■「まるでプロモーションビデオ」という批判
このところ、官邸や内閣広報官そして高市首相自身から発信される情報が、たびたび物議をかもしています。
直近では、8月3日に被災地の熊本入りした高市首相の視察活動が官邸のX公式アカウントに2分弱の動画として公開されましたが、これは被災地の実情を映し出したものではなく、BGM付きで被災者の困難とはあまりにもかけ離れた高市首相のプロモーションビデオにさえ見えるものであったことから、多くの非難をあびています。
これに先立つ7月20日(海の日)の夜10時過ぎ、高市首相が自身のXアカウントにアップした600字超という長文投稿にも、国内外から大きな驚きと批判の声があがりました。
この投稿によれば、高市首相は7月に入ってからの土日は骨太方針や成長戦略の資料読みや国会答弁準備に追われ、平日も家事をしながら明け方まで資料読みに費やすことになっていたといいます。首相自ら自身の「過酷な私生活」を赤裸々に発信したことに、多くの驚きの声があがりました。
さらに注目されたのが文章の後半部分の「今日のお休みは本当に有難く、久々に5時間も睡眠を取れた上(総理就任以来、0時間~3時間睡眠が常態化)」との記述です。
一読した私は、思わず医師として「危ない」と感じました。この文章のなかに看過できない2つの大きな「危うさ」を見出したからです。
そこで本稿では、この高市首相による投稿のどこが危険であるのかを、医師の視点から論じてみたいと思います。
■3時間睡眠の医師に命を預けるか
ところで、皆さんの職場では、睡眠時間をけずって仕事をしている人は「頑張っている人」として高評価されるでしょうか。それとも、時間の使い方や健康にかんする意識を欠いた「セルフマネジメントできない人」とみなされてしまうでしょうか。
もし、あなたの体にメスを入れようとしている外科医が「連日3時間睡眠での激務のなか頑張っている」と誇らしげに語っているのを聞いてしまった場合、あなたはその医師のオペを受けるでしょうか。それともその医師のオペを即座にキャンセルしようと思うでしょうか。
睡眠不足で連日働いているのが、一国の総理大臣であった場合はどうでしょうか。「国民のために寝る時間を惜しんで尽力してくれている」と感動するでしょうか。それとも「急に倒れて総理不在となってしまわないか、国の重要政策やデリケートな外交課題の判断を誤らないか」と不安になってしまうでしょうか。
「危うさ」の1つめは、この一国のリーダーたる高市首相の睡眠不足が常態化しているという点です。
■研究結果「アルコール酩酊時に匹敵しうる」
言うまでもなく、睡眠時間は健康維持のためには非常に重要で、睡眠不足によってもたらされる「異常」は、たんなる「眠気」だけにとどまりません。
短期的には、強い眠気、疲労感、頭痛、だるさ、情動不安定がまず出ます。これらは経験者であればうなずけることでしょう。くわえて、集中しづらい、反応が遅い、判断が鈍る、ミスが増えるといったことも起こり得ます。
睡眠不足が慢性化すれば、高血圧や心筋梗塞、脳卒中といった循環器・脳血管疾患の増悪因子にもなり得ます。さらに2型糖尿病リスクや精神疾患リスクの上昇に加え、免疫・炎症系への悪影響も指摘されています。
つまり0~3時間の睡眠が常態化していると、もともと健康である人でさえ心身の異常を引き起こしかねませんし、基礎疾患を持っている人であれば、なおさら危険があるということになります。
これほどの睡眠不足であれば、健康面はもちろん、仕事をはじめとした社会活動への影響も甚大です。
私が2019年に上梓した『病気は社会が引き起こす~インフルエンザ大流行のワケ』(角川新書)では、医師の過重労働の問題も取り上げました。ここでは1997年と少し古い論文ですがDawson & ReidのNature論文を引用し、睡眠不足による機能低下がアルコール酩酊時のパフォーマンス低下に匹敵しうることを示しました。
その後の研究でも、17~19時間の覚醒で一部の認知・運動機能が血中アルコール濃度0.05%相当(※)に達しうることも示されています。
※一般的に「ほろ酔い」といわれる状態。
■リスクは「安全保障」にも…
NHLBI(米国国立心肺血液研究所)も、睡眠不足が学習、集中、反応、社会的機能を妨げ、人の感情や反応を読み取りにくくすると説明しています。
また、持続的注意、ワーキングメモリ、反応抑制、実行機能も傷つけられます。近年のレビューでは、一晩の睡眠剥奪だけでも持続的注意、反応時間、ワーキングメモリに悪影響が出るとされており、2025年のメタ解析では抑制制御や中核的実行機能全般への障害が示されました。
抑制制御とは、自分の衝動や習慣的な行動、誘惑を意識的におさえ、目的に合った適切な行動を選ぶための認知的能力(実行機能)のことを言います。
つまり睡眠不足によってこの制御が障害されると、衝動や行動にブレーキが利かなくなるリスクが高まる可能性があるのです。
もし高市首相の投稿が真実で「0~3時間の睡眠が常態化」しているのであれば、首相の行動や判断に大きな障害が生じかねません。
「危うさ」の2つめは、高市首相が自身の睡眠不足の常態化を、自国民だけでなく世界中のあらゆる人が読めるXというメディアに投稿してしまったことです。
ここまでお示ししてきたとおり、睡眠不足イコール「健康リスク」であり「社会的リスク」であることは今や世界の常識です。
これらのリスクにくわえて、高市首相自身の発信によって、日本のリーダーがこれらのリスクを抱えながら執務していることが全世界に広まるという「安全保障上のリスク」まで、わが国は背負うことになってしまったのです。
しかもこれらのリスクを高市首相自身が認知できていないとの疑いまで招く事態となってしまいました。
■「寝ずに頑張ることがえらい」は時代遅れ
すでに多くの人が指摘しているように、「眠らずに頑張って仕事をしている」ことを武勇伝のように自慢できる社会は、すでに遠い過去に終わっています。
「いや、高市首相は睡眠不足を誇っているのではない。それだけ激務であることを発信して、少し同情してもらいたいのだ」という向きもあるかもしれませんが、それは全世界に向かってアピールするものではありません。まずは側近の方々に相談して解決策を講じてもらうのが先でしょう。
そもそも総理大臣が先頭にたって睡眠不足で激務をこなす姿をアピールすることで、今やすっかり過去の話であったはずの「寝ずに頑張ることは美徳」という時代遅れの誤った認識が再び国民に蘇ってしまえば、これは国民の生命や生活はもとより、社会さらには国家にとっても大きな損失となってしまいます。
そしてこれは、睡眠不足を注意力・判断力の低下や事故、さらには生活習慣病や精神疾患のリスク上昇を招く健康問題と位置づけ、個人の努力だけでなく、長時間労働の是正を含む職場・社会環境の整備が必要だとしている厚生労働省、すなわち日本政府の見解とも大きな齟齬があると言えましょう。
■「ヘリシーン」は非常に危険
ところで、冒頭に紹介した視察動画では、被災地上空を飛行するヘリの機内で窓ガラス越しに立ち、被災地に手を合わせる高市首相の映像も流されました。
官邸も高市首相も、支持率低下に焦ってイメージアップのために発信を続けているのかもしれません。しかしその内容が、国民に「安全」にかんする誤ったメッセージを拡散していることについては、もっと自覚的になるべきではないでしょうか。
睡眠不足をアピールしたり、飛行中のヘリで立って合掌して見せたり。常識では考えられない「危険」を実行しつつ、それをわざわざ広く国内外に発信する高市政権。
こうした政権の「判断力」や「抑制制御」に国内外から大きな疑念をもたれかねない高市首相の睡眠不足問題。
一刻も早く是正するとともに、誤ったメッセージ発信の訂正と説明責任が高市首相に求められていると言えましょう。
----------
木村 知(きむら・とも)
医師
1968年生まれ。医師。東京科学大学医学部臨床教授。在宅医療を中心に、多くの患者の診療、看取りをおこないつつ、医学部生・研修医の臨床教育指導にも従事、後進の育成も手掛けている。
note
----------
(医師 木村 知)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
