8月25日、有明アリーナ。バレーボール男子日本代表はブラジルと戦い、セットカウント1-3 (23-25、25-20、19-25、26-28)で敗れた。

この試合は9月4日に開幕するアジア選手権に向けた"調整のため"のもので、結果そのものは問われない。多くの選手たちが合宿で心身を追い込んでおり、明らかな体の重さも見られたし、ベストコンディションには程遠かった。

 ブラジル戦は8月2日のバレーボールネーションズリーグ(VNL)3位決定戦以来の実戦で、試合勘を取り戻す場として用意されていた。セッターの河東祐大の代表デビュー、前日に実戦練習に加わったばかりのエース、石川祐希のケガからの復帰など、テスト要素が濃厚だった。ロス五輪出場を懸けたアジア選手権でライバルとなる中国やイランの「高いブロック」を想定した相手として、ブラジルは"贅沢すぎた"とも言える。

【男子バレー】髙橋藍が振り返るブラジル戦 アジア選手権制覇へ...の画像はこちら >>
 その点、第4セットは途中から出場した宮浦健人を筆頭に、富田将馬、大塚達宣などが堂々とデュースまで渡り合い、VNLでも示した戦力の底上げを感じさせた。ミドルブロッカー陣は誰が出ても特徴を出し、リベロも山本智大が世界一にふさわしいレシーブを見せたかと思えば、小川智大もそれに匹敵するディフェンスを成功させていた。チームの仕上がりは決して悪くない。

 ロラン・ティリ監督も、「今日は全員がプレーできたのが収穫ですね。海外遠征も考えていましたが、(アジア選手権の予定が早まったこともあり)いいチームを招待してもらえました。今回はディテールの差で負けましたが、励みになる展開だったと思います」と手応えを感じていたようだった。

〈アジア選手権優勝=ロス五輪出場〉

 それを合言葉にしたチームの状態が、アジア選手権制覇のシミュレーションから透けて見えた。

 ブラジル戦の髙橋藍(24歳)は本来の出来ではなかった。フィジカル的に追い込んでいるのだろう。1セット目は、勝負どころで、珍しく3本連続でアタックに失敗していた。

【温まってきたところでベンチへ】

「キルブロック(相手のスパイクを直接相手コートの真下に叩き落とすブロック)を食らうことも多かったので、高いブロックに対しての打ち方、コンビネーションのところで、決定率を上げたいとは思いますね」

 試合後、髙橋はそう明かしているが、彼のエースたる所以は、試合のなかで適応できることだろう。

 2セット目から、髙橋は堅牢な守備からリズムを立て直し、いい守りをいい攻めに転じさせている。神がかったディグ(スパイクレシーブ)から石川祐希の一撃を促し、安定したレセプション(サーブレシーブ)から西田有志の爆風を感じるようなスパイクを演出した。そして終盤には得意のフェイクセットで西田の得点をお膳立てし、大歓声を浴びている。

「1セット目は様子を見ながらスタートしてしまったと思います。うまくスタートをきれたかと言うと、そうではなく......」

 髙橋は少し悔しそうに言いながら、ポジティブに試合を受け止めていた。

「2、3セット目になって、コンディションというか、パフォーマンスを上げられたとは思います。チームを勝たせるために、そこでの立ち回りというか、守りからリズムを作っているところは自分もあるので。もちろん、スタートから上げたかったというのは反省点ですが、途中から立て直すというのも経験が必要だし、"悪いときがあってもリズムを取り戻す"というところでどう戦うのかも、大事になっていくと思います」

 実際、3セット目の髙橋は羽ばたくようなバックアタックを決め、サーブでエースも奪い取った。

スイッチが入ったところで、コートを退いた。全員がコートに立って、実戦を経験することがこの日の戦略だったからだ。

「やっと温まってきたところでしたが、親善試合ならでは、監督の起用法で決まっていたので」

 髙橋はそう言って笑顔を作った。彼自身が、調整試合であることを頭では理解しながら、体は勝つためにアジャストしていた点が、勝負強さの正体かもしれない。調整試合を、単に調整するだけではなく、実戦を積み上げるものとして捉えていた。

 たとえば4セット目、髙橋は20-21のリリーフサーバーとして再登場し、サーブで崩し同点にした後、会場をどよめかすエースを決め、22-21と逆転させた。その華々しさは彼の真骨頂だった。コートの外に下がっても、勝負への集中を切らしていなかった証左だ。

 そこで最後に訊いた。

――アジア選手権制覇の最大のライバルになりそうな"仮想イラン"の戦いはできましたか?

 髙橋は快活な声で答えている。

「イラン、それに中国も(優勝争いの)相手になってくると思いますが......たとえば予選で当たるオースラリアもここ数年は当たってなくて、未知な相手です。間違いなく高さやパワーはあると思いますから、高さのところではブラジルといい親善試合ができましたね。

まあ、ブラジルはやはり"一個抜けたうまさ"を持っていましたけど、イメージ、いい感覚は残せたんじゃないかと」

 アジア選手権の予選ラウンドの相手は、オマーン、バーレーン、オーストラリアと実力差のある"格下"だが、それだけに簡単ではない。ちょっとした集中の不足だけでリズムを失うこともある。まずは、どうやって決勝ラウンドに辿り着くかが焦点になるはずだ。

「アジア選手権は過去2回戦っているんですが、独特な空気感で......。あまり試合をやらない相手もいますしね。そういうときに、"自分たちの形を崩さない"という強さが大事だと思っています」

 そう語る髙橋の勝負の適応力と集中力は、ロス五輪出場権獲得のカギを握ることになるはずだ。

小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya

編集部おすすめ