満員に埋まったボストン・スタジアムのスタンドを眺めると、多数を占めているのはモロッコ側であるかのように見えた。気温30度。

直射日光が容赦なく照りつける屋根のないスタンドに、その赤の集団はよく映えた。

 フランス対モロッコ。前回カタール大会の準決勝と同一のカードである。4年前は2-0。ひと言でいえばフランスの順当勝ちということになるが、モロッコがアフリカ勢として初めてベスト4に残り、準決勝を戦った記念すべき試合でもあった。

 今回の舞台は準々決勝である。モロッコは今や、日本人ライターがダークホースとして挙げるにはいささか失礼な強国に、すっかり立ち位置を上げた。

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 2日前には同じ北アフリカ勢のエジプトがアルゼンチンと死闘を繰り広げていた。不運な判定もあり2-3で逆転負けしたが、去り際の美しさという点では、これまでのところ同じくアルゼンチンに敗れたカーボベルデと双璧を成した。

 今大会、アフリカ勢は10チームが出場し9チームがグループリーグを突破した。9チームが出場し2チームしかグループリーグを突破できなかったアジア勢とは、根本的にレベルが違う。

 フランスもそのアフリカと親戚のような関係にある。

スタメンのメンバーを見るとアフリカにルーツを持つ選手が多数を占める。アフリカを超えるアフリカとも言えそうな陣容である。ピッチに立った22人は、実際、雰囲気がよく似ていた。モロッコの売り出し中のMFアユブ・ブアディなどは、つい最近まで年代別の代表でフランスを選択していた。

 北アフリカといえば、あのジネディーヌ・ジダンもアルジェリア系だ。フランスだけでなくアルジェリア国民にとってもジダンは英雄なのだ。現代のスーパースター、キリアン・エムバペも母方にアルジェリア系のルーツを持つ。似たもの同士の対戦。これが、フランスには幸いし、モロッコには痛手となった。

 試合は、カタールワールドカップ準決勝を眺めた記憶が、ボストンで再び蘇ることになった。モロッコらしさがフランスに吸収され、モロッコの魅力が発揮されなかった。サッカーに適していると思しき、そのいかにもしぶとそうな気質を表現できなかった。

【2年前より攻撃がパワーアップ】

 サッカーには、「うまい選手は、それ以上にうまい選手を目の前にすると、戦意を喪失する」という長年言われ続ける格言のようなものがあるが、似た選手が目の前でワンランク上のプレーを発揮する姿を見て、モロッコはいつもの元気がなくなった。

 後半15分に生まれたフランスの先制点のシーンでエムバペと対峙したモロッコCBイッサ・ディオプはそんな感じに見えた。左45度でステップを踏むエムバペの動きを見てしまった。その一歩手前の攻防でも、すでにモロッコの選手は反応が遅れていた。

 フランス代表にはかつて「4銃士」と言われる集団がいた。シャンパンサッカーと言われるパスサッカーを中盤でリードした、1982年スペイン大会に出場した4人組だ。ミシェル・プラティニ、アラン・ジレス、ジャン・ティガナ、ベルナール・ジャンジニ。1986年メキシコ大会でベスト4入りした時は、ルイス・フェルナンデスがジャンジニに代わってその仲間に入ったが、そんな昔話を想起した理由は、今回のフランスにも4銃士に該当するグループがいるからだ。

 4-2-3-1の前線を構成する4人のアタッカーだ。ラウンド16のパラグアイ戦ではブラッドリー・バルコラ、マイケル・オリーセ、ウスマン・デンベレ、エムバペが務めたが、このモロッコ戦ではバルコラに代わりデジレ・ドゥエが左で先発を飾っている。

 今回のフランスを語る時、いの一番に触れたくなるのはこの4-2-3-1の「3-1」だ。2024年のユーロでスタメンを張ったのはエムバペとデンベレだった。3人目、4人目のアタッカーの座をランダル・コロ・ムアニ、オリビエ・ジルー、アントワーヌ・グリーズマン、マルクス・テュラムなどが争ったが、彼らのなかで今回選ばれているのはテュラムのみ。

そのテュラムにしても、出番はイラク戦の終了直前のみだ。

 2024年のユーロでは、フランスは準決勝でスペインに敗れているが、4銃士が復活し、攻撃がパワーアップした今回はどうなのか。フランスの準決勝の相手がスペインと決めつけるのは早計だが、好勝負必至だろう。ブックメーカー各社のオッズも、フランスやや優勢を示している。

【超近代的アタッカー、ドゥエ】

 モロッコ戦に話を戻せば、先制点のシーンで効いていたのが、得点のワンプレー前にアシスト役として関与したドゥエの存在だ。モロッコの選手は、彼の技巧的プレーも見てしまった。

 ドゥエで記憶に新しいのはパラグアイ戦だ。交代出場するや、ペナルティエリア内で細かなステップを踏み、決勝ゴールに繋がるPKを奪取したシーンである。

 この選手の技巧、筆者的には今大会でも1、2を争うレベルに見える。エムバペ、デンベレ、バルコラのようなスピードを前面に押し出すのではなく、技術を主体に相手の守備をかき回す。前線の4ポジションならどこでもこなす多機能性も備える。超近代的と言うべき新しいタイプの選手である。

 バルコラに代わってこの日、スタメン出場したドゥエ。彼を4銃士の一員に加えたことが、モロッコを完敗に追い込んだ大きな勝因だと見る。

 ドゥエに技巧を発揮され、エムバペにゴールを許すと、モロッコの足は止まった。1点以上の価値のある先制点だった。

 フランスの追加点は後半21分。得点者はデンベレだった。エムバペが前方を左斜めに走ったその逆をデンベレは突いた。キックは右足だった。しかし、その前のプレーでは左利きのような身体の開き方を見せていた。両利きである。この魅力もフランスの2026年版4銃士を語る時、外せない魅力になる。

 パリ・サンジェルマン(PSG)がチャンピオンズリーグ(CL)で2連覇を達成した理由がよくわかる。

ワールドカップはCLの組替え戦と言われるが、PSGの3人にレアル・マドリードのエムバペ、バイエルンのオリーセを加えた4銃士+1も、世界一に値する破壊的な集団に見える。

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