人生の最期を後悔なく迎えるにはどう生きたらいいか。実行管理コンサルタントの佐藤彰太さんは「僕が最期を看取った末期がん患者さんに、入院中、とても幸せそうにしている人がいた。
その理由を聞いたところ、彼は『やり残したこと』への後悔などは一度も口にせず、僕に5つの人生訓を授けてくれた」という――。
※本稿は、佐藤彰太『絶対に「終わらせる」時間術』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■末期がん患者が教えてくれた5つのこと
自衛隊横須賀病院。
僕が海上自衛隊に所属していたときに勤務していた病院だ。
「自衛隊」と掲げられているように、元は自衛隊員専門の職域病院だったのだが、僕が勤務していたころには、一般の患者さんも受け入れる総合病院となっていた。
入院病棟も同様で、ありとあらゆる病態、病状の患者さんが入院していた。なかには末期がんでターミナルケアを受けている患者さんもいたので、僕は衛生兵(准看護師)として最期を看取ることもあった。
特に印象的だったのはAさんだ。
聞けば、ギター一本で世界中を旅してきたシンガーとのこと。進行性のがんを患っており、僕が担当についたころは、すでに末期だった。
Aさんは決して裕福そうではなかった。しかし、話を伺っているだけで、お金では測れない幸福な人生を送ってこられたことが伝わってくる。

そこである日の回診時、世間話の流れで、ふと「どうしてAさんは、そんなに幸せそうなんですか?」と聞いてみた。
当時、僕は20代半ば。今にして思えば少々失礼だったかもしれない。でも、いつも豪快で大らかなAさんは、僕のそんな素朴な問いかけに、にこやかに答えてくれた。
■「名湯巡り」より「歌うこと」を選んだ理由
そこから得たのが、次の5つの人生教訓だ。
①「大好きなこと」より、「大切なこと」に時間を使う
「大好きなこと」は自己完結的で、そのときどきの感情に左右されやすいものだ。
これに対して「大切なこと」は、身近にいる大切な人をはじめとした「他者の存在」がつねに頭にあり、「その人たちのために自分に何ができるか」という気持ちと意志を働かせるものとなる。
そう捉えてみると、「大好きなこと」を優先させる人生よりも、「大切なこと」を優先させる人生のほうが、豊かなのではないだろうか。
Aさんは昔、温泉が好きで名湯巡りを趣味にしていたそうだ。
でも、ギターを弾いて歌うと周りの人たちが喜んでくれる。「だから僕は歌を選んだ」と。Aさんにとって温泉は「大好きなこと」だったが、弾き語りは「周りを幸せにできること」だった。
ここで後者が「大切なこと」だと気づき、そのために生きる選択が、Aさんの人生をより豊かにしたわけだ。
一度きりの人生、自分がワクワクすることをしよう、という考え方もあると思う。まず自分を幸せにすることの重要性も理解できる。
しかし、それだけでは、どこまでいっても自分本位な人生になってしまう。ベクトルが自分にしか向いていない。言ってみれば、“狭く閉じた人生”だ。
Aさんの話を聞いて、僕は一度きりの人生だからこそ、自分自身の幸せを考えながらも、もっと大きな意味や使命感を探究していきたいと思った。それを見出すことが、結局は自分自身の幸せにも還元されるのではないか、と。
以来、僕は「周りが喜ぶことは何か」「自分には何ができるか」を、自分自身に問いかけながら生きている。
■あえて何もしない時間を確保する
②大切なことを見つけるには、「自分と向き合う時間」をつくる
では、どうやって「大切なこと」を見つければいいのだろうか。
僕が思うに、それには「自分と向き合う時間」が必要なのではないか。
つねに時間に追われている毎日では、「自分ができることで周りが喜ぶことは何か?」などと、自問自答する余裕はもてない。
だからどんなに忙しくても、あえて何もしない時間を確保して、自分と対話する必要があるのだ。
さて、「自分との対話時間」を確保できたら「自分の大切な人は、自分が何をすれば笑顔になるだろうか」「周囲を笑顔にするために、自分ができることは何だろうか」「自分が今、この世に生きている意味は何か」を、問いかけてほしい。それは、自分の人生を見つめ直す根源的な問いになる。
こうした問いと向き合うには、スマホをOFFにし、パソコンも閉じて、あらゆるデバイスから距離を置きたい。30分でも1時間でもいい。情報を遮断した静けさのなかで自分の人生を見つめ直せば、きっと「大切なこと」が見えてくるにちがいない。
■人生をシンプルに、深めていく
③大切なことが見つかったら、それ以外を「手放す」と決める
Aさんは、自分にとっての「大切なこと=歌うこと」を人生の中心に据え、それ以外を少しずつ手放していったそうだ。安定した仕事を辞し、これまでの人間関係も整理し、「安定した生活」よりも「自分らしい生活」を選んだのだ。
何かを「手に入れたとき」よりも、実は「手放したとき」に、人生は大きく変わるのだろう。遠くへ行きたいのに荷物を増やしたら、旅は苦しくなる。人生も同じだ。
「大切なこと」以外を手放すといっても、やることが減るわけではない。

「あれも、これも」と手当たり次第に手を出すのではなく、人生の中心に据えた「大切なこと」を極めるために、たくさんチャレンジするのだ。すべてのチャレンジが、その大切なことに集約され、昇華していくイメージだ。
あくまでも「大切なこと」を自分の真ん中に置いて、これからすべきこと、したいことを決めるようにすると、迷いが消える。それ以外のものは手放す、かかわらないと決めることで時間の使い方も変わっていく。
「大切なこと」が見つかれば、人生はシンプルで、深みのあるものになるのだ。
■成功や肩書き、財産ではない
④人生の最期に人を納得させられるのは「満足感の多寡」である
ターミナルケアの現場では、最期が近づくほど、人は成功や肩書き、財産といった「獲得物」よりも、「人生への満足感」を語るようになる。
Aさんも例外ではなく、ターミナルケアを受ける病室で、しばしば「僕は歌を選んで歌に生きた。歌を通じて多くの人々と出会い、愛し、愛された。これでよかった」とおっしゃっていた。
Aさんは、決して裕福ではなかったけれども、ご自身の人生には疑いなく納得しておられたのだと思う。
そして、Aさんの「幸福な死」を迎えられた姿を見て、僕は、ひとつの結論を得た。
人生の最終盤、死への旅路に向かう準備にあるなかで人を納得させるものは、「財産の多寡」ではなく、どれほど己の人生に納得しているかという「満足感の多寡」だ。

自分自身の人生を生き切ったという納得感と、どれだけ多くの人と愛ある人間関係を築けたか――それこそが、人生の最期に自分を満たしてくれるものなのだ。
■自己納得感の源
⑤「終わらせることが何もない」状態が究極である
Aさんとは病室でよくお話をさせていただいたが、「やり残したこと」への後悔などは一度も口にされなかった。
それは「歌うこと」を人生の中心に据え、それだけを極めてきたからなのだろう。
その清々しいまでの最期は、人生の中心に据えた「大切なこと」をやり切った人特有のものだったのだと思う。
人生の中心に据えるものがないまま、場当たり的に行動していると、最期の最期まで「あれもやらなかった」「これもやらなかった」「まだまだ、やりたいことがあった」という後悔が残りそうだ。
そうではなく、ひとつのことを追究してきたからこそ、最期に「もう十分です」と潔く言える人生。言い換えれば、「もう終わらせることが何もない」状態が、究極の最期であり、自己納得感の源なのかもしれない。
では、そんな最期へと向かうために、何をすべきか。それこそが目標達成に向けて計画した今日という一日を、しっかり「終わらせる」ことだ。
何かを終わらせては何かを始め、始めては終わらせる。この積み重ねが、何ひとつ後悔のない、もう「終わらせること」がない最期へと向かう一本道を切り拓いていく。
■大切なことに集中するために計画する
Aさんが教えてくれたのは、なにも特別な生き方ではない。
「何に時間を使うか」を最期まで自分で選び続けようという、ただそれだけのことだ。
時間管理というと、多くの人は「やるべきことを効率よく終わらせる技術」だと思いがちだ。もちろん、それも大切だろう。しかし、それだけでは人生の満足度は決まらない。
本当に問われているのは、「その時間は、自分にとって大切なことに使われているのか」という一点だ。
「大切なこと」が定まっていないまま時間を管理しようとすると、計画はすぐに窮屈なものになるだろう。
しかし「大切なこと」がはっきりしていれば、日々の計画は、それを究めていく道を開く道具になる。やることを増やすための計画ではなく、大切なことに集中するための計画だ。
「この時間は、僕にとって本当に大切な時間だろうか」
そんな問いを抱きながら計画を立てていくと、時間は単なる消費ではなく、人生への投資に変わっていく。
本書で紹介してきた時間管理法は、実は、すべてこのためにある。
最初のうちは「今、課されている(あるいは自分に課している)仕事」をこなすことで頭がいっぱいだろう。
しかし、慣れてきたら少し視野を広げてみてほしい。
本書でお伝えしてきたノウハウを、当面のタスクだけでなく、人生そのものにも当てはめ、生きる目的や意義、「大切なこと」を追究するために活用してほしい。
それが、本書の最終目標だ。

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佐藤 彰太
実行管理コンサルタント

1991年、北海道旭川市出身。高校卒業後、海上自衛隊に勤務。徹底した時間管理と厳しい規律の洗礼を受け、「先を読んで行動する力」を身につける。その後、衛生兵(准看護師)として自衛隊横須賀病院勤務を経て、2013年研修商材を販売するフルコミッションセールスマンとして独立。3カ月間成約ゼロ、無収入が続くなか、忙しいのに余裕がある人の行動を徹底的に研究し、最短ルートで成果を出す方法を追求。その頃から徐々に成約件数が増え始め、やがてトップセールスに登りつめる。2017年株式会社シャイニングステージを設立。以降、商品開発やセールスシステムの開発コンサルティングを1万5000件以上実施。その傍ら、1000人以上の経営者に「時間管理術」を指導するように。「計画」「着手」「完遂」の不全に対応した、実践的かつ再現性の高い時間管理術が「時間を味方につけ、人生を充実させる技術」として好評を博している。

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(実行管理コンサルタント 佐藤 彰太)
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