次代を担う逸材たち~アマチュア野球最前線
第21回 龍谷大平安・川島謙心

 9回二死走者なし。3点差を追う龍谷大平安にとっては、絶体絶命の局面だった。

だが、一塁側ベンチの端から声を張り上げる川島謙心は、まだあきらめていなかった。

「まだまだ、ここから、ここから!」

 左翼方向に飛んだ安打性のフライを鳥羽の左翼手が飛び込んで好捕する。その瞬間、龍谷大平安の夏は終わりを告げた。京都大会準々決勝敗退。甲子園まで、あと3勝足りなかった。

【高校野球】春に151キロでドラフト戦線へ急浮上した怪腕が涙...の画像はこちら >>

【今年春に151キロをマークしてブレイク】

 川島は今春、高校球界に突如出現した新鋭だった。昨秋は背番号16の控え投手兼控え内野手。目立った活躍はなかったものの、ひと冬越えて大変身。最速151キロをマークし、プロ球団のスカウト陣の間で知らぬ者はいないほどのブレイクを果たした。

 身長185センチ、体重76キロ。膝下が長い独特のシルエットは、佐々木朗希ドジャース)の高校時代と重なる。大型投手といっても動作にぎこちなさはなく、50メートル走6秒2と運動能力が高い。龍谷大平安の具志賢三コーチは「内野をやっていたからフィールディングもいいし、じつはバッティングもよくて、チームで一番飛ばすかもしれません」と証言する。

 ただし、今夏の川島は春ほどのインパクトを残せなかった。7月18日の4回戦・開建戦では、5対0とリードした8回から登板。ところが、3安打2四死球を許して4失点。結果的に勝利を収めたものの、薄氷を踏むような内容だった。

 川口知哉監督は、「春以降に若干自分を見失った時期がありました」と明かす。

「フォームのバランスが悪くなっていました。でも、だいぶよくなって、スピードも戻ってきていました。もうひと押しかな......というところまで来ていたんです」

 乱調だった開建戦の後、どんな修正を試みたのか。そう尋ねると、川島はこう答えている。

「技術面はどこの誰よりもやってきた気持ちがあったので、あとはメンタルだけだと考えていました」

 敗れた鳥羽戦(7月22日)は、4対5と逆転された5回裏から登板した。だが、火のついた鳥羽打線を止められず、この回、3安打1死球で2点を追加された。

 この日の最高球速は147キロ。

川島の投球フォームはバランスよく体重移動できる長所がある一方、この日は腕の振りが一定ではなかった。右腕を縦に叩ける球もあれば、特定の球種で横振りになる球もあった。1球ごとのムラが激しく、自らの首を絞める結果となった。

 7対7と同点に追いついて迎えた8回裏には、さらにボールが暴れた。二死一塁から連続四球と2個の暴投が絡み、計3失点。この日は3回1/3を投げて被安打5、奪三振3、与四死球3、失点4(自責点2)という投球成績だった。

【気持ちが先にいってしまった】

 川口監督は試合後、川島の投球についてこう総括している。

「川島のボールが速いのでそう簡単に打たれないと思っていましたが、鳥羽の打線も粘り強くて、合わせられてしまいました」

 川島は試合後、人目をはばからずに泣き崩れた。会話するのも困難なほど涙を流す姿に、今夏に懸ける覚悟が伝わってきた。川島は嗚咽交じりに、こう漏らしている。

「(背番号)1番をつけていたのに、こんな大事な場面でふがいないピッチングをして......。悔いが残ります」

 わかさスタジアム京都のマウンドに上がった際、川島がスパイクでしきりに足場を掘り起こすシーンが印象的だった。

「マウンドが合わなかったのか」と尋ねると、川島は少しの黙考を挟んでこう答えた。

「気持ち、気持ち......と前に出すぎて、フォームまで(考えが)いきませんでした。もっと冷静に、熱いところは熱くやれていれば、技術が自ずとついてきて、いつものピッチングができたのかなと思います」

 気持ちがはやるあまり、武器だったはずの技術が置き去りになってしまった。川島の言葉からは、そんな思いが滲んでいた。

 たしかに、投手としての未熟な部分や、完成度の低さは露呈してしまったかもしれない。だが、それは川島の伸びしろととらえることもできる。

 発展途上のフィジカル。大きな体を連動できる身体操作性。緩い変化球も速い変化球も操れる投球感覚。投手に専念してまだ日が浅いというキャリア......。

 現時点の姿だけで論じるのは無意味と思えるくらい、川島という投手には夢が詰まっている。今夏のパフォーマンスが、川島の評価を落とすとは考えられない。

 もし、川島がプロで勝負するとしたら、何が必要か。最後に川口監督にどうしても聞いてみたかった。川口監督は現役時代にオリックスでプレーした、元プロ野球選手。1997年ドラフト会議の目玉と目されたが、7年間のプロ生活では未勝利に終わっている。川口監督は前途ある教え子に対して、こんな思いを口にした。

「何かひとつ、『すがれるもの』が必要です。投げ方ひとつとってもそう。自分のなかで、『こうすれば大丈夫』という軸になるものがあれば、自信になります。川島の場合は、フォームのなかですがれるものが必要だと思います。春先はうまいことできていたのが、その後に少し見失ってしまった。まだまだ未完成だと感じます。彼はプロに行きたいと言っていますので、これからしっかりやっていかないといけないですね」

 未完の大器・川島謙心。

いつか「この夏があったから強くなれた」と振り返る日が来るに違いない。

菊地高弘●文 text by Takahiro Kikuchi

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