日経平均が7万円の大台を超速で突破しました。速すぎて乗るのが怖いと足がすくんだり、次は10万円、15万円と強気を上乗せする声に煽られたり、でしょう。

冷静に相場に臨むために、日経平均の急上昇について、正当化できる所、できない所、相場の持続性の検討から、日本株の実像を浮かび上がらせます。


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【日本株】日経平均7万円突破で「つかむべき光、そして影」
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サマリー

●日経平均7万円は単に通過点、ただし「速い相場の反動への留意は必要」が相場の基本
●日経平均の急騰には、脱デフレのマクロ的背景と、米AI需要の恩恵というミクロの根拠がある
●両要因をベースに、日経平均について、短期、中期、長期で見るべき光、そして影とは…


 日経平均株価が一気に7万円に到達しました。あまりに速い相場上昇に、マクロ経済や企業業績の観点から、この相場は正当化できるのかと、疑問が出てくるのも当然と言えるほどのスピードです。一方で、相場の急激な上昇を追認して、強気見通しをどんどんエスカレートさせる声も聞こえてきます。


 結論から言えば、7万円も単に通過点ということでしょう。そして、速すぎる相場には、スピード調整、水準調整も留意すべき、というのは、相場に臨むうえでの基本です。ただし、投資家として、この基本に忠実に相場に臨むには、日経平均株価の上昇の光の部分と影の部分を冷静に見る目が必要です。


マクロで見る日本株高

 日本が「失われた四半世紀」のデフレを克服する過程では、極端な円安と株高が進行するであろうことは、ある程度想定されたことです。


 長年にわたり、デフレを脱するために極端な金融緩和政策を打ち出しても、好感して利用するのは外国人ばかりで、日本の投資家マネーはなかなか動き出せませんでした。金融緩和の効果は、ゼロやマイナスの低コスト(=金利)の潤沢なマネーが動き出すことで発現します。


 デフレを脱しインフレ持続の目が出てくれば、この低コストを早く活用して、消費や投資に使おうという力が出てきて、より高金利の海外資産・通貨を買うとか、インフレヘッジにもなる株式を買う動きが活性化するのです。デフレ国のための超金融緩和マネーが動くインパクトは劇的と想定されました。


 また、経済においては、企業がインフレによるコスト上昇分を製品・サービス価格に転嫁することで価格形成力を回復し、業績の改善が進むでしょう。円安は輸出収入や海外事業収益の増加をもたらし、株高は起業家心理を明転させます。

株高への期待が高まれば、国内マネーの投資が活発化する好循環が生まれます。


 企業業績をマクロで評価すれば、実質国内総生産(GDP)成長とインフレのそれぞれで上向く傾向があります。実質GDP成長率とインフレ率の合計は名目GDP成長率として表されます。脱デフレで、経済成長率が高まり、インフレが進むと、名目GDPが増加し、それに沿って株高が進行しやすくなります。


日経平均対TOPIX

 実は、日本の名目GDP成長との対比では、最近の日経平均の急伸ぶりは全く正当化し難く見えます。しかし、これにはカラクリがあり、今程度の日経平均の上昇ならば、ぎりぎり正当化できる根拠があります。


 まず、図1の日本の代表的株価指数である日経平均と東証株価指数(TOPIX)を見てください。日経平均の急伸ぶりに対して、TOPIXの伸びは控えめです。両指数の格差からカラクリを説明しましょう。


<図1>日経平均がTOPIXをアウトパフォーム
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出所:Bloomberg

 名目GDP成長率で何とか整合的と言えるのは、TOPIXです。TOPIXの構成銘柄数は1,600社強で、その時価総額の加重平均で株式指数が算出されます。いわば、日本株の代表的な銘柄を網羅する全体像であり、マクロ経済との整合性をある程度評価することが可能です。


 名目GDP成長率は前年比+3~4%台です。

企業の海外での収益獲得や、インフレ局面における適切な価格転嫁により、主要企業の1株当たり利益(EPS)は年率+10~12%前後で成長しており、TOPIXベースの予想株価収益率(PER)も16~17倍と過去平均の範囲内です。


ミクロで見る日経平均高

 日経平均は、時価総額ではなく、構成する225銘柄個々の株価の単純平均として算出されます。このため、株価の単価が高い値がさ株の値動きが指数の変動に大きく影響します。そして最近の日経平均の急上昇は、特定のハイテク株の影響力を極端に受けやすくなっています。


 日経平均におけるAI関連の上位銘柄は、AIビジネス本体から半導体やAIインフラまで広く含めると、上位20銘柄の約半数が該当し、日経平均に占める比重合計は約40~45%にもなると試算されます。


 主なAI・半導体関連銘柄には、アドバンテスト(6857)(比重1位:約12~13%)、東京エレクトロン(8035)(比重3位:約8~9%)、ソフトバンクグループ(9984)(約6%)、信越化学工業(4063)などがあり、AIインフラ・ロボティクスでは、KDDI(9433)(データセンター)、ファナック(6954)(AIロボット)、ダイキン工業(6367)(データセンター冷却)などがあります。


 TOPIXにおけるこれらAI・半導体関連(上位10社)の比重は、合計で約8~10%と、日経平均の4分の1程度に激減します。個別で見て、例えば、アドバンテストの比重は、日経平均では約12~13%(1位)ですが、TOPIXでは約1.2%(15~20位相当)まで下がります。


 マクロで正当化し難い日経平均の上昇を、ミクロである程度まで正当化できる根拠は、AI関連ハイテク企業の業績見通しです。米国の巨大AI企業のとっぴな設備投資計画額が明らかになり、その恩恵が日本のAIハイテク企業にももたらされています。その多くが数10%、数倍もの利益成長を示しています。


 それらの計算上は、最近の日経平均の上昇率も何とか正当化できるのです。「何とか」と言うのは、急激な相場上昇には、期待が先行して過熱するバブル、フロスの様相を部分的に含むのが普通のことです。

従って、行き過ぎに対する警戒を心にとめつつ、基調としての上昇トレンドに乗るのが基本スタンスです。


日経平均7万円の光と影

 米国のAI革命から取り残された感があった日本株がにわかに勢いづいたのは、米国の旺盛な需要が、日本企業の得意分野にも及んできたことの表れです。韓国、台湾にはさらに顕著にその恩恵が表れています(図2)。


<図2>米AI革命の恩恵が招く日韓台株価指数の急上昇
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出所:Bloomberg

 韓国の代表的な株価指数KOSPI(韓国総合株価指数)は、TOPIXと同じ時価総額ベースの指数ですが、最近価格が急騰しているメモリーの主力企業であるサムスン電子の比重が約35~38%、SKハイニックスが約13~15%と、2社だけで合計比重が半分を占めています。


 台湾の株式指数TAIEX(台湾加権指数)もTOPIXと同じ時価総額ベースの指数ですが、世界最大の半導体ファウンドリとして知られるTSMC(タイワン・セミコンダクター・マニュファクチャリング:TSM)1社で4割以上を占めています。


 日本のAI・半導体セクターのTOPIXに占める比重は10%ほどです。これをプラスと考えると、自動車・金融など多種多様な産業が市場を支えている強みがある、AIハイテク株も分散された厚みがあり、伸び代もあると見ることができます。


 しかし、日経平均を日本株の代表として見る場合、その実態は、韓国や台湾の指数と同様に、米国のAI・半導体需要次第という他力本願の面も留意すべきです。


 もちろん、AI需要は戻らざる大河として、これら東アジア諸国の株価に恩恵をもたらし続ける公算が高いといえます。しかし、米国AI市場にも、巨額投資の採算、巨額債務、データセンター工事の遅れなど、ボラティリティを高めやすい事情が折々に現れます。


 AIハイテク指数としての日経平均に照らして見れば、短期(数カ月~半年)での光には、中東停戦、原油安があります。影として留意するのは、2カ月足らずで6万円から7万円へ急騰した反動、景気・バリュー株とのリバランスなどがあります。


 中期(1年前後)で見るべき光は、米国からの生成AI需要が、通信・電力など日本企業が得意とするインフラ全方位へ拡大することです。リスクは、米国の景気・金利、日本銀行の利上げと円相場など、マクロ経済・金融環境の不確実性です。


 長期(数年~)ともなれば、見るべき光も影も多種多様ですが、あえて挙げれば、光は、日本の高市政権の高圧経済下でのインフレ定着と賃上げ・消費の好循環の可能性、企業の自己資本利益率(ROE)向上です。影は、米大手の設備投資の一巡による半導体サイクルの鈍化、AIインフラ整備のつまずきでしょう。


 もちろん、世界的な地政学的リスクの再燃は突発的なリスクとして頭に入れておかなければならない時代観です。


 なお単純に日経平均7万円を通過点と見るのは、名目GDP成長というマクロ的背景と、AI需要からのハイテク企業の利益増があれば、株価はおのずと上がると考えられるからです。少なくとも、現時点では、バブルと言うほどの上昇率ではないと判断しています。


 複利の「72の法則」を当てはめてみれば、日経平均が倍になるのは、上昇率10%で7年強(=72÷10)後です。脱デフレ後の名目GDP成長率プラスアルファと、この計算式を頭に入れておけば、「何年後に10万円、20万円」といった目を引く見出しにあおられることなく、冷静に相場に臨めるでしょう。


*本稿は個別銘柄を推奨するものではありません、投資はご自身の判断と責任において行ってください。


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(田中泰輔)

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