警察庁の発表 によると、令和7(2025)年のSNS型投資詐欺被害額は1,288億円(前年比+416.9億円)でした。では、実際にどのような詐欺が発生しているのか、また、自身がそうした詐欺の被害に遭わないためにはどのような点に注意すればいいのか。

60代男性の事例を基にみていきましょう。


老後資金2,000万円を〈投資詐欺〉で失った60代男性、きっ...の画像はこちら >>

SNSで仲良くなった「顔の見えない友人」の正体

 一人暮らしをしていたマサオさん(仮名・60代)は、定年退職後にハマったSNSを通じて、とある男性と知り合いました。


 その男性のアカウントはいつもタメになる情報を発信しており、また、SNS上で垣間見える彼の私生活は、かなり羽振りがよさそうでした。


 マサオさんは、そのアカウントの発信を日常的に目にするうち、徐々に「自分もこんな風になりたい」「この人と仲良くなりたい」と考えるようなったそうです。


 そうして相手の発信にリアクションを送るうちに、相手からも返信がくるようになり、交流が生まれました。


 そのアカウントの主はリュウイチ(仮名・50代)と名乗り、外資系の運用会社でマネジャーをしているとのこと。


「やはり一流のビジネスマンだったか。自分の目は正しかった」とご満悦のマサオさんは、リュウイチさんの発信をこれまで以上に追いかけるようになります。


 マサオさんがリュウイチさんとSNSで交流を始めて約半月後、リュウイチさんからダイレクトメッセージが届きました。内容は「ほかの人にはまだ伝えていない、とっておきの投資商品がある」というもの。


 一人暮らしのマサオさんは、これまでぜいたくとは無縁の生活で、数年前に受け取った退職金にも手を付けていません。自宅は両親から相続した持ち家であり、金銭的にはなんの不安もありませんでした。


 しかし、リュウイチさんから「元本は安全」「毎月一定の収益を受け取れる」と説明を受けたマサオさんは、「年金暮らしの自分でも、裕福な暮らしができるかもしれない」「エリートのリュウイチさんが言うなら」と考えるように。

その結果、マサオさんはまず、500万円をリュウイチさんに預けたそうです。


 振り込んでから数カ月間は、当初説明を受けていた以上の入金があったといいます。これにより、マサオさんはすっかりリュウイチさんを信用。リュウイチさんに勧められるがまま、追加で1,500万円を振り込みました。


 さらに、「現金だけでなく、不動産を持っておけば安心だ」と勧められ、地方にある建物の共有持分を約1,000万円で購入したそうです。


 ところがその後、「事業が赤字になった」「資金繰りが厳しい」などの理由で、配当が滞るようになりました。不安が募ったマサオさんがリュウイチさんに連絡するも、一切返信がありません。またSNSについてもまったく更新されていませんでした。


詐欺罪が成立。しかし…

 焦りと不安がピークに達したマサオさんは、離れて暮らす長女に相談。明らかに不審な経緯を聞いた長女がすぐに契約書や登記を確認したところ、不動産は市場価値が乏しく、マサオさんが取得したのは建物全体ではなく、ごく一部の共有持分でした。単独で利用することも難しく、買い手も見つかりません。


 その後、リュウイチさんは詐欺事件として捜査の対象となりました。しかし、刑事事件になったからといって、マサオさんが支払った金銭が自動的に返還されるわけではありません。さらに、マサオさん名義となった不動産持分も残り、登記を整理するためには、相手方への返還請求や訴訟など、別の民事手続を検討しなければならなくなりました。


仮に犯人が逮捕されても…被害者を待ち受ける現実

 マサオさんが、当初は約束どおりの配当を受け取り、担当者を信用したことは不自然ではありません。投資詐欺では、最初に少額の配当や利益を支払って信用させ、その後に追加出資を求める手口は多いです。


 もっとも、支払いが後から滞っただけで、直ちに刑事上の詐欺と認められるわけではありません。詐欺罪の成否では、勧誘時に虚偽の説明をして金銭を支払わせたか、当初から約束どおり運用・返済する意思や能力がなかったかなどが問題になります。「事業が後から悪化しただけだ」と反論されることもあり、契約書、説明資料、録音、入出金履歴などによる立証が重要です。


 また、担当者が逮捕・起訴され、詐欺罪で有罪になっても、刑事裁判の目的は犯罪への処罰であり、被害金が自動的に返還されるわけではありません。


 通常は、示談交渉や民事訴訟によって返還・損害賠償を求め、相手方の財産を特定して強制執行する必要があります。裁判所の損害賠償命令制度も、殺人や傷害など一定の犯罪が対象であり、通常の投資詐欺に広く利用できる制度ではないのが現状です。


 また不動産持分の被害は、さらに複雑です。詐欺による契約は取り消せる可能性がありますが、取消し後は売買代金の返還だけでなく、取得した持分を元の所有者へ戻し、所有権移転登記も整理する必要があります。

相手方が返金や登記手続に協力しなければ、訴訟を通じて解決しなければなりません。


 つまり、今回の投資詐欺では「失ったお金を取り戻す問題」に加え、「処分しにくい不動産名義を消す問題」まで残ることがあります。刑事事件化は被害回復の出発点にはなっても、解決そのものではないのです。


今回のケースの「現実的な着地点」

 今回の相談者も、金銭の回収が難しいことは理解しつつ、将来にわたって相続され続ける不動産持分の名義だけは整理したいと希望していました。


 そこで、登記の抹消や持分の処分に向けて複数の方法を検討しましたが、いずれも相当な費用と時間を要し、得られる経済的利益との均衡を欠く状況でした。


 そのため、やむを得ず現時点では名義を残し、管理費や税金の請求、共有者との紛争など、具体的な問題が生じた段階で改めて対応する方針となりました。


 詐欺被害では、法的に正しい解決策があっても、費用対効果の問題から完全な原状回復を断念せざるを得ないことがあるのです。


家族で「その場で決めない仕組み」を作る

 最も有効な対策は、怪しい勧誘を見抜く知識だけに頼らず、契約までの手順を家族で決めておくことです。例えば、「初めて聞く投資に100万円以上支払うとき」「自宅訪問で投資や不動産を勧められたとき」は、その場で契約・送金せず、必ず家族や第三者に相談するというルールを設けます。


 親の財産管理を一方的に取り上げるのではなく、高額な取引だけを複数人で確認する仕組みにすることが現実的です。


 また、投資会社を名乗る相手については、金融庁の検索機能で登録の有無を確認し、勧誘担当者から渡された番号ではなく、公式サイトに掲載された連絡先へ問い合わせます。無登録業者はもちろん、登録業者の名称をかたるケースにも注意が必要です。


 個人名義の口座への振込みを求められたり、送金のたびに振込先が変わったりする場合、警察庁は詐欺を疑うべき特徴として注意を呼び掛けています。


 次に、不動産を勧められた場合は、「マンションを買う」という説明だけで判断してはいけません。

登記事項証明書を取得し、建物全体を取得するのか、共有持分だけなのか、持分割合はいくつかを確認します。


 さらに、勧誘した業者とは無関係の不動産会社などに、実際の市場価格、売却可能性、利用方法、管理費や税金の負担を確認すべきでしょう。


 また、すでに送金してしまった場合は、追加の支払いを止め、契約書、広告、録音、メール、SNSの履歴、振込明細などを保存します。その上で、警察と振込先金融機関へ直ちに連絡し、口座の取引停止を依頼しましょう。


 振り込め詐欺救済法による分配を受けられる可能性もありますが、口座に残っている金額などによって回収額は左右されます。消費生活センターや弁護士への相談も、相手と連絡が取れなくなる前に行うことが重要です。


 認知症などで判断能力の低下がみられる場合には、本人の判断能力が十分なうちに任意後見契約を検討し、すでに判断が難しくなっている場合には法定後見制度の利用も選択肢となります。被害が起きてから財産を取り戻すよりも、高額な契約を一人で決めない仕組みを先に整えるほうが、親の生活と財産を守りやすいでしょう。


「捕まれば解決」ではないからこそ、入口で止める

 投資詐欺は、相手が逮捕・処罰されても、被害金が自動的に戻るわけではありません。


 高齢の親に詐欺を見抜かせるだけでなく、訪問勧誘や高額な投資はその場で決めず、家族や第三者が確認する仕組みを整えておきましょう。


 被害が疑われる場合は、追加送金を止め、証拠を保存し、金融機関、警察、専門家へ早期に相談することが重要です。


※本稿の事例は実際の事件を基にしていますが、守秘義務およびプライバシー保護のため、登場人物は全て仮名とし、人物関係、年齢、財産額その他の事情を一部変更しています。


(山村 暢彦)

編集部おすすめ