文部科学省の調査によると、私立大学は年間約150.8万円の費用がかかるそうです。これらを全て預貯金で賄えて、かつ自分たちの老後資金まで確保しているという家庭はどれほどいるのでしょうか。

そこで知っておきたいのが、国や自治体の「支援制度」です。今回、教育費にまつわる支援制度について、事例を交えて紹介します。


国の支援は対象外。でもお金はない…貯金360万円・世帯年収6...の画像はこちら >>

長男の言葉を「素直に喜べなかった」両親

「やりたいことがあるから、大学(私立)に行きたい」


 高校2年生の長男(17歳)からそう告げられたとき、母の頭にまず浮かんだのは「学費」の2文字だったそうです。


 今回紹介するのは、世帯年収約600万円の40代夫婦(以下、A夫婦)。預貯金は360万円ほどで、下には中学3年生(15歳)の長女がいました。さらに、夫婦は自分たちの老後資金も準備しなければなりません。


「子どもがやりたいことを見つけてくれたのはうれしい。でも、このままでは大学の費用を払える気がしない」


 そう話す夫婦は、教育費を「貯蓄など手元の資金だけで解決しよう」と考えていました。


 では、この夫婦が活用できる控除や給付金、奨学金などの制度はどのようなものがあるのでしょうか。


世帯年収600万円でも受けられる支援はあるのか

 まず、A夫婦が利用を検討したいのは、大学生の子どもを扶養している場合の「特定親族特別控除」です。


 特定親族特別控除は、その年の12月31日時点で19歳以上23歳未満の子どもが扶養要件を満たせば、親が63万円の所得控除を受けられます。また、住民税については控除額45万円が適用されます。


 親の所得税率が10%、住民税10%で計算した場合、軽減効果の目安は年間で合計約10万8,000円です。


所得税:63万円×10%=約6万3,000円
住民税:45万円×10%=約4万5,000円


確認すべき国の支援制度「修学支援新制度」

「修学支援新制度」とは、大学等の授業料・入学金の減免と、返済不要の給付型奨学金を組み合わせた制度です。


 年収の目安は次のようになっています。


支援区分 年収の目安 主な支援 第1区分 ~270万円程度 満額支援(入学金26万円、授業料70万円 ※私立大学) 第2区分 ~300万円程度 満額の3分の2 第3区分 ~380万円程度 満額の3分の1 第4区分 ~600万円程度 満額の4分の1(学部制限あり) ※1多子世帯は所得制限なく、授業料・入学金を上限まで減免されます。
※2年収はあくまでモデル世帯の目安で、実際には住民税情報で判定されます。

 なお、年収が600万円を超えていると授業料や入学金減免の対象外となる可能性が高いため、A夫婦が本制度を活用できる可能性は低いでしょう。


JASSO(日本学生支援機構)の奨学金は3種類を区別する

 子どもの大学進学に際して金銭的な不安が生じた場合、まず調べたいのが「奨学金」についてです。ここでは、奨学金の種類とその概要について解説していきます。


給付型奨学金(返済不要)

 給付型奨学金は「給付型」の名の通り、返済不要の奨学金です。住民税非課税世帯に該当する第1区分の場合、私立大学・自宅通学では月額3万8,300円が支給されます※。第2区分は月額2万5,600円、第3区分は月額1万2,800円です。


※生活保護を受けている生計維持者と同居している人及び社会的養護を必要とする人で、児童養護施設等から通学する人の場合は金額が変わる


第一種奨学金(無利子)

 利子がない第一種奨学金は、私立大学・自宅通学の場合、月額2万円、3万円、4万円、5万4,000円から選べます。


 高校で手続きを行う予約採用では、原則として高校の全履修科目の評定平均が5段階で3.5以上であることが学力基準です。


 4人世帯で父母がともに給与所得者の場合、第一種の年収上限の目安は約803万円です。


 月3万円を4年間借りると、貸与総額は144万円。JASSOの返還例では、卒業後の返還額は月約9,230円、返還期間は13年です。


第二種奨学金(有利子)

 最後に、第二種奨学金です。第二種奨学金は、月額2万円から12万円まで、1万円単位で選べます。利率は貸与終了時に決まり、上限は年3%です。


 学力基準は第一種より幅広く、「学修意欲があり、学業を確実に修了できる見込みがある」場合なども対象となります。4人世帯で父母がともに給与所得者の場合、年収上限の目安は1,250万円です。


 世帯年収600万円・子ども2人という今回の世帯では、返済が不要の給付型奨学金は対象外になる可能性が高いでしょう。しかし、返済が必要な第一種・第二種奨学金は利用できる可能性が高いです。


 必要以上の金額を借りると、子どもの卒業後の生活を圧迫するため、まずは無利子の第一種奨学金を検討し、足りない部分を有利子の第二種奨学金で補うとよいでしょう。


国の教育ローンは「入学前の資金」

 JASSOの奨学金は進学後に振り込まれます。しかし、私立大学では多くの場合、合格後すぐに入学金や前期授業料の納付を求められます。


 その資金が不足する場合、日本政策金融公庫の「国の教育ローン※」を利用するとよいでしょう。


※出典: 日本政策金融公庫「国の教育ローン」


 2026年7月時点の固定金利は年4.05%。融資限度額は原則として子ども1人につき350万円、返済期間は20年以内です。扶養する子どもが2人なら、給与所得者の世帯年収上限は890万円が目安なので、A夫婦は利用できます。


 ただし、親が返済義務を負うため多く借りると老後資金の準備と返済時期が重なります。無利子の第一種奨学金より優先順位は下げ、入学前の一時的な資金不足を埋める用途に限定したいところです。


 なお、世帯年収が1,000万円を超える世帯では、奨学金や国の教育ローンを利用できない場合があります。その場合は銀行や信用金庫などの教育ローンを活用しましょう。


自治体独自の給付金を確認する

 自治体の制度は、居住地や住民税額などによって異なります。自治体や大学独自の制度には次のようなものがあります。


  • 大学進学時の給付型奨学金
  • 入学金・授業料の減免
  • 入試成績による特待生制度
  • 家計急変世帯への支援
  • 卒業後に地域内で就職した人への奨学金返還支援
  • 企業による奨学金代理返還制度

 まず、大学独自の奨学金には、入学後ではなく出願時や合格手続き時に申し込むものもあります。志望校を決める段階で大学の「奨学金」「授業料減免」「特待生」などのページを確認しておきましょう。


制度を使う場合と使わない場合の家計推移

 次の条件で、子ども2人が私立大学へ自宅通学するケースを試算します。


試算条件

■年間貯蓄額:60万円


■預貯金:480万円(長男が大学に入学する直前の時点。高2時点の360万円から貯蓄60万円を継続したと仮定)


■子の大学進学時期
・長男:2028年から4年間
・長女:2030年から4年間


■1人当たりの4年間の学校納付金:532万円※


※文部科学省「私立大学等の令和7年度入学者に係る学生納付金等調査結果について」より、2年目以降は入学金を除いて算出


ケース(1):奨学金制度を利用せず、親が全額負担
ケース(2):2人とも第一種奨学金を月3万円利用
ケース(3):2人とも第二種奨学金を月6万円利用


注:給付型奨学金、大学独自奨学金など算入せず、物価上昇、通学費、受験費用など学費以外は考慮しない


  主な状況 ケース(1)預貯金残高
(親が全額負担) ケース(2)預貯金残高
(第一種奨学金を活用) ケース(3)預貯金残高
(第二種奨学金を活用) 2028年度 長男入学 329万円 365万円 401万円 2030年度 長女入学 44万円 188万円 332万円 2031年度末 長男卒業 ▲150万円 66万円 282万円 2033年度末 長女卒業 ▲284万円 4万円 292万円 ※▲はマイナスを示す   ケース(1)の結果 ケース(2)の結果 ケース(3)の結果 A夫婦の貯金残高 ▲284万円の赤字 4万円 292万円 子の奨学金負担 0万円 144万円/人 288万円+利息/人 ※2人目(長女)が卒業した時点の残高。▲はマイナスを示す

 ケース(1)では奨学金を利用していないため、長男が卒業する前に家計は破綻してしまいます。


 ケース(2)では、2人目(長女)卒業時点で預貯金が約4万円残ります。ただ、これでは余裕がないため、何か突発的な費用が発生すると対応できない状況です。


 ケース(3)では、長女卒業時点の預貯金額は292万円と、家計に余裕をもった状態を維持できます。


 ただし、ケース(2)とケース(3)で見落としてはいけない点があります。

それは、2人の子どもが「社会人になった時点で数百万円の借金を背負っている」という事実です。


 奨学金は給付金ではなく、支払時期を将来へ移す仕組みであることを、子どもにも十分理解させておく必要があるでしょう。


A夫婦はどうすべきか?

 A夫婦の場合、480万円の預貯金を全て長男の学費に使うべきではありません。


 少なくとも、生活費の6カ月分~1年分、目安として200万円前後は生活防衛資金として確保しておきたいところです。残る280万円を長男の初年度納付金に充てれば、入学時の費用には対応できます。


 その上で、下記の5点を確認しておきましょう。


  • 高校3年生になったらJASSOの予約採用を申し込む
  • 第一種奨学金を優先して利用し、足りない分を第二種奨学金で賄う
  • 志望大学の特待生・授業料減免制度を調べる
  • 親の老後積立は月1万~2万円でも継続する
  • 入学前資金が不足するときは国の教育ローンを検討する
  •  ここで意外と多いのが、「株式や投資信託で少しでも増やしておこう」と考えるケースです。しかし、長男の進学まで2年を切っているため、入学金や初年度授業料に使うお金を株式や投資信託で運用するのはリスクが高くおすすめしません。


     教育費は預金や債券など値動きの小さい資産で確保し、10年以上使わない老後資金をNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)などで積み立てるのが基本です。


    教育資金は「国や自治体の援助」をフル活用して賢く準備

     世帯年収600万円というと、生活に困窮しているとはみなされにくい一方、子ども2人分の教育費用を余裕で負担できるほど豊かなわけでもありません。まさに支援制度のはざまに入りやすい世帯です。


     A夫婦の場合、返済不要の給付制度の利用は困難です。それでも、特定親族特別控除や奨学金、国の教育ローン、大学独自の奨学金などを組み合わせれば、教育費が一時期に集中することを防げます。


     大切なのは「知って終わり」ではなく、申請時期から所得要件、学業要件、返済義務まで確認して、具体的に落とし込むことです。


     教育資金と老後資金は、どちらか一方を犠牲にする問題ではありません。返済不要の支援を最優先し、不足分を低金利の奨学金などで補う。それが、子どもの進学と親の老後を両立させる現実的な方法といえるでしょう。


    ※制度・金額は2026年8月時点。実際の判定は年収だけではなく、住民税額、家族構成、資産、進学先、学業要件などによって異なります。


    (武田 拓也)

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