプアニューギニアのキノコがランマオア・アジアティカと同じ種であるかどうかはまだ同定されていない。
精神医学や神経学の分野では、小人が見える幻覚を「リリパット幻視(Lilliputian hallucination)」と呼ぶ。
18世紀の小説『ガリバー旅行記』に登場する小人の国「リリパット」にちなんで名付けられた症状で、小さな人や生き物が現実の空間の中を動き回るように知覚される状態を指す。
通常、幻覚の内容はその人の人生経験や精神状態によって大きく異なるが、国籍や文化的背景に関わらず、この種のキノコを食べた人のほぼ全員が同じ「小人の幻覚」を体験する点は、極めて異例だ。
ゲノム解析の結果、既知の幻覚成分は発見されず
研究チームはランマオア属のキノコ53点の全ゲノムを解析し、その中でランマオア・アジアティカについて、幻覚を引き起こす物質を作り出す遺伝子が存在するかどうかを詳しく調べた
研究チームがまず確認したのは、いわゆる「マジックマッシュルーム」に含まれるサイロシビンという幻覚成分だ。
サイロシビンは脳内の神経伝達を乱し、強烈な幻覚をもたらすことで知られている。
次に、赤い傘に白い斑点が特徴的なベニテングタケに含まれる精神活性成分イボテン酸についても調べた。
しかしランマオア・アジアティカの遺伝情報には、サイロシビンを作り出す経路もイボテン酸を作り出す経路も存在しなかった。
以前に行われた化学分析でも既知の幻覚成分は一切検出されておらず、今回のゲノム解析はその結果を裏付けるものとなった。
小人の幻覚以外にも、めまいや聴覚の異常、体調不良なども報告されているが、幻覚を含むこれらの症状を引き起こす物質はいまだ特定されていない。
原因は未知の物質である可能性
研究チームは、科学者たちがまだ発見していない未知の化合物、あるいは未解明の生化学的な経路が存在する可能性を指摘している。
今回のゲノム解析は、ランマオア属の分類整理にも大きく貢献した。
53点のサンプルから1,515の遺伝子を特定した結果、ランマオア属は現在17種と確定し、うち4種が新種だとわかった。
ランマオア属のキノコは世界的に食用として取引されているが、外見が似た種同士の誤認が多発しており、毒キノコを誤って食べてしまう食の安全上の問題が指摘されている。
今回の分類整理はその誤認リスクを減らすうえでも重要な成果だ。
原因物質が解明されれば、まったく新しい種類の精神活性物質の発見につながり、人間の脳や精神の働きについての理解を大きく前進させる可能性があると研究チームは述べている。
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この研究でわかったこと
・食べると小人の幻覚を見るキノコが存在する
・このキノコには、知られている幻覚の成分が入っていなかった
まだわかっていないこと
なぜ小人の幻覚が見えるのか、原因はまだわかっていない
References: Experts Explore New Mushroom Which Causes Fairytale-Like Hallucinations | Natural History Museum of Utah[https://nhmu.utah.edu/articles/experts-explore-new-mushroom-which-causes-fairytale-hallucinations] / doi.org/10.1080/00275514.2026.2670968[https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/00275514.2026.2670968]











