教育費のために毎月積み立ててはいるけれど、これで本当に足りるのだろうか」。30~40代の方から最もよくいただくご相談です。

今回は、モデルケースをライフプランシミュレーターに入力し、30年先までの資産の動きを見える化してみます。進路が変わったときに何が起きるのか、改善策はどこにあるのかを、具体的な数字で確認していきます。


手取り年674万円・2人の子を育てる30代夫婦「教育費は?」...の画像はこちら >>

教育費で大事なのは「総額」より「いつ、いくら」

 幼稚園から大学まで全て公立に通った場合、教育費は1人当たり約866万円。私立だと約2,376万円。文部科学省「子供の学習費調査」(令和5年度)などを基にした目安です。


 こうした数字はよく紹介されますが、これを見て不安が消えたという方に、私はあまりお会いしたことがありません。総額を知っても、「自分の家計だと、いつ、いくら足りなくなるのか」が分からないままだからです。


 教育費には、ほかの支出にはない特徴があります。必要になる時期をずらせないことです。マイホームの頭金なら「もう1~2年ためてから買おう」と先送りできますが、子どもの大学入学は待ってくれません。


 しかも、そのピークが来る時期は多くの場合、住宅ローンの返済期間の真っただ中と重なります。つまり教育費だけを切り出して考えても答えは出ず、家計全体を、しかも数十年単位の時間軸で眺める必要があるのです。


 そこで今回は、筆者が運営する情報サイト「資産形成ハンドブック ライフプラン&お金の計算ツール」にて提供している、登録不要、無料で使える「ライフプランシミュレーター」を使って、実際に計算していきます。


30代後半・子ども2人の家計で試算してみる

 モデルケースとして、次のような家計を設定しました。


モデルケースの前提条件
手取り年674万円・2人の子を育てる30代夫婦「教育費は?」「老後資金は?」→30年分の年間収支をシミュレーション…「国公立シナリオ」と「私立シナリオ」で老後資金はいくら変わる?
モデルケースの前提条件

 初年度の収支は、収入674万円に対して支出602万円で、年72万円の黒字。余裕たっぷりとはいえませんが、破綻もしていない、ごく標準的な家計です。児童手当(高校生年代まで、第1子・第2子は月1万円)も収入に含めています。


 入力にあたって、つまずきやすいポイントを三つだけ挙げておきます。


  • 収入は必ず「手取り」で入れる。財形貯蓄や団体保険で給与天引きしている分があると、振込額とはズレます
  • 教育費の上昇率を0%のままにしない。教育費は一般的な物価より上がりやすい傾向があり、出産から10~20年といった将来のお金です。今回は基本シナリオで年1%としています
  • 「目標預貯金額」を設定しておく。ここでは300万円としました。手元に常時300万円を残し、余ったお金は自動的に投資へ、足りない年は自動的に投資から戻す、という動きをツールが計算してくれます

 三つ目は地味ですが重要です。これを設定しておくと、「毎月いくら積み立てるか」を自分で決め打ちする必要がなくなります。


基本シナリオの結果は「意外と大丈夫」だった

 まずは、2人とも小中高全て公立、大学は国公立に自宅から通う前提で計算します。


年間収支の推移グラフ(基本シナリオ)
手取り年674万円・2人の子を育てる30代夫婦「教育費は?」「老後資金は?」→30年分の年間収支をシミュレーション…「国公立シナリオ」と「私立シナリオ」で老後資金はいくら変わる?

 最初に確認したいのが、年間収支の推移グラフです。

折れ線が毎年の収支を表し、ゼロを下回った年が赤字になります。谷がどこにあり、どれくらい深いのかを見ていきます。


 基本シナリオでは、年間収支が赤字になるのは「46歳、48歳、49歳」の3年間だけ。しかも赤字幅は最大で年25万円にとどまりました。グラフでも、40代後半のくぼみはほとんど目立ちません。むしろはっきりした谷は60代に入ってから訪れますが、こちらは年金生活に入ったあとの赤字で、教育費とは別の話です。


 資産の方はどうでしょうか。金融資産(預貯金+投資資産)は、30年間を通じて一度もスタート時の889万円を下回りません。65歳時点では3,980万円まで増えている計算です。そして住宅ローンの残高(下向き棒グラフ)は順調に低下していき、65歳で完済することが見込まれています。


資産残高の推移グラフ(基本シナリオ)
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 つまり、この家計はすでに足りているのです。「不安だったが、計算してみたら問題なかった」というのは、実際のご相談でもよくあることです。


 もう一つ、意外な発見がありました。教育費のピークは、2人が同時に大学生になる48~49歳ではなく、46歳の年152万円だったのです。


ライフイベント年表
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 年表を見ると理由が分かります。46歳の年は、長女の大学入学(入学金を含む初年度)と、長男の高校2年(受験期で学習塾代がかさむ)が重なっているのです。教育費の山は、直感とは違う場所に立っていることがあります。


 そして52歳。長男が大学を卒業し、教育費の負担が終わると、年間収支は一気にプラス113万円へ回復します。谷には、必ず出口があります。


進路が変わると、48歳で金融資産が尽きる

 では、進路が変わったらどうなるでしょうか。同じ家計のまま、次のように条件を変えてみます。


  • 長女:中学から私立→私立高校→私立大学文系
  • 長男:私立高校→私立大学理系(下宿)
  • 教育費の上昇率:年1%→年2%
  • 中学受験の塾代(年100万円×2年)と、下宿費用(年96万円×4年、初期費用39万円)を追加

 下宿費用は統計の教育費に含まれないため、日本政策金融公庫の調査を基に別途入力しています。


シナリオ比較グラフ(基本シナリオ vs 私立シナリオ)
手取り年674万円・2人の子を育てる30代夫婦「教育費は?」「老後資金は?」→30年分の年間収支をシミュレーション…「国公立シナリオ」と「私立シナリオ」で老後資金はいくら変わる?

 結果は大きく変わりました。教育費の総額は1,474万円から2,848万円へ。

ピークは48歳の年324万円、その年の家計は334万円の赤字です。


 問題は総額そのものよりも、それが8年間に集中することでした。47歳で投資資産が底を突き、48歳には金融資産がマイナスに転じます。65歳時点でもマイナス646万円のまま。教育費が終わった後に立て直す時間が、ほとんど残らないのです。


 ここで、感度分析(前提を動かしたときの振れ幅を見る機能)に興味深い結果が出ました。投資の想定利回りを±1%動かしたときの最終純資産の差が、基本シナリオでは2,401万円あったのに対し、私立シナリオではわずか158万円しかなかったのです。


 理由は単純で、資産が早々に尽きてしまうと、運用する元本自体が残らないからです。「運用でなんとかする」という発想は、資産が残っていて初めて成り立つ、ということなのです。


改善策は、7年前から効いてくる

 では、どうすればよいのでしょうか。私立シナリオに、次の三つの手を加えてみます。


  • 収入:配偶者が40歳で正社員に復帰(手取り130万円→200万円)
  • 支出:基本生活費を月24万円→23万円に見直し
  • 保険:保険料を年30万円→24万円に見直し
シナリオ比較グラフ(3本)
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 金融資産の最低値は、私立シナリオのマイナス1,544万円から、プラス696万円へ。枯渇は回避できました。

65歳時点の金融資産は3,719万円と、基本シナリオ(3,980万円)に近い水準まで戻っています。


 改善策を一つずつ試すと、効き方の違いもはっきりします。


私立シナリオからの改善策による効果の比較
手取り年674万円・2人の子を育てる30代夫婦「教育費は?」「老後資金は?」→30年分の年間収支をシミュレーション…「国公立シナリオ」と「私立シナリオ」で老後資金はいくら変わる?
注:▲はマイナスを示す

 収入を増やす手が突出して効いていますが、それだけでは最低値が232万円と十分ではありません。生活費と保険の見直しを重ねて、ようやく696万円まで戻ります。大きな一手だけを探すのではなく、小さな手を組み合わせる方が現実的だと考えています。


 そして注目していただきたいのが、黒字化するタイミングです。配偶者が復帰する40歳の年に、年間収支はマイナス78万円からプラス46万円へ転じます。教育費のピークが来る7年も前です。教育費対策とは、山が来てから慌てて何かをすることではなく、山が来る前の平地の時点から準備し始めておくことだと、この数字を見ると実感できるかと思います。


 なお、48歳・49歳は対策後も年200万円前後の赤字が残ります。それでも資産は減り切りません。赤字をゼロにする必要はなく、ためておいた資産で吸収できる範囲に収まっていればいい。

ここは、多くの方に安心していただける点ではないでしょうか。


不安の正体は、金額ではなく「見えないこと」

 最後に、三つのシナリオに共通していたことをお伝えします。


 感度分析で最終的な結果を最も左右していたのは、「投資の利回り」ではなく、「生活費と教育費の上昇率」でした。物価の上昇を前提に置いて計画を立てることの重要性が、改めて確認できたと考えています。


 そして今回いちばん申し上げたいのは、教育費の谷には必ず出口があるということです。子どもが独立すれば負担は終わり、そこから老後資金をため直す期間がきちんと残されています。目の前の不安に押されて、今の生活を過度に切り詰めてしまうのは、かえってもったいない可能性もあるのです。


 お金は目的ではなく、人生を豊かにするための手段です。使いたい時にしっかり使っていくという視点を持ちながら、それでも将来に向けて備えていくために必要なのが「見える化」なのだと思います。


 シミュレーションは、将来を言い当てるために行うものではありません。どの改善策から手をつけるべきか、その順番を決めるために行うものです。一度計算しておけば、「教育費が不安」という漠然としたモヤモヤは、「40歳までに世帯収入をあと70万円増やす」という具体的な課題に変わります。


 今回のモデルケースの計算は以下のリンクからご確認いただけます。このシミュレーションを基に、ぜひご自身の家計の数字に置き換えてみていただけたらと思います。


・ 基本シナリオ


・ 私立シナリオ


・ 対策シナリオ


 皆さまのファイナンシャル・ウェルビーイングの一助となれば幸いです。


※本記事のシミュレーション結果は、記載した前提条件の下での試算であり、将来の成果を保証するものではありません。投資にはリスクが伴いますので、ご自身のご判断と責任において行ってください。


※教育費の金額は、文部科学省「子供の学習費調査」(令和5年度)、「令和5年度私立大学入学者に係る初年度学生納付金平均額」、日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査結果」(令和3年度)に基づくシミュレーターの内蔵データを使用しています。


 なお、2026年4月から高等学校等就学支援金の所得制限が撤廃され、私立高校の支給上限額が年45万7,200円に引き上げられました。私立高校の実質的な負担は、上記の統計値より軽くなる可能性があります。


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(横田 健一)

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