馬はもちろん、人も快適に過ごせます!午(うま)年企画「馬さんぽ」夏のスペシャル版は、競馬開催を裏で支える馬運車事業を展開する会社に注目。本紙記者がその最新モデルの車両に潜入取材を行った。

そこには、外から見るだけでは分からない、様々な工夫がなされた“馬ファースト”のスペースがあった。(取材・構成=水納 愛美)

 安全で円滑な競馬開催に欠かせないのが、競走馬を運ぶ「馬運車」だ。その内部に潜入すべく、栗東を拠点にしている東海馬匹(ばひつ)輸送株式会社を訪問。取締役専務の加藤大己さんに、3年前に製造された最新モデルの車両を案内してもらった。

 馬運車の構造は、前から運転席、厩務員が休息するスペース(客室)、競走馬用のスペースに分かれる。当時の製造費用は約8000万円だったが、原油価格の高騰などにより、今なら1億円近くかかるという。

 馬は前後2頭ずつ、最大4頭積める。私も馬の気分を味わうため、その部分に入れてもらった。横幅は90センチほどで、馬ならほぼピッタリサイズだろう。金属と樹脂で作られた仕切り板はさぞ頑丈だろうと思ったが、意外にもガタガタと揺れる構造。「馬が暴れても耐えられるけど、馬がけがをする前に壊れるという仕組み」と加藤さん。「絶妙な強度」が重要だ。

 陣営の細かなニーズに応えるのも仕事のひとつ。仕切り板は可動式で、落ち着きのない馬のために約30センチ幅を広げることができる。また、馬の癖や性格に応じて、4か所のうちどこに入れるかの指定も受け入れる。

 加藤さんは「ゴールドシップは絶対、左前」と明かす。さらに隣は牡馬のみ、後ろに馬を積まないという条件もあった。同い年の僚馬ジャスタウェイと同じレースに出走するときは、隣同士で運ぶことも多かったという。また、皐月賞の際は、外装に金色があしらわれた車両で輸送し見事、勝利。陣営の要望により、以降は全てのレースで“ゴールドカー”を使用した。

 同社は独自の取り組みとして、仕切り板の前後の支柱をなくしている。これにより馬の視界が広がり、顔をぶつけることも減る。「厩務員さんからめちゃめちゃ好評です」。現場からも人気の“馬ファースト”仕様だ。

 客室は、加藤さんの「人もより心地良く、ストレスなく」というこだわり通り、快適な空間だ。マットレスはふかふか。身長175センチの加藤さんが寝そべっても上下に余裕がある広さだ。助手席に乗り、約20分のドライブに連れて行ってもらったが、ほぼ揺れはなく“いつでも寝られる”と思ったほど。前方には馬の様子を確認できるモニターがあるため、くつろいでいる間も安心だ。

 栗東からの輸送では札幌行きが最長で、約26時間。馬の負担、ストレスは避けられない。「輸送は馬にとってマイナス。マイナスを減らして減らして、いつかそれを超えて輸送がプラスになるという日を追い求めていかないと」。馬、そして人にも優しい輸送を目指し、東海馬匹輸送は進化を続けている。

 東海馬匹輸送の加藤さんには、小さな疑問にも丁寧に答えてもらった。まず、競走馬の輸送費は誰が負担するのか? ということ。

東西トレセンや各競馬場、競馬学校など、JRAが運営する施設間の輸送はJRAが負担。一方、放牧先の外厩など、JRAの管轄外の施設が絡む場合は馬主がもつ。

 同社は現在、馬柵棒(ませんぼう)の改良に取り組んでいるという。馬柵棒とは馬が外に出るのを防ぐ、かんぬきの役割をした金属製の棒。「馬が立ち上がって、馬柵棒をまたぐトラブルが多い」と加藤さん。これをベルト式にして、馬が力を加えると自動的に下に落ちるようにすると、ケガを防げる。年内に、トレセンと牧場間の輸送で導入する予定だ。

 ドライバー不足や輸送コストの高騰も避けられない。加藤さんは「自動運転にするよりも、1台で運べる頭数を増やす方が先かな」と将来を描く。馬運車業界の今と未来を知る、貴重な取材だった。(水納 愛美)

 ◆東海馬匹輸送株式会社 1964年11月設立。名古屋市港区に本社を置く。

名古屋競馬場と弥富トレーニングセンター間の輸送で事業を展開していたが、同競馬場の移転に伴い、現在はJRA栗東トレセンの輸送に主軸を移した。車両保有台数は25台。現在は栗東トレセンの21厩舎を担当している。

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