※本稿は、西岡壱誠『東大うつ』(ベスト新書)の一部を再編集したものです。
■地方と関東で起こっている「受験格差」
「早期の受験対策が過熱しているのは、都会だけの話じゃないの?」と思う人もいるかもしれません。地方部なら、そこまで過剰な競争は起きていないのではないか、と。この感覚自体は、ある意味では正しいと思います。
実際、地方では首都圏ほど受験環境が極端に最適化されていない地域も多い。しかし、その裏返しとして起きているのが、東大が“都市部の人しか入れない大学になってきている”という現象です。東大生の出身地を見渡すと、ここ数年で「地域の偏り」がかなり強くなってきています。
2025年度の前期日程入試における東大合格者について、関東(1都6県)出身者の割合は約62%に達しました。これは、合格者の約6割を首都圏が占めているという数字で、20年前と比べても明確に上昇しています。
それに対して、関東以外の地域(近畿・中部・九州・中国・四国・北海道・東北など)出身者の割合は、過去20年間で大きく減少しています。かつては「関東以外」で合格者の過半数近くを占めていた時期もありましたが、直近ではその割合が38%前後まで落ち込んでいるという分析もあります。
■地方の国立大学に地元民が入りにくい
ここまでの数字になると、単に「首都圏の人口が多い」という話では説明できません。東大受験という仕組みそのものが、都市部、とくに首都圏に極端に有利な構造になっているという現実が見て取れます。
中学受験環境、進学塾の集積、情報量、家庭の教育投資が今や段違いです。こうした条件がそろいやすいのは、どうしても都市部になってしまい、結果的に地方の人が東大に合格しにくい現状があるのです。
そして、これは東大だけに限った話ではありません。たとえば北海道大学でも、同じような現象が起きています。2025年度の北海道大学への入学者を見ると道内出身者は3割を切り、関東圏をはじめとする道外出身者の比率が高まっています。
本来であれば「地域の中核大学」であるはずの国立大学に、地元出身者が入りにくくなり、代わりに首都圏出身者が流れ込んでいる。これは、地方の学力が急激に落ちたからではありません。背景にあるのは、明確な教育環境の格差です。進学塾の選択肢、受験情報へのアクセス、模試や講習の機会、家庭が教育にかけられる時間と資金。こうした要素は、どうしても都市部に集中しやすい。
■受験用に教育された学生ばかりが増える
一方で地方では、そもそも中学受験という選択肢自体が現実的でなかったり、進学塾が限られていたりするケースも多い。結果として、「受験に最適化された人材」が都市部で大量に育ち、その層が全国の難関大学を席巻する構図ができあがっています。
つまり、今起きているのは「個人の努力の差」ではなく、地域と都市の教育構造の差が、そのまま大学の学生構成に反映されているという現象なのです。そしてこの構造が進めば進むほど、大学に集まる学生のバックグラウンドは似通い、価値観も、経験も、世界の見え方も均質化していく。とくに東大についてはその傾向が顕著です。
首都圏で育ち、私立中高一貫校に進み、同じような受験ルートを歩んできた学生が増える。これは学習効率の面では明らかな強みですが、一方で社会の多様な現実に触れる機会が減っているという側面も否定できません。
そのことが、はっきりと表れた例があります。2016年度の東京大学の地理の入試で、「市町村合併が地域社会、とくに山間部にどのような影響を及ぼすか」を問う問題が出題されました。内容自体は、決して奇抜な問題ではありません。
■想像力の乏しい東大生
市町村合併はニュースでも繰り返し報じられてきましたし、教科書にも載っているテーマです。地理の基本的な知識を押さえていれば、十分に考察できる問題だったと言っていい。
たとえば、役所が遠くなる、交通手段が限られる、高齢者が行政サービスにアクセスしづらくなる、といった話は、地方で暮らしていれば日常感覚として理解できます。しかし、都市部で育ち、行政サービスが当たり前に身近にある環境で暮らしてきた人にとっては、その「不便さ」を実感として想像するのが難しい。つまりこれは、知識量の問題ではありません。東大生だからこそ解けてほしかったタイプの問題で、東大生でも「できていない人が多かった」という点が重要なのです。このエピソードは、東大生の能力が低いという話ではありません。
■「答えが一つではない」問題には脆い
むしろ逆です。彼らは、受験に最適化され、抽象化された知識処理には非常に強い。一方で、生活感覚や現実の不均一さ、地域ごとの事情といった、「答えが一つではないカオス」を前提に考える問題には、弱さが出やすい。そしてこの弱さは、地理の問題だけにとどまりません。
もう一つの側面として、「社会のカオス」への接触機会の減少があります。
そこでは、基本的に謝る必要も、怒られる必要も、他人と強く衝突する必要もありません。評価基準は明確で、正解があり、努力がそのまま成果に結びつく。受験の世界と非常によく似た環境です。
しかし、社会に出ると話は一変します。数字や理屈だけでは動かない人がいる。正論を言っても通らない場面がある。感情、立場、歴史、人間関係が複雑に絡み合う。そこには、教科書的な正解も、模試の解説もありません。
■受験の過熱化が生み出した構造の問題
こうした「カオス」は、受験中心の世界では必ずしも体験されません。だからこそ、東大生が社会に出たとき、「こんなはずじゃなかった」「思っていたよりもしんどい」と感じることがある。「カオスを知らない東大生」というのは、単に社会経験が浅いという意味ではありません。
受験教育が与えてきた世界観そのものが、「数字と正解で回る閉じたシステム」だったという点が、本質なのです。そしてこの背景こそが、就職活動や職場の人間関係、人生の転機において、東大生を不意に追い詰めてしまう一因になります。
受験構造の変化は、単に試験の難易度を変えただけではなく、東大生たちの社会的な地理感覚や、現実への耐性そのものにも影を落としている。この点は、東大うつを考える上で、避けて通れない論点だと、僕は考えています。
----------
西岡 壱誠(にしおか・いっせい)
カルペ・ディエム代表
1996年生まれ。偏差値35から東大を目指すものの、2年連続で不合格に。二浪中に開発した独自の勉強術を駆使して東大合格を果たす。2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立。全国の高校で高校生に思考法・勉強法を教え、教師に指導法のコンサルティングを行っている。日曜劇場「ドラゴン桜」の監修や漫画「ドラゴン桜2」の編集も担当。著書はシリーズ45万部となる『東大読書』『東大作文』『東大思考』『東大算数』(いずれも東洋経済新報社)ほか多数。
----------
(カルペ・ディエム代表 西岡 壱誠)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
