米国債バイバックの表明で一時的に金利低下と円高が進みましたが、市場の反応は限定的でした。米当局の「財政健全化策」が具体性に欠ければ、市場の失望を招き「トリプル安」となるリスクがあります。
米国債バイバックによる金利低下、円高も一時的。トリプル安シナリオに警戒
先週19日、ベッセント米財務長官は米国債バイバック(償還までの期間10年以上の米国債の買い入れ消却)を表明しました。買い入れ消却は9月9日~11月4日に実施、1回当たりの上限をこれまでの20億ドルから40億ドル(約6,340億円)に引き上げるとのことです。この表明によって米長期金利は低下したものの一日しか持たず、表明前の水準に戻ってしまいました。
ドル円も、このバイバック表明後、158円割れ目前まで円高に行きましたが、翌日には159円台に戻しました。長期金利再上昇の動きを受けて翌20日にはその増額を示唆し、24日には国債買い入れに1兆ドル規模の「一般勘定」を利用する可能性があることも報じられました。これらの動きから長期金利の上昇は一服しましたが、これらは短期的な対応でしかありません。
また、24日にはベッセント財務長官がイランに対する新たな経済制裁措置を発表しました。イランと取引をする第三国にも制裁を科すと明らかにしました。また、同氏は今週中に「ある金融機関が制裁対象になるという重要な発表をする」とも予告しました。
しかし、金融機関への具体的な制裁内容や実施時期などが明らかになっていないことや、米国政府が中東から退避させていた外交官を復帰させるという報道を受けて、イランとの戦闘が今後縮小するとの思惑から原油価格が下落し、長期金利も低下しました。
長期金利の上昇を警戒するベッセント財務長官は抜本的な対応をするために、近いうちに「財政健全化策」を発表すると述べています。しかし、具体策に欠けると市場は失望し、再び長期金利は上昇、場合によってはトリプル安(米国債安〈金利高〉、株安、ドル安)になる可能性もあるため警戒する必要があります。
ドル円は米長期金利上昇によって一時的にドル高になるかもしれませんが、トリプル安になればドル売りの方が勝る可能性も想定されます。
米長期金利上昇が日本へ波及し、日本の長期金利が上昇すれば、日本でも株安、円安と連鎖が起こり、ドル高、円安のシナリオも想定され注意する必要があります。
日銀・FRB・G20の要人発言に注目。9~10月マーケットが不安定化するリスク
今週は9月の日米金融会合のヒントになるかもしれない会見や講演会があります。
27日には、日本銀行の氷見野良三副総裁の会見が予定されています。市場では9月か10月の利上げが予想されていますが、9月利上げ観測の方が勝っているようです。
氷見野副総裁が9月利上げを示唆することも予想されますが、あまり強調し過ぎると、織り込み度合いが高まる可能性もあり、利上げによる円高効果も9月会合までに賞味期限が過ぎてしまうかもしれないため注意したいと思います。年内や来年も含めた利上げペースが示唆されると賞味期限は延びることが予想されます。
28日には、米国ワイオミング州でのジャクソンホール会議(27~29日)でウォーシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演が予定されています。過去に、この会議でのFRB議長の講演で秋以降の金融政策を示唆することがあったため、毎年注目されています。
初参加となるウォーシュ議長がタカ派姿勢を維持するのか、利上げに慎重姿勢を示すのかどうか注目したいのですが、ウォーシュ議長は先行きの金融政策を示さないことを主張しているため、この講演では期待はできないかもしれません。
しかし、金融政策について全く先行きを示唆する内容がなかった場合でも、同議長のインフレに対する認識に市場は注目しています。議長就任前にはAIによる生産性の上昇がインフレを緩和するとの見方を示していましたが、足元ではインフレが3%超で高止まりしている中、どのような現状認識を話すのか注目されます。
市場とずれた認識が示されると、インフレ抑制への信任を得られないことも予想され、失望感と同時に同議長への信頼感が揺らぐ可能性もあります。その場合、ややドル安になるかもしれないため注意が必要です。
8月31日~9月1日にはG20(20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議が開催されます。そこではベッセント財務長官の動向が注目されます。ベッセント財務長官は、日銀の植田和男総裁に対して9月利上げを念押しすることが予想されます。
そして市場が最も注目するのは、米国の財政健全化策について各国の財務相や中銀総裁に対して何が語られるのかです。まだ、その時点で具体策が語られない場合、ベッセント財務長官に対する信頼も後退するかもしれません。
極端なシナリオですが、米国の財務長官と中央銀行総裁がほぼ同じ時期に信頼が揺らぐということになれば由々しき事態です。米債売り圧力、ドル売り圧力が増すことも予想されます。
8月はあまり動意がありませんでしたが、いよいよ11月3日の米中間選挙が近づいてくる中、9月、10月にマーケットは不安定になるかもしれないため注意したいと思います。まずは8月の終わりから9月初めにかけての動きには目が離せません。
(ハッサク)

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