グリーンランドの海でホッキョクダンゴイカが初めてカメラに捉えられる
Image credit:Maroni, P.J., Cornet, J., Skorikova, Y. et al./Springer Nature

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 北極圏にある「世界最大の島」グリーンランドには、まだどんな生き物が暮らしているのか、今も十分にはわかっていない場所がある。

 この島のフィヨルドを調査していた研究チームが、水深50mの海底で小さなホッキョクダンゴイカと、そのすぐ近くに産み付けられた3つの卵塊を発見した。

 この海域で、ホッキョクダンゴイカ生きた個体と卵塊が自然の状態で確認されたのは初めてのことだ。

 これまでほとんど調査されてこなかった北極圏の海で、彼らが実際に生き、繁殖していることを示す新たな証拠が見つかったのである。

 この研究成果は『Polar Biology[https://doi.org/10.1007/s00300-026-03518-6]』誌(2026年7月8日付)に掲載された。

北極圏の海に生きる「ホッキョクダンゴイカ」

 世界最大の国立公園であり、最も北極点に近い国立公園でもある「北東グリーンランド国立公園」。

 97万2000平方kmの広大なエリアには、ホッキョクグマやジャコウウシ、セイウチなど、多くの野生動物が暮らしている。

 西オーストラリア大学(UWA)生物科学部のペイジ・J・マロニ博士は、この公園について次のように説明している。

北東グリーンランド国立公園は地球上で最大の国立公園ですが、北極圏の海洋地域の中でも、生物学的な記録が最も少ない地域の一つなのです

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 だが、その海の中にどんな生き物たちが暮らしているのかは、現在も十分にはわかっていない。

 2025年9月、遠隔操作型無人潜水機(ROV)を使った調査を行っていた海洋生物学者らの研究チームは、水深50mの岩壁付近で小さな頭足類を発見した。

 その正体は、北極圏に生息するダンゴイカ科の「ホッキョクダンゴイカ(Rossia moelleri)」とみられる、成熟したメスの個体だった。

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マイナス1.6度の厳寒の海

 当時、研究チームは同国立公園南東部、グリーンランド海に面するキング・オスカー・フィヨルドで、海中調査を行っていた。

 北東グリーンランド国立公園は、世界最大の面積を持つ国立公園として知られているが、公園内に生息する海洋生物に関する情報は決して多くない。

 そのため、この海は北極圏でも生物学的な記録が極めて乏しく、まさに生物学的な空白地帯とも言える場所だった。

 研究チームは調査船から小型のゴムボートを出し、そこから最新の4Kカメラを搭載した軽量ROVを海中へ投入した。

 約60分間に及ぶ潜航の途中、ROVは水深50mの切り立った岩壁で、1匹のイカと遭遇した。

映像に記録された個体の大きさは、全長約10cmほどとみられている。

 ROVのカメラには、海底近くを泳いだり、岩の上で羽を休めるようにじっとしている姿が捉えられており、研究チームは映像から成熟したメスと判断した。

 驚くべきことに、観測時の周囲の水温はなんとマイナス1.6度だったという。マロニ博士はこの環境について、次のように説明している。

イカと卵は水深50m、水温約マイナス1.6℃の場所で記録されました。このことは、地球上でも特に過酷な環境のひとつに暮らす海洋生物のたくましさを示しています

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岩に産み付けられた卵塊から種を特定

 さらに研究チームを驚かせたのは、そのすぐ近くの岩に、3つの卵塊が付着していたことだった。

 この国立公園内のエリアで、ホッキョクダンゴイカとその卵塊が、自然の生息環境で直接確認されたのは、実はこれが初めてである。

 これまで確実な記録がなかった未知の海域で、今回ホッキョクダンゴイカの存在だけでなく、繁殖を示す証拠まで得られたことになる。

 映像の中の卵嚢はブドウの房のように密集しており、3つの塊にはそれぞれ約22個・33個・50個の、合わせて約105個の卵嚢が含まれていた。

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 実は今回、この個体がホッキョクダンゴイカであると判断された最大の決め手が、この岩場に付着した卵塊だったのだ。

 ホッキョクダンゴイカこと「Rossia moelleri」は、1856年にすでに記載されており、新たに発見された新種というわけではない。

 北極圏にはRossiaつまりボウズイカ属のイカが3種いることが知られており、Rossia moelleriのほか、近縁種であるR. palpebrosaとR. megapteraが生息している。

 この近縁の2種は、小さくて丸い卵を海綿の中に産み付ける習性がある。

だが、今回の卵塊は岩の表面に直接付着しており、卵嚢自体も比較的大きかった。

 こういった特徴は、ホッキョクダンゴイカ特有の繁殖スタイルと、完璧に一致していたのである。

 また、ホッキョクダンゴイカはこの3種の中でも特に体が大きく、極低温への適応能力が最も高い種として知られている。

 北東グリーンランドの極寒のフィヨルドで卵塊が確認されたことは、この海域でダンゴイカ科の仲間が繁殖していることを直接示す証拠となったのだ。

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世界で一番速いスピードで温暖化が進んでいる場所

 ではなぜ、この場所でのホッキョクダンゴイカの発見が、これほど重要視されているのだろうか。

 それは、彼らが海洋環境の変化をいち早く知らせてくれる、一種のバイオインジケーター(生物指標)だからである。

 これまでこの広大な国立公園内で記録された海洋生物1万4497件のうち、頭足類の記録はわずか7件しかなかった。

 イカやタコなどの頭足類は寿命が短く、水温や塩分濃度の変化に非常に敏感でな生き物だ。

 北東グリーンランドでは現在、地球上で最も温暖化が速く進んでいるという。海氷や氷床の減少が進み、氷河を取り巻く環境の変化が著しい場所である。

 この海域において、今彼らがどこでどのように繁殖しているかを記録しておくことは、今後の生態系の変化を追跡するための貴重な基準となるのである

 今回の調査には、大型の調査船では進入できない狭いフィヨルドでも自在に動ける小型ROVが使用された。

 マロニ博士は、こうした機動性の高い小規模な調査手法が、今後も極地の未知なる多様性の空白を埋める鍵になると強調している。

この地域の生物多様性について知識を蓄積することは、加速する気候変動の中で、生態系の機能や変化への耐性を理解するために重要です。

今回の研究は、急速に温暖化する北極圏の生態系変化を追跡するための、新たな貴重な基準を提供します

 博士はこのように述べるとともに、今後の調査でホッキョクダンゴイカが以前からこの海域に生息していたのか、それとも近年になって生息域を広げてきたのかを明らかにする必要があるとしている。

 さらに、今回確認された個体が、既知のホッキョクダンゴイカと同じ種なのかについても、詳しく調べていく必要があるという。

 こういった謎を解き明かすことは、急速に変化する北極圏の生態系が、今後どのような道を辿るのかを予測する重要な手がかりになるかもしれない。

References: Rare sighting of Arctic bobtail squid and egg masses[https://www.uwa.edu.au/news/article/2026/july/rare-sighting-of-arctic-bobtail-squid-and-egg-masses] / DOI: 10.1007/s00300-026-03518-6[https://link.springer.com/article/10.1007/s00300-026-03518-6]

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