個人的に辛い経験をした人が陰謀論に引き込まれる心理的メカニズムが、英ノッティンガム大学の研究で明らかとなった。
苦難の経験そのものが直接的に陰謀論につながるわけではなく、そのことで「この世界は不公平だ」という思い込みが強まり、それが自分の苦しみに説得力を与えるため、陰謀論が魅力的に見えてくるのだという。
不公平感こそが陰謀論の引き金だというのだ。
この研究成果は『British Journal of Psychology[https://bpspsychub.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/bjop.70101]』誌(2026年8月4日付)に掲載された。
個人的な辛い経験と陰謀論の関係に注目
陰謀論とは、大きな出来事や状況の裏に、根拠の有無にかかわらず「邪悪で強力な集団(組織)による陰謀が関与している」と考える説のことだ。
陰謀論が誕生する理由について、これまでの研究は、集団単位のトラウマに焦点が当てられていた。
歴史的な抑圧を受けた集団が社会の制度に不信感を抱くことは、すでに広く知られていたからだ。
一方で、個人的な重い病気や経済的な破綻といった、その人が属する集団とは無関係な個人の苦難については、ほとんど調べられていなかった。
そこで、ノッティンガム大学の心理学准教授であるダニエル・ジョリー氏と助教授のローラ・ブラッキー氏らの研究チームは、個人的な逆境が「世界は公平だ」という前提を崩し、陰謀論を魅力的にするのではないかと考え、3つの研究を行った。
逆境そのものではなく、不公平感が陰謀論につながっていた
最初の調査では、275人に対して、これまでの人生で経験したつらい出来事を尋ねた。
項目は重い病気やけが、家族との死別、経済的な困窮、家庭内の暴力、離婚、自然災害など35種類あり、参加者は自分に当てはまるものを選んでいった。
あわせて、過去6か月間の経済的な苦しさ、世界をどれくらい不公平だと感じているか、陰謀論をどれくらい信じやすいかも回答した。
調査の結果、つらい出来事を多く経験した人ほど陰謀論を信じやすい、という直接のつながりは見つからなかった。
苦難を経験したからといって、誰もが陰謀論を信じるわけではなかった。
しかし、最近の経済的苦難と陰謀論的思考の間には関連があった。
逆境が多い人も、最近お金に困っている人も、世界は不公平で不当な場所だという信念を強く持っていた。
そして、この主観的な「不公平感」が高まることによって、陰謀論を信じやすくなっていたのだ。
犯罪被害者に強い不公平感を通じて陰謀論に近づく
2番目の調査では、特定の個人的な逆境に焦点を当てるため、暴力犯罪の被害に遭った232人と、いかなる犯罪の被害にも遭ったことのない226人を比較した。
集団差別による影響を排除するため、参加者はイギリスで働く白人で、シスジェンダー(生まれたときの性別と自分の性の認識が一致している人)の異性愛者に限定された。
ここでも最初の調査と同じように、被害者が被害にあってない人より陰謀論を信じやすいという直接的な差は出なかった。
そのかわり被害者は、非被害者よりもはるかに強い不公平感を抱いていた。
犯罪の被害にあった人ほど強い不公平感を抱き、不公平感が強い人ほど陰謀論を信じやすいという間接的な関係が確かめられた。
この結果は、年齢や性別といった変数を調整しても変わらなかった。
不公平な社会という思い込みがもたらす影響
3番目の調査では、538人の成人を対象に、不公平感を実験的に操作した。
参加者を2つのグループに分け、一方は「イギリス社会はますます公平になっている」、もう一方は「ますます不公平になっている」と主張する架空のニュース記事を読ませた。
その後、仮に就職の面接を受けたら自分がどう評価されるかを想像してもらい、続いて陰謀論についての質問に答えた。
その結果、社会が不公平だという記事を読んだグループは、面接で自分が不当に評価されると感じた。
さらに、このグループは、公平な記事を読んだグループよりも、政治にまつわるものを含めて、論陰謀論的思考が高い数値を記録した。
研究チームはこのデータから、個人の逆境が不公平感を生み、不公平感が政治にまつわる陰謀論を強め、その先で議会や裁判所、学校といった社会の仕組みへの信頼が下がっていくという流れを見出した。
ただし研究には限界も
ただし、この研究には限界もある。
最初の2つの調査は相関関係を示したものであり、もともと陰謀論を信じている人が、自分の過去の経験を「世界は自分に不利に仕組まれている」と解釈し直している可能性も残る。
辛い出来事を数で数える方法にも弱点があり、たった一つの出来事が世界観を大きく変えることまでは捉えられない。
今後は同じ人を何年も追いかける調査で、逆境と不公平感、陰謀論がどう影響し合うのかを確かめる必要がある。
また、ジョリー准教授は、辛い時期を過ごした人の大多数が陰謀論を受け入れるわけではないと念を押している。
「大事なのは、その人に何が起きたかではなく、その経験がその人の世界の見方をどう形づくるかです」
それでも3つの研究は、同じ道筋を繰り返し示していた。
人を陰謀論へ向かわせるのは苦難そのものではない。苦難を経て「この世界は不公平だ」と思うようになったとき、自分の苦しみを説明してくれる話として、陰謀論が魅力を持ちはじめるのだ。
References: doi.org/10.1111/bjop.70101[https://bpspsychub.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/bjop.70101] / Believing the world is unfair may explain why some who experience adversity are drawn to conspiracy theories[https://www.psypost.org/believing-the-world-is-unfair-may-explain-why-some-who-experience-adversity-are-drawn-to-conspiracy-theories/]











