今週、7月の中国経済主要経済統計が発表されました。生産、消費、投資などの指標が軒並み悪化し、不動産不況やデフレスパイラルも続いています。
7月の中国経済統計発表日時が「政治的理由」で異例の変更
8月17日、中国国家統計局が直近7月の主要経済統計を発表しました。
この日の午前中、第3世代の最高指導者である江沢民(ジャン・ザーミン)氏の生誕100周年記念式典が行われ、習近平総書記など国家指導者が出席した背景もあり、従来午前10時(現地時間)に発表されるこれらの統計を、国家統計局は15時という異例の時間帯に発表しました。
中国共産党にとって極めて重要な政治イベントが行われているさなかに、経済統計を発表するのは適切ではないという政治的判断が作用したものと思われます。発表される数字が良好でない場合においてはなおさらでしょう。中国でも、政治や企業活動、国民生活を含め、「縁起が悪い」という考え方はかなり広範に、深い次元で浸透しています。
と同時に重要な示唆は、中国においては、やはり「政治が経済に優先される」という点でしょう。発表の時間が10時から15時に、5時間程度遅れたくらいでは、国内外の政府や市場関係者の中国経済への判断に実質的な影響は出ないと思います。それでも、今回の異例とも言える時間帯の「ずらし」には、何か中国的なシグナリングを私は実感しました。
特に来年の秋に5年に1度の党大会が開催されるに当たり、政治的な要素が経済情勢や企業活動に対してどのような影響を及ぼしていくのか、この期間、中国経済を観察・分析する上での一つの視点として、押さえておく必要があると考えた次第です。
7月の主要統計結果は「軒並み鈍化」
ここからは、8月17日15時(現地時間)に発表された中国経済の主要統計結果を見ていきましょう。以下、直近7月の数字を前月と比較しつつ列挙します。
7月 6月 工業生産 4.5% 5.3% 小売売上 0.6% 1.0% 固定資産投資 ▲6.7%(1~7月) ▲5.7%(1~6月) 不動産開発投資 ▲19.2%(1~7月) ▲18.0%(1~6月) 不動産を除いた固定資産投資 ▲3.7%(1~7月) ▲2.7%(1~6月) 貿易(輸出/輸入)人民元建て 19.2%
(17.8%/21.2%) 24.2%
(20.8%/29.4%) 失業率(調査ベース、農村部除く) 5.2% 5.0% 若年層失業率(在校生除く) 14.9% 消費者物価指数(CPI) 0.5% 1.0% 生産者物価指数(PPI) 3.5% 4.1% (出典)中国国家統計局の発表を基に筆者作成、▲はマイナスを示す
工業生産、小売売上、固定資産投資、不動産開発投資を含め、主要な指数は軒並み伸び率が鈍化している現状が見て取れます。
先週のレポートでも一部扱いましたが、貿易はおおむね堅調と言えます。米中間における追加関税率の掛け合いがいったん落ち着いているのと、さらなる「トランプ関税」発動を前にした駆け込み需要の増加、およびAI需要を背景とした半導体やEVなどの好調が全体をけん引したと思われます。
物価関連の消費者物価指数(CPI)とPPIの上昇率が低下した背景には、エネルギー価格の高騰が世界的に緩和した影響を受けていると言えますが、中国国内に目を向けると、供給過剰と需要不足という構造的問題が解決されてはおらず、中国経済は依然としてデフレスパイラルから抜けきれていないとみるべきでしょう。
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先週のレポートで言及した7月30日開催の中央政治局会議で、習近平氏が司会する形で「内巻式競争(注:供給過剰と需要不足の中、商品価格、個人所得、企業収益などあらゆる要素が低下していく「中国式デフレスパイラル」)に対する総合的な是正措置を継続する」と呼びかけたのも、党指導部として、中国経済がデフレ基調で進行しているという認識を有している証左だと私は分析しています。
中国政府の現状認識
ここからは、迷走する中国経済の現状を、中国政府自身がどう認識しているのかを見ていきましょう。8月17日同日、国家統計局が記者会見を開きました。以下、報道官の発言の中で、中国経済にとってのネガティブ要素に絞って引用し、それに対する私の解読を加えたいと思います。
「7月は、国際的な地政学的対立が続き、世界のエネルギー市場には不安定・不確実な要素が多く、世界経済の回復に悪影響を及ぼした。国内の一部地域では、猛暑や豪雨などの異常気象が発生し、市場の需給に打撃を与えた」
「国際情勢は依然として複雑かつ厳しい状況にあり、国内では供給過剰と需要低迷という矛盾が顕著であるため、リスクや潜在的な問題の予防・解消、および経済の安定的な回復基調の定着に向けて、引き続き一層の取り組みが必要である」
「最近の異常気象が第3四半期の経済に与える影響および通年の目標達成に関する質問について、最近、一部の地域で高温や豪雨などの異常気象が見られ、確かに経済運営に一定の打撃を与えるものの、経済発展の全体的な傾向を変えることはない」
「年初から7か月までの固定資産投資は前年同期比で6.7%減となり、減少幅は拡大し続けている。これは、一部の地域における高温や豪雨によるプロジェクト工事への短期的な影響に加え、外部環境の複雑かつ厳しい状況や、国内経済の構造転換・調整に伴う一時的な影響も要因となっている」
以上、私が注目した国家統計局報道官による回答を挙げてみました。
以上、最新の統計発表を基に、中国経済の現在地と中国政府の現状認識を検証してきました。今後の見通しとして、ウクライナやイランといった地政学情勢が短期的に収束する兆候はなかなか見られません。夏は今しばらく続きますし、異常気象が断続的に表面化する可能性は大いにあります。
また、来月下旬に習近平国家主席が米国を訪問する方向で調整が進んでいますが、それを跨いで、米中関係がどう推移するかも、中国経済にとっての重要な要因になるのは間違いありません。予断を許さない状況が続くとみるべきです。
(加藤 嘉一)

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