やらなければいけない仕事があるのに、先延ばしにしてしまうのはなぜか。組織アドバイザーとして累計100社を支援してきたグロースウェル代表取締役の大芝義信さんは「先延ばしは意識的な選択ではなく、脳が無意識にブレーキをかけることによって起きる」という――。

※本稿は、大芝義信『感情のブレーキを外してすぐやる人に生まれ変わるレッスン』(秀和システム新社)の一部を再編集したものです。
■どうでもいいことに時間を使って後悔
どうして私たちは、やるべきことを後回しにして、締め切り直前になって焦ることを繰り返してしまうのでしょうか。
早くやったほうがいいことはわかっているのに、やるべきタスクに向き合おうとすると手が動かない。
ふと理由なくスマートフォンを手に取り、SNSを眺め、机のまわりを片づけたり、意味もなくメールチェックしたりと、関係のないことを始めてしまう。
そして直前になって、「どうしていつもこうなんだろう」「自分はなんて怠け者なんだ」と、すぐやらなかった自分に幻滅する。
あなたも、そんなふうに自分を責めたことがあるかもしれません。
「先延ばし」と呼ばれるこの現象。これは本当にあなたが怠けていたせいなのでしょうか。
■「本物の怠け者」なら全部先延ばしする
一度、冷静に考えてみてください。もしあなたが本当に怠け者なら、何もかもを先延ばしにしているはずです。趣味も、友人との約束も、日常の用事も、すべてを先延ばししていなければおかしいと思いませんか。
でも実際にはそうなってはいません。
友人からのLINE にはすぐに返信できるし、好きなドラマなら時間通りに見始められるのではないでしょうか。
この事実は、とても重要です。なぜなら、あなたの中に、すでに「すぐやる回路」が備わっているということを意味するからです。つまり、あなたを苦しめてきた、そして現在進行形で苦しめている「先延ばし」は、生まれつき備わったものではないということです。
では、「すぐやる回路」を持っていながら、なぜすぐ行動できる場面と、行動できない場面があるのでしょうか。
そのヒントは脳にあります。
■脳が無意識にブレーキをかけている
多くの人は、先延ばしという行為を「選択の結果」だと考えています。
「やるか、やらないか」

「今やるか、後でやるか」
これらのなかから、自分の意志で「今はやらない」という選択肢を選んだから、先延ばししてしまったのだと思い込んでいます。
しかし実際には違います。先延ばしは意識的な選択ではなく、脳が引き起こす無意識の反応です。
先延ばししてしまうのは、あなたが怠けているからではありません。それは、あなたの脳が「今は動くな」とブレーキをかけているからです。
この「ブレーキ」の仕組みには、脳科学的メカニズムと、人類の進化が密接に関係しています。
■「生存モード」を司る扁桃体が働くと…
人間の脳には、大きく分けて2つのモードがあります。
1つは「生存モード」、もう1つは「理性モード」です。
この2つのモードは、それぞれ別の脳の部位が司っています。
「生存モード」を司るのが「扁桃体(へんとうたい)」と呼ばれる部位です。扁桃体は、感情の中枢とも呼ばれ、特に危険を察知した際に、不安や恐怖といった情動反応を生み出すことが知られています。
次に「理性モード」を司るのが「前頭前野(ぜんとうぜんや)」と呼ばれる部位です。前頭前野は扁桃体とは反対に、思考や感情の制御といった理性を生み出す部位です。
今、やるべきタスクを目の前にしたあなたの脳にも、実はこの仕組みが働いています。
やるべきことに直面したとき、脳は次のように問いかけてきます。
「このタスクは安全なのか?」
タスクに少しでも危険を感じると、扁桃体が働きます。すなわち、脳は「生存モード」が優位になります。
このとき脳内では、恐れ、不安、緊張といった負の感情が立ち上がります。
「失敗したらどうしよう」

「拒否されたらどうしよう」

「損したらどうしよう」
こうした強い不安や恐怖の感情が強まると、前頭前野の働き、すなわち「理性モード」は弱まり、「やったほうがいい」とわかっていたことでも、身体が動かなくなってしまいます。これが先延ばしの脳科学的な仕組みです。
つまり先延ばしは、脳があなたを危険から守ろうとしたときに起こる防御反応だということです。決してあなたが怠け者だからではないということが、わかっていただけたでしょうか。
では、なぜ宿題や仕事のような、本来は命にかかわらないはずのタスクが、脳にとって「危険」と見なされてしまうのでしょうか。
■「失敗=死」だった時代の生存戦略
私たちの脳が感じる「危険」とは何なのでしょうか。現代社会を生きている私たちにとっては、生死に関わるような「危険」を感じる機会はめったにありません。
しかし、脳に刻まれた「危険」は違います。それは、原始時代の過酷な環境に適応するために刷り込まれた、本能的に避けたくなるリスクなのです。
そのなかには「失敗に伴う危険」と「エネルギー不足の危険」があります。
何万年ものあいだ、私たち人類の祖先はサバンナで熾烈な生存競争を生き抜いてきました。
そんな原始時代の私たちにとって、やるべきタスクはすべて命に関わることでした。
食料を確保する。

安全な寝床を見つける。

雨風を防ぐ。

火を起こす。
どの仕事もやらなくては生きていけません。
ときにはライオンと戦ったり、マンモスを狩りに行ったりする必要もあったでしょう。私たちの生活はいつも命がけだったわけです。
脳にとっての「失敗に伴う危険」とは、まさにこうした「失敗が死に直結するようなタスク」を行うことへの恐怖を指しています。
生きていくために必要だとは言え、命がけの仕事はプレッシャーが大きく、できれば避けたいものであったことは想像に難しくありません。私たちの祖先にとって、行動を先延ばししてしまうことは、生存確率を上げるための進化の結果だったのです。
■失敗するくらいなら何もしないほうがいい
また、そこから派生する二次的な危険もあります。
それが「社会的なリスク」です。
人間は社会的動物だとよく言われます。それは、過酷な環境を生き抜いていくために、群れを作り、集団で身を守ったり、狩りをしたりする必要があったことに由来します。
もし狩りや採集などのタスクに失敗してしまうと、仲間から役に立たないと見放されたり、信頼を失ってしまう可能性があります。サバンナで仲間や群れから外されるということは、そのまま生存の危機につながります。
こうして、リスクを伴うタスクを目の前にすると、脳は群れから外される危険に対しても本能的に恐怖を感じ、「失敗する可能性があるくらいなら、はじめから何もしないほうがいい」と、行動にブレーキをかけてしまうようになります。
これが原始時代から私たちがやめられない「先延ばし」の正体の一つです。
■「退屈」や「虚無感」が危険な理由
もう一つの危険は、もっと静かなものです。
「脳が危険を察知してブレーキをかける」と聞くと、多くの人は、心臓がバクバクするような強い恐怖や、夜も眠れないような深い不安だけをイメージするかもしれません。
しかし、現代人の私たちが日常で先延ばししてしまうとき、そこまで激しい感覚になるでしょうか。
「なんかやる気が出ない」

「身体がだるい」

「これをやって何になるのか意味が見いだせない」
むしろこのように、一見すると静かで退屈な感覚であることのほうが多いはずです。
私たちの脳にとっては、実はこうした「退屈」や「虚無感」もまた、避けるべき危険の一つです。

なぜ、単なる「だるさ」が危険になるのでしょうか。
それは、脳が極限まで「コスパ」を求める器官だからです。
■「これは割に合わない」と先延ばし
原始時代の過酷な環境では、食料は極めて貴重でした。そのため、私たちの脳は「生き残るためにプラスにならない活動」に貴重なエネルギーを割くことを、生存を脅かすリスクと見なすように進化しました。
脳にとって、見返りのないタスクにエネルギーを使うことは、「倒産確実な事業に全財産を注ぎ込む」ような無謀な投資と同じです。そのため、あなたが「この作業、やる意味あるのかな?」と少しでも感じた瞬間、扁桃体は「エネルギーを浪費するな」とブレーキを踏みます。
これが、あなたが体感している「だるさ」や「虚無感」の正体です。
原始時代だと、実際に先延ばしすることによって命が助かることもあったでしょう。しかし現代社会では、仕事に失敗しても死ぬことはありませんし、会社での評価が下がったところで、生きていけなくなることもありません。
ただ、現代の私たちの脳は、そんな原始時代からほとんど変化していないと言われています。
「失敗するかもしれない」

「期待に応えられないかもしれない」

「この仕事は割に合わない」
こういった「危険」の可能性を感じるだけで、扁桃体には生存の危機に近いものとして処理されてしまうのです。

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大芝 義信(おおしば・よしのぶ)

グロースウェル代表取締役

1975年八王子生まれ。ビジネス・ブレークスルー大学大学院 経営管理修士(MBA)取得。2001年からITに携わり、楽天、ミクシィ、GREEでキャリア形成。2013年、AppBank株式会社(証券コード:6177)でCTOを経験後、2016年、(株)グロースウェルを創業。テックチームの組織アドバイザーとして累計100社、現在は顧問先数十社を支援している。国内トップクラスのEQカウンセラーとして、累計1000名超の実施経験を持つ。2021年、山梨県大月市DXアドバイザー就任。インタビューメディア『The Keyperson』運営。著作に『組織の感情を変える リーダーとチームを伸ばす新EQマネジメント』(日本実業出版社)、『自分や他人に振り回されないための感情リテラシー事典』(フォレスト出版)、動画出演に『プロが解説EQマネジメント』(NewsPicks)がある。

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(グロースウェル代表取締役 大芝 義信)
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