繊維事業の「北紡」、買収でハイヤー・タクシー事業に参入 追加M&Aへ余力

紡績事業を祖業とし、ヘルスケアやリサイクルなどへ事業領域を広げる北紡<3409>は、ハイヤー・タクシー運営のⅤリムジン(東京都中央区)を子会社化し、一般乗用旅客自動車運送事業(ハイヤー・タクシー事業)に参入した。

同社は数年前から新規事業の開拓に取り組んできたが、業績への寄与が限定的であることから、より明確な収益モデルを有し、中長期的に中核となり得る事業の確立が必要と判断し、買収に踏み切った。

Ⅴリムジンの2025年3月期は売上高6億4500万円、営業利益8300万円で、売上高約15億円、8期連続の営業赤字となっている北紡にとって、今回の買収は業績改善の契機となりそうだ。

Ⅴリムジンの顧客基盤を北陸で活用

Ⅴリムジンは、関東地域を中心にハイヤー・タクシー事業を展開し、空港送迎、法人向け送迎、観光送迎などの予約制サービスを手がける。

需要予測に基づく車両配置や配車管理、接遇・安全教育を重視したドライバー育成に強みを持ち、法人顧客やインバウンド(訪日観光客)需要に対応している。

タクシー事業は完全子会社のNEO TOKYOが担い、Ⅴリムジン本体はハイヤー事業に注力する体制を採る。

買収後は、Ⅴリムジンが持つハイヤー事業の運営実績やノウハウを活用し、北陸地域で地域特性を踏まえたサービス提供体制を構築する。

車両や運行体制を段階的に整え、同事業を新たな収益基盤に育てる方針だ。

2026年1月時点では、旅行代理店や法人などのⅤリムジンの既存顧客から北陸地域での送迎案件や観光送迎案件の紹介を受けることを見込んでおり、白山工場(石川県白山市)の駐車スペースを活用するほか、人員確保に向け、紡績事業部の従業員を対象とした社内公募による転籍も検討するとしていた。

既存の顧客網を通じて案件を獲得することで、流し営業を主体とする一般的なタクシー事業者との直接競争を避けられる点を、北陸地域でハイヤー事業を展開する上での優位性に挙げている。

多角化を重ね中核事業を模索

北紡は、異業種の事業基盤を取り込み、収益源を多様化する手段としてM&Aを使ってきた。

2020年にはヘルスケア製品販売の中部薬品工業を子会社化した。

2021年には、東樺化成からプラスチックペレット製造販売事業を取得したほか、プラスチック製造・廃棄物リサイクルの金井産業を子会社化し、ヘルスケアと環境・リサイクル分野へ事業領域を広げた。

その後、北紡は2024年6月に公表した中期経営計画で、「コアとなる新規事業のさらなる推進」を重点施策に掲げた。

既存の紡績事業に依存しない収益基盤の構築に向け、防犯・防災、未利用バイオマス、系統用蓄電池、暗号資産・RWA(現実資産)関連の各事業をM&Aによらず立ち上げた。

2024年7月に北陸地域で販売を始めた防犯・防災セキュリティ管理システムでは、関東地域で事業を展開していたメーカーから営業ノウハウや販売支援の提供を受け、2025年9月までに売上高約1億300万円、営業利益約1900万円を計上した。

一方、ほかの3事業は2026年1月時点で、事業の立ち上げや資産形成の段階にあった。

2025年5月に販売を始めた未利用バイオマスの再資源化装置は、事業開始から間もなく、業績への具体的な寄与には至っていなかった。

同月に始めた暗号資産・RWA関連事業では、中長期的な資産形成を目的に、ビットコインを中心とする暗号資産の保有・運用を行っていたが、資産を積み上げる段階にあり、業績への寄与は限定的としていた。

2025年12月に参入を公表した系統用蓄電池事業も、制度動向や市場環境を踏まえて事業の枠組みを検討し、関係先と協議する段階にあり、業績への寄与はなかった。

北紡は、こうした新規事業を段階的に立ち上げたものの、中長期的な成長には、収益の仕組みが明確で、グループの中核となり得る事業の確立が必要だと判断した。

その具体策として、2026年3月にⅤリムジンを子会社化し、ハイヤー・タクシー事業へ参入した。

繊維事業の「北紡」、買収でハイヤー・タクシー事業に参入 追加M&Aへ余力
北紡の主なM&A

現金による支払いを4950万円に抑制

北紡は、Ⅴリムジンの子会社化に際し、将来の追加M&Aなどへの対応余力を確保するため、手元資金の過度な減少を避ける方針を示した。

取得対価は株式交付を主体とし、現金による支払いは4950万円にとどめた。

同社は2024年11月の第三者割当増資などによる調達資金のうち、20億2000万円をM&A資金に位置付けている。

今回の買収では、この資金の一部を現金対価に充てる一方、取得対価の大部分に自社株を使い、財務の健全性と今後の成長投資への対応余力を両立させた。

この資金配分からは、Ⅴリムジンの子会社化を単発の投資で終わらせず、タクシー業界でのさらなるM&Aも視野に入れていることがうかがえる。

今後は、Ⅴリムジンを中核とする事業の成長と並行し、残るM&A資金をどの分野に振り向けるかが焦点となりそうだ。

9期ぶりの営業黒字を予想

同社は2026年3月期決算短信で、Ⅴリムジンの子会社化に伴い、新たに「モビリティ事業」をセグメントとして追加し、既存事業とのシナジー創出や収益基盤の拡大に取り組むとしている。

2026年3月期の売上高は15億600万円(前年度比7.6%減)で、このうち主に中東向け民族衣装用生地を販売するテキスタイル事業が約6億8700万円と最も大きく、祖業の紡績事業(アラミド、ポリテロン、その他紡績)は約3億2300万円だった。

このほか、ヘルスケア事業(セキュリティ機器、衛生関連製品など)が約3億2100万円、リサイクル事業(プラスチックリサイクル製品など)が約2億5200万円となった。

2027年3月期は、新設したモビリティ事業にⅤリムジンの業績を通期で取り込み、売上高28億6200万円(同90.0%増)、営業利益4600万円を見込む。

営業損益は9期ぶりに黒字へ転換する見通しだ。

Ⅴリムジンの買収は、異業種への参入を重ねてきた北紡が、収益実績を持つ事業を中核に据え、業績回復と次の成長投資につなげる転換点となる。

繊維事業の「北紡」、買収でハイヤー・タクシー事業に参入 追加M&Aへ余力
北紡の業績推移

関連記事はこちら
タクシー大手の「大和自動車交通」買収と資本・業務提携で事業基盤を強化 国際自動車が筆頭株主に
「タクシー業界」事業承継型M&Aが広がる余地 休廃業・解散が過去最多

文:M&A Online記者 松本亮一

繊維事業の「北紡」、買収でハイヤー・タクシー事業に参入 追加M&Aへ余力
M&Aが生み出すビジネス革新
編集部おすすめ