人々はどのように、信頼できる情報を選んでいるのか。『フィードの中の民主主義 SNS時代の世論と情報の届き方』(朝日新書)を出した立命館大学准教授の谷原つかささんは「ネットは玉石混淆であると気づきつつも、人々は自分が見ているYouTubeチャンネルは信頼できると思う傾向にある」という――。

■「ネットは信頼度が低い」のか
メディア利用の調査に必ず入っているのが各メディアの信頼度です。私もセオリー通り質問し、セオリー通りの結果が出ました(図表1)。
SNSやTikTok、YouTubeに比べてテレビ・新聞は信頼度が高い(とはいえこのサンプルではYouTubeにかなり追い上げられていますが)、という説明が一定は可能です。また、YouTubeとTikTokで明確に差が出ている点も興味深いです。日本人のTikTokに対する信頼はまだまだ高くないようです。
ノルウェーで行われた科学的研究では、Facebook経由で見たニュースは、同じニュースでも元サイト(公共放送NRKのサイト)で見た場合より信頼性が低い(特に政治家、それも対立政党の政治家が共有した場合はさらに低くなる)ということを明らかにしています(*1)。媒体そのものにより、信頼度に差があることが示唆されます。
*1 Karlsen, R., & Aalberg, T(. 2023). Social Media and Trust in News: An Experimental Study of the Effect of Facebook on News Story Credibility. Digital Journalism, 11(1), 144-160.
■政治経済・ビジネス系チャンネルの信頼度
しかしこれらはあくまで、各メディアに対するイメージを測定したものでしかありません。例えばYouTubeと一口に言っても、組織で運営しているようなかなりエスタブリッシュされたチャンネルから、個人で運営しているVlogのようなチャンネルまで幅広くチャンネルがあります。
そこで今回の調査では、日本で人気の政治経済・ビジネス系のチャンネルを挙げ、それらに対する認識を質問しました。手順としては、まず個別チャンネルの視聴頻度を質問し、見たことがないという人を除外して、各チャンネルの視聴者に各チャンネルの信頼度を質問しました。見たことがない人は当該チャンネルを評価しようがないからです。

結果を図表2に示します。ほとんどのチャンネルが信頼度の中間値である4を超えています。図表1で示した通り、テレビ・新聞の信頼度が3.86でしたから、それ以上に「自分の見ているチャンネル」を信頼しているということになります。
ただしこの比較はフェアではありません。図表1はテレビ・新聞を全く見ない人の評価も入っています。そうした人は、そもそもテレビ・新聞を信頼していないから見ていない可能性があり、信頼度の平均値を押し下げている可能性があります。
そこで、テレビ・新聞利用が0の人を除いて再度信頼度を算出すると、4.08というスコアになりました。それに対して、個別チャンネルごとの信頼度の平均は4.26です。これを統計的検定を行いつつ比較すると、統計的に有意な差があると結論付けられました(ただし差は小さいと評価されました)。
■テレビより信じられる自分が選んだチャンネル
もう少し細かく見ていきましょう。図表3は、各チャンネル視聴者の各チャンネルの信頼度平均とテレビ信頼度平均を比較したものです。
全体として、意外にも各チャンネル視聴者は、全サンプルのテレビ信頼度よりも平均的に高いテレビ信頼度を有する傾向にあります。

しかしやはり多くのチャンネル視聴者において、テレビよりも自分が見ているYouTubeチャンネルを信頼している傾向にあります。
各棒グラフの上に「*」マークや「ns」という表記がありますが、これは統計的な検定の結果を示します。「**」または「***」は統計的に有意な差があったことを示し、「ns」は有意な差が観察されなかったことを示します。
チャンネル別に見てみると、一番差が大きいのが三橋TV、次に高橋洋一チャンネルとReHacQが続きます。個別のチャンネルの論評は控えますが、これらのチャンネルの視聴者は、それなりの程度(それでも差は小さいと評価されましたが)、テレビよりこれらのチャンネルを信頼しているということです。
■欧米でも広がる「オルタナティブメディア」
海外の研究も紹介しておきましょう。先ほどから論じている政治経済・ビジネス系チャンネルの隆盛は日本だけの現象ではありません。欧米ではそうしたチャンネルを「オルタナティブメディア」と呼び、研究が始まっています。
スウェーデンで実施された調査では、既存メディア視聴の信頼形成とオルタナティブメディア視聴の関係が探求されています(*2)。
調査の結果、既存メディア信頼→既存メディア利用の因果は一貫して確認された一方で、既存メディア利用→既存メディア信頼の因果は不安定でした。
また、既存メディア信頼→右派オルタナティブメディアの利用抑制の因果は不安定である一方で、右派オルタナティブメディア利用→既存メディア信頼の低下は一貫して観察されました。
また、オルタナ志向の人はニュース関心が高く、主流ニュースにも触れていますが、主流メディア信頼は低下していくようです(*3)。

*2 Tsfati, Y., Vliegenthart, R., Strömbäck, J., & Lindgren, E(. 2025). An asymmetrical reinforcing spiral? Disentangling the longitudinal dynamics of media use and mainstream media trust. Journal of Communication, 75(1), 16-26.

*3 Andersen, K., Shehata, A., & Andersson, D(. 2023). Alternative news orientation and trust in mainstream media: A longitudinal audience perspective. Digital Journalism, 11(5), 833-852.
■「自分のメディア空間」形成の時代へ
以上の傾向から何が言えるかというと、「ネットは信頼できない」と「ネットのほうが信頼できる」は両立しうるということです。
人々は、ネットは玉石混淆(こんこう)であると気づきつつも、自分が見ているチャンネルは信頼できると思う傾向にあるようです。
私はこれを批判したいのではありません。マスメディアが一律一斉に人々に情報を届ける時代が終焉を迎えつつあり、人々が自身でメディアを選んで自分のメディア空間を形成していく時代に入っているということが示唆されます。
それ自体は決して悪いことではなく、むしろ個人による主体的な情報環境の形成は尊重されるべきだと考えます。ただし現代のメディア環境において、人々が本当に「主体的に」情報環境を形成できているかは疑問が残ります。プラットフォームのアルゴリズムに多分に影響を受けていることが考えられるからです。

----------

谷原 つかさ(たにはら・つかさ)

立命館大学産業社会学部准教授

1986年生まれ。立命館大学産業社会学部准教授。国際大学GLOCOM客員研究員。大学卒業後中央官庁勤務を経て、2022年慶應義塾大学大学院より博士号(社会学)を取得。計算社会科学会大会優秀賞、社会情報学会論文奨励賞など、学会賞の受賞多数。

メディア等にも多数寄稿・出演。著書に『「ネット世論」の社会学 データ分析が解き明かす「偏り」の正体』(NHK出版新書)など。

----------

(立命館大学産業社会学部准教授 谷原 つかさ)
編集部おすすめ