福田正博 フットボール原論

サッカー日本代表がW杯の決勝トーナメントでブラジルと対戦。今大会のブラジルサッカーの特徴と、それを抑えるキーマンを福田正博氏に聞いた。

>>前編「日本がグループステージで強さを見せた、森保一監督の選手起用」

【ワールドカップ】サッカー日本代表のブラジル戦は「恩返し」の...の画像はこちら >>

【W杯では20年ぶりの対戦】

 不思議なめぐり合わせだ。そう思いたくなるほど、森保一監督には見えない"縁"が働いているように感じてしまう。

 森保監督は選手時代に、1994年W杯アジア最終予選が行なわれたカタールの首都で"ドーハの悲劇"を経験し、監督となって2022年カタールW杯に出場した。その1994年W杯の開催地だったアメリカで、今大会を戦っている。

 ドーハの悲劇で日本代表を指揮したハンス・オフト氏の母国オランダとは、今大会のグループステージ初戦で対戦し、試合後の会見で森保監督はオフト氏やビム・ヤンセン氏など日本サッカーの普及と進歩に携わってくれたオランダへの感謝を伝えた。

 私もオフト監督のもとでドーハの悲劇を経験し、浦和レッズでも一緒に戦った。ヤンセン氏はサンフレッチェ広島で監督をし、オフト監督時代の浦和ではコーチを務めただけに、ふたりの恩師の名前を出しながらオランダへの感謝を発した森保監督の気持ちがよくわかる。

 日本サッカーの歴史を振り返ると、3つの国がレベルアップの伴走者になってくれた。オランダであり、ドイツであり、そしてブラジルだ。

 ドイツには前回大会で勝利という形での恩返しができた。オランダには今回勝利とはならなかったものの、引き分けるまでの力をつけたことを示せた。そして、次に恩返しすべきなのが、決勝トーナメント1回戦となるラウンド32で対戦するブラジルだ。

 親善試合ではなくガチンコ勝負での勝利。

これに優る恩返しはないが、その機会はW杯しかない。過去にW杯で対決したのは、2006年ドイツW杯の一度きり。グループステージで対戦し、先制点を奪うものの1-4で逆転負けを喫した。あれから20年。機は熟した。

【カウンターのブラジル】

 今大会のセレソンは、イタリア人のカルロ・アンチェロッティが率いている。ミランやレアル・マドリードなどを指揮し、リーグ優勝やチャンピオンズリーグ優勝を何度も獲得した名将のもと、「華麗なフットボール」ではなく「リアリスト」の戦いをしている。

 今のブラジルの怖さは、ボールを保持する技術や能力がありながら、相手に攻撃させて自陣に引きこみ、そこからボールを奪ってカウンターを狙う戦術をとることだ。攻撃陣はスピードがあり、相手陣にできた広大なスペースを有効に使うテクニックもある。

 その攻撃の中心となっているのが、レアル・マドリードのFWヴィニシウス・ジュニオールだ。グループステージは3試合連続で合計4得点をマーク。日本は彼を止められるかが最大のポイントになる。

 その重要な役割を担うのは、冨安健洋になるだろう。

オランダ戦は途中出場、チュニジア戦はスタメンで後半33分までプレー。この2年間、ケガでほぼプレーできなかった状態にあったとは思えないパフォーマンスを見せてくれた。スウェーデン戦は出場せずに、ブラジル戦に向けたコンディションにも不安はない。冨安が本領発揮となることを期待している。

 周囲の連係も大事になる。右ウイングバックの選手やボランチの佐野海舟と連動しながら、ヴィニシウスに仕事をさせないようにする。佐野は1戦目、2戦目とフル出場したが、スウェーデン戦は出場せず、こちらもブラジル戦を見据えて休養をとった。いつも以上にタフな佐野が見られるはずだ。

 ただし、ヴィニシウスを警戒していても、ほかのところからピンチになる可能性はある。そこで重要になるもうひとりのキーマンがGK鈴木彩艶だ。彼の活躍なくして活路は開けない。

 オランダ戦は試合開始直後にドニエル・マレンにシュートを打たれたが、しっかり処理してチームに落ち着きをもたらした。

その後もチュニジア戦、スウェーデン戦で何度となくスーパーセーブを見せてきたが、ブラジル戦でもしっかりと集中して最初のシュートを防ぎ、流れに乗って最後までゴールマウスを守り抜いてもらいたい。

 ブラジルは4バックを敷く。センターバック(CB)はアーセナルのガブリエウ・マガリャンイスと、パリ・サンジェルマンのマルキーニョス。今季のチャンピオンズリーグ決勝を戦った両クラブのCB、すなわち世界最高のCBと見ていい。両サイドバックはさほど攻め上がらず、守備に重心を置いている。

 この4バックを日本がいかに崩すのか。相手の油断が生むスキを突けるといいのだが、昨年10月の親善試合で日本に逆転負けを喫したブラジルにそれを望むのは難しいだろう。

 また、日本はブラジルやアルゼンチン、フランスのように、前線の選手の圧倒的な個の力で攻撃を組み立てるわけではない。そうしたなかで活路を見出すには、流動性とコンビネーションが重要になる。チュニジア戦やスウェーデン戦などで見せた、複数選手が絡んだパスワークで相手DFの裏を突いて決定機をつくり出してもらいたい。

【PK戦も想定】

 決勝トーナメントからは延長戦があり、PK戦も想定した戦いをする必要がある。選手交代のタイミングについては、グループステージよりも難しい判断が求められる。

そのなかで森保監督が選手たちを信じ、どういう采配を見せるのか注目される。

 過去の日本は決勝トーナメントに進んだ時には余力がない状態だったが、今大会は違う。森保監督はグループステージで、選手たちをW杯というピッチに送り出す準備をしっかり整えている。この先誰を出場させても、決勝トーナメントの舞台にひるむことなく、しっかり仕事をやってくれるはずだ。

 日本は2010年南アフリカW杯でパラグアイに、2022年カタールW杯ではクロアチアにPK戦で敗れ、大会を去ることになった。90分間で、あるいは120分間で試合を決められればいいが、PK戦までもつれ込んだ時には3度目の正直でしっかりモノにしてもらいたい。

 日本サッカーの成長にとってブラジルという強豪国は不可欠な存在だった。ジーコ元日本代表監督、セルジオ越後氏、与那城ジョージ氏、ラモス瑠偉氏、三都主アレサンドロ氏や田中マルクス闘莉王氏など、日本サッカーに携わったブラジル出身者の名前を挙げたらキリがない。

 そんなブラジルへの恩返しの意味でも、今回、日本はブラジルに勝利してほしいと思う。

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