足元、金(ゴールド)相場は1カ月で約10%も反発しました。短中期の値動きは、有事・株・ドルの三つ、中長期・超長期の値動きは中央銀行・現代ならではの有事で捉えます。
金(ゴールド)価格、1カ月で10%上昇
図1は、2026年7月15日と8月14日の終値を比較した、主要銘柄の騰落率です。このおよそ1カ月間で、金(ゴールド)は9.4%、上昇しました。銀の12.9%には及ばなかったものの、S&P500種指数の2.8%、ダウ工業株30種平均の2.0%などを上回っています。
図1:主要銘柄の騰落率(短期)(2026年7月15日と8月14日の終値を比較)
一方、ドル指数は0.7%下落しました。後に述べますが、ドル指数が下落したことは、今回の金(ゴールド)の反発を考える上で重要なポイントです。
図2は、2025年1月以降のNY金(ゴールド)先物の価格推移を示しています。2026年の初めに、5,000ドルを超えて史上最高値を更新しました。また、3月2日のイラン戦争勃発直後に再び高値圏に達しました。
しかし、その後は大きく下落し、図1の騰落率の基準とした7月15日前後に、4,000ドルを割り込む場面が見られました。そしてそこから反発に転じ、足元では4,400ドル近辺で推移しています。
図2:NY金(ゴールド)の価格推移(中心限月・日足) 単位:ドル/トロイオンス
イラン戦争が勃発した直後の3月から7月中旬にかけて金(ゴールド)価格は大きく下落しました。その後、ホルムズ海峡をめぐるさまざまな交渉が行われ、懸念がやや後退したタイミングで金(ゴールド)価格が反発しました(10%の上昇)。
これらは事実です。いずれも、見なかったことにすることは誰にもできません。現在の金(ゴールド)相場は、「有事=金(ゴールド)高」という一つの公式だけで値動きを説明することはできないのです。
金(ゴールド)相場の行方や、それをもとにした金(ゴールド)の投資戦略を考える際は、複数のテーマが同時にもたらす上昇・下落圧力を整理・相殺することが大変に重要です。この点は、現代の金(ゴールド)投資の胆(きも)です。
短中期視点の変動は三つのテーマで発生
筆者は、先ほど述べた「短中期視点の金(ゴールド)相場」を動かすテーマは、三つあると考えています。「伝統的な有事」「代替資産」「代替通貨」です。
伝統的な有事とは、戦争、テロ、金融危機などによって不安心理が強まり、資金の逃避先として金(ゴールド)が物色されるきっかけになる事象です。
代替資産は株との関わりで、株高が金(ゴールド)相場の下落要因、株安が上昇要因になるという考え方、代替通貨はドルとの関わりで、ドル高が金(ゴールド)相場の下落要因、ドル安が上昇要因になるという考え方です。
図3:短中期視点の金(ゴールド)市場を取り巻く環境
ここで述べたいことは、この三つが金(ゴールド)相場に対し、必ずしも同じ方向の圧力をかけるわけではないこと、それらの圧力が同時にかかること、そしてそれらが相殺されることです。
例えば2026年3月のイラン戦争勃発後は、戦争の長期化懸念やエネルギー供給への懸念が「伝統的な有事」のムードを大きくし、金(ゴールド)相場に上昇圧力をかけました。
一方で、AIブームや巨大新規公開株(IPO)などを背景とした株高が「代替資産」起因の下落圧力を、原油高騰によるインフレ懸念を受けた米利上げ観測・ドル高が「代替通貨」起因の下落圧力をかけました。
これらの複数の圧力が相殺され、結果として金(ゴールド)相場は下落しました。
図4:短中期視点の金(ゴールド)相場変動の背景(2025年1月~)
7月中旬になり、状況が変わりました。イラン戦争の当事国間の協議進展への期待が大きくなり「伝統的な有事」のムードが後退し、金(ゴールド)相場に下落圧力がかかりました。
しかし、ウクライナ戦争の長期化懸念やイラン戦争に関わるホルムズ、バブ・エル・マンデブの両海峡をめぐる不透明感が大きくなったことで、伝統的な有事のムードが大きくなり、上昇圧力がかかりました(同時進行した東アジア情勢の不透明感の増幅も無縁ではないでしょう)。
このように、「伝統的な有事」において、上下、異なる方向の圧力が同時に発生しました。
同じタイミングで、AIブームへの期待感と警戒感が交錯し、米国の株価指数が上昇する局面で下落圧力が、下落する局面で上昇圧力がかかりました。「代替資産」において、上下、異なる方向の圧力が連続して発生しました。
さらには、原油相場の短期視点の反落・インフレ懸念の後退期待をきっかけとし、米利上げ観測の後退、そしてドル指数が反落した(図1を参照)ことを受け、「代替通貨」起因の上昇圧力がかかりました。
「伝統的な有事」「代替資産」「代替通貨」、こうした三つのテーマがもたらす、さまざまな上下の圧力の「合計」が、足元の金(ゴールド)相場を反発させているといえます。現代の金(ゴールド)相場が一つのテーマで動いていないことを、改めて認識する必要があります。
全体像は「七つのテーマ」で把握できる
先ほどの三つのテーマは、短中期の値動きをカバーしています。中長期や超長期の値動きをカバーするテーマは、これらではありません。伝統的な有事や株・ドルとの関係で、長期視点の金(ゴールド)相場の方向性を見通すことは難しい、ということです。
図5は、金(ゴールド)相場の全体像を把握するために欠かせない資料です。ドル建て金(ゴールド)価格を動かす要因を七つのテーマに整理しています。先述の短中期の「伝統的な有事」「代替資産」「代替通貨」のほか、中長期の「宝飾需要」「鉱山会社」「中央銀行」、そして超長期の「非伝統的な有事」です。
特に2010年ごろ以降、重要性が増しているテーマが、「中央銀行」と「非伝統的な有事」です。中央銀行は外貨準備の多様化や長期的な価値保全などを意識し、金(ゴールド)を戦略的な資産として保有しています。「非伝統的な有事」もまた、中央銀行の金(ゴールド)保有の強い動機になっていると考えられます。
こうした動きは、伝統的な有事が発生した時などに一時的に増える投機的な動きと異なり、中長期的な金(ゴールド)相場の動きを支える「土台」になり得ます。
図5:ドル建て金(ゴールド)価格の変動イメージ(七つのテーマ)
超長期では、2010年ごろから目立っている世界的な「非伝統的な有事」が、「土台」を強固にしているといえます。
世界分断、民主主義後退、自国優先主義の台頭、通貨や資源の武器利用の横行、長期視点のインフレ継続など、戦争やテロなどの目に見える分かりやすい伝統的な有事ではない、目に見えにくいが確かに社会に存在している有事が、個人や機関投資家や中央銀行などの幅広い市場参加者に、長期視点で金(ゴールド)を保有する強い動機を与えていると考えられます。
短期視点の金(ゴールド)相場の上下と、こうした中長期・超長期のテーマがもたらす支え(土台)は、別のものであるといえます。仮に短期視点の急落が生じても、長期視点の土台が消滅したわけではないのです。
金(ゴールド)関連投資商品選びのコツ
金(ゴールド)投資では、価格の方向性だけでなく、「どの投資商品を用いるか」が大変に重要です。金(ゴールド)投資を効率化させるためには、注目するテーマ(材料)と投資商品の特性における「時間軸」を一致させる必要があります。
図6:時間軸ごとのテーマとそれになじむ金(ゴールド)関連の投資商品
例えば、伝統的な有事、代替資産、代替通貨という、短中期の時間軸を持つテーマに注目して取引を行う場合、選択する投資商品は、機動的に売買しやすい金(ゴールド)関連の個別株や上場投資信託(ETF)、商品先物、商品CFDなどがなじみます。
短時間で変化する伝統的な有事に関わる諸情勢、短期視点の株価、ドルなどの動きを見ながら取引を行うことになるためです。レバレッジがかかっている商品先物や商品CFDは、短期間で大きな利益も大きな損も発生し得るため、なおのこと注意が必要です。
一方、中央銀行や非伝統的な有事という、中長期・超長期の時間軸を持つテーマに注目して取引を行う場合、選択する投資商品は、時間をかけて保有数量を増やすことを目指す「積み立て取引」を行う仕組みがある、純金積立や金(ゴールド)関連の投資信託などがなじみます。
楽天証券のかぶミニや米株積立を利用して金(ゴールド)関連の個別株を積み立てる方法も考えられます。
注目するテーマ(材料)と投資商品の特性における「時間軸」を一致させることで、矛盾が少ない、効率的な金(ゴールド)投資が可能であると、筆者は考えています。このことが現代の、金(ゴールド)関連の投資商品を選ぶ際のコツだと思います。
投資戦略は長期と短期で明確に分ける
最後に、金(ゴールド)投資において、短期売買と長期投資を分けることの重要性について述べます。短中期視点では、伝統的な有事に関わる諸情勢、短期視点の株価、ドル、金利などの動きなどによって、金(ゴールド)相場は上下します。
そして、そうした短中期のテーマがもたらす相場の上下と、中長期・超長期視点の「土台」に、直接的な関わりが乏しいことに、留意する必要があります。短中期視点の反落時でも反発時でも、「土台」は中長期・超長期視点で存在し得ます。
図7で示したように、筆者は米国の主要株価指数の長期上昇には、企業業績のほか、銘柄入れ替えという「仕組み」と、経済的ポピュリズムの増幅による「人の感情」が、関係していると考えています。
図7:コモディティアナリストが考える米主要株価指数の長期上昇の背景
米国の主要株価指数が、仕組みの存在をきっかけに社会的なインフラ(社会基盤)として、同時に長期上昇への期待が膨張して信仰の対象としての色を強めれば、それまでにも増して、長期視点の上昇に拍車がかかると考えられます。
興味深いのは、こうした傾向が目立ち始めた2010年ごろ以降、米国の主要株価指数だけでなく、金(ゴールド)も長期視点で上昇していることです。
図8:S&P500、金(ゴールド)の価格推移
図8では、1980~1990年代にS&P500とNY金先物の相関係数がマイナス0.60(逆方向に動く傾向あり)だったのに対し、2010年以降はプラス0.82(同じ方向に動く傾向あり)であることを示しています。
筆者は、株高を社会の「光(期待の塊)」、金(ゴールド)高を「影(懸念の塊)」と捉えています。現代社会では、SNSの影響もあり期待が膨張しやすい一方で、分断や各種対立などへの懸念(先述の「非伝統的な有事」)も膨張し、光と影が同時に大きくなっています。
だからこそ現代の金(ゴールド)投資においては、三つのテーマがもたらす短中期視点の上下の価格変動と、中央銀行や非伝統的な有事などの「土台」による中長期・超長期視点の動きを分けて考えなければならないのです。
足元の約10%の反発だけを見て積み立て投資を始めたり、短期的な下落だけを理由に積み立て投資をやめたり、長期視点のテーマに注目して短期売買をしたりするのは、得策ではありません。
現代の金(ゴールド)投資では、注目するテーマ(材料)と投資商品の特性における「時間軸」を一致させるというコツへの深い配慮が欠かせません。今回は、10%の短期視点の反発をきっかけに、金(ゴールド)投資全般のコツについて述べました。
[参考] 貴金属関連の具体的な投資商品例
長期:純金積立
純金積立・スポット購入
長期:投資信託
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド
楽天・ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし/あり)
楽天・プラチナ・ファンド(為替ヘッジなし)
ステート・ストリート・ゴールド・オープン(為替ヘッジなし)
中期:関連ETF
SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
GXゴールド(425A)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
iシェアーズ・ゴールド・トラスト
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)
中期:関連株
住友金属鉱山(5713)
バリック・マイニング(B)
アングロゴールド・アシャンティ(AU)
アグニコ・イーグル・マインズ(AEM)
フランコ・ネバダ(FNV)
ゴールド・フィールズ(GFI)
短期:商品先物
国内商品先物
海外商品先物
短期:CFD
金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム
(吉田 哲)

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