8月11日から行なわれた阪神対巨人の首位攻防3連戦は、阪神の3連勝に終わった。ヤクルト、西武を率いて3度の日本一に輝いた94歳の球界の大御所・広岡達朗は、「巨人なんか優勝するはずがない」と一刀両断する。

【プロ野球】「阪神は自前で育て、巨人はFAで集めてきた」 広...の画像はこちら >>

【若手を我慢して使う覚悟が必要】

「シーズンが始まる前、多くの評論家は巨人が優勝争いをするなんて予想していなかったはずだ。俺も同じだよ。巨人は交流戦でなんとか勝って貯金をつくったけど、阪神、ヤクルトには負け越し。大きく貯金をつくれているのはDeNAくらいのもの。これでは話にならん」

 開幕前の予想に反して優勝争いを演じているだけに、巨人への期待が高まるのもわからないではない。だが、現在の巨人がチームの世代交代を進める過渡期にあることは、誰の目にも明らかだ。

 スタメンに名を連ねる2年目の浦田俊輔や石塚裕惺らは、まだ経験を積んでいる段階だ。チームとして成熟期を迎えつつある阪神と、単純に比較するのは酷というものだ。

「巨人が入れ替えの時期にあるのはわかる。ベテランの坂本(勇人)や丸(佳浩)が衰えを見せ、菅野(智之)や岡本(和真)といった主力はメジャーに行き、吉川(尚輝)も故障している。浦田や石塚が出てきたといっても、まだ2年目。これからの選手だ。

 ただ、私が言いたいのは、適切な方針で若手を育てているのかということだ。

石塚なんかは間違いなく将来のクリーンアップ候補だろう。だから、ヒットが出たからそれでよしではなく、むしろ凡打した打席を見て、気になるところがあればコーチがきちんと指導しなければいけない」

 目先の1本に一喜一憂していたら、選手は大きく育たないと広岡は言う。

「阿部政権の頃から、『ヒットを打たなければ使ってもらえない』という空気が蔓延しているのか、石塚も無理やり小さくまとまった打者のように見えて仕方がない。スケールの大きな打者に育てるなら、目先の結果ばかりを求めず、長所を伸ばしながら我慢して使うことが必要だ。

 かつて松井(秀喜)や岡本は、不振でも我慢して使い続けたからこそ花開いた。それが今は、ちょっと打てなくなるとすぐに交代させられ、二軍に落とされる。これでは若手も伸び悩んでしまう。俺なんかは、『こいつだ』と思った若手を起用すると決めたら、最低でも10試合は使い続けた。そうしなければ、その選手の本当の能力や適性なんかわかりゃしないよ」

【チームが低迷する理由は育成と教育の欠如】

 育成と勝利を同時に求められるのが巨人の宿命であり、思いきって若手を起用し続けることが難しい事情もあるだろう。それを考慮しても、選手が持つ潜在能力を最大限に引き出せる環境をつくるのが首脳陣の役目だ。

「今の巨人と阪神の決定的な違いは、生え抜きで、バリバリの主力と言える選手が巨人にはひとりもいないことだ。それが今の結果にも表れている。チームの軸になる選手がいないんだから、一度崩れたら立て直しが利かなくなるのは、最初からわかりきっていたことだ。

まあ、その軸をつくるために、代理監督の橋上(秀樹)も試行錯誤しているんだろうけどな」

 来季以降、泉口友汰と浦田を不動のレギュラーへと鍛え上げ、石塚、平山功太、佐々木俊輔らを一人前の主力へと育てられるか。それが、新生ジャイアンツの未来を左右する大きなカギとなる。

「そもそも、チームが弱くなる根本的な原因は、育成と教育の欠如にほかならん。勝つためには準備が必要で、踏むべき順序がある。まずこれを身につけ、次にこれを身につける。その積み重ねがあって、初めて勝利につながる。それが本来の順序なんだ。監督を代えただけで、すぐに勝てると思うこと自体が間違っている。

 問題は、選手が失敗した時に、コーチが何も言わないことだ。その現状を本当にわかっているのか。失敗した時こそ、何が悪かったのかを見極め、的確に指導する。それが育成というものだ。

負けた時こそ、本当の原因が見えてくる。結果が悪ければ、『自分たちに何か欠けているものがあるんじゃないか』と考える。そういう姿勢を持てば、おのずとチームの状態も変わってくる」

 首脳陣は"仲良しクラブ"ではなく、厳しさを持って選手を鍛え上げる。そのうえで、確かな戦術と選手を見極める眼力があれば、多少の時間はかかっても、チーム力は着実に上がっていくはずだと広岡は説く。

「阪神だって、佐藤(輝明)がメジャーに行けば、今年のようにはいかんだろう。森下(翔太)もひとりで打線を背負うことになれば、今まで以上にプレッシャーがかかってくる。かつて掛布やバースがいなくなったあと、岡田が苦しんだのと同じようにな」

 広岡は、佐藤がメジャーへ移籍すれば、阪神の戦力は大きく低下すると見ている。それでも育成においては、今のやり方を続けるべきだという。

「阪神はドラフト戦略を含め、自前の選手をきちんと育ててきた。一方の巨人は、豊富な資金力を武器に即戦力を獲得し、FAでも他球団の主力を集めて戦力を補強し、優勝してきた。その歪みが、今になって表れているんだ。そんなことは前からわかっていたことだ。

では、なぜ叩き上げの高卒の選手がなかなか台頭してこないのか。はっきり言えば、育成システムと指導者に問題があるからだ」

【大型補強ではできない伝統の継承】

 広岡が問題視するのは、若手に技術を教える仕組みだけではない。巨人が長い歴史のなかで培ってきた「勝つための考え方」を、次の世代へ伝える環境が失われつつあることにも危機感を抱いている。

「巨人の伝統というのは、偉大な選手から次の世代へと受け継がれてきたものなんだ。一流と呼ばれる選手には、それぞれ自分なりの理論がある。だからこそ、長く結果を残し続けることができる。かつて松井も、落合(博満)から多くのことを学んだ。狙い球を絞り、その球が来るまで意図的にファウルで逃げる。そして、勝負球が来たら一発で仕留める。そうした4番打者としての考え方を学んだからこそ、あれだけの打者になれたんだ。

 世代交代を成功させるには、若手にとって手本となるベテランが必要なんだよ。技術だけじゃない。

どう考え、どう準備し、どう結果を残すのか。それを身近で学べる存在がいなければならない。はたして、今の巨人にそういうベテランがいるのか」

 ベテランと若手の融合こそが、常勝軍団を築く礎となる。だが今の巨人には、若手を導くベテランも、それを支える指導者の力も足りていない。広岡は苦虫を噛み潰したような表情で、そう指摘する。

「過渡期にあるからこそ、才能ある若手をどう育てるのか、その指導方針をしっかり確立しなければいけない。そうしない限り、巨人は"なんでもほしがる"長嶋政権以降のツケを、これからも払い続けることになるぞ」

 目先の勝敗ではなく、5年後、10年後の巨人を誰が支えるのか。阪神との3連戦で浮き彫りになった差を埋めるために必要なのは、大型補強ではない。若手を育て、次の世代へと「巨人の野球」をつないでいく。その覚悟を持てるかどうかが、常勝軍団復活への分岐点になる。

松永多佳倫●文 text by Takarin Matsunaga

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