名家・名門はつねに社会の重責を担いながら、現代まで、家の権威と名誉を継承してきた。華麗なる一族が歴史に残した大きな足跡を家の象徴である家紋とともに振り返る。


監修:武光誠
1950年生まれ。東京大学人文系大学院博士課程修了。文学博士。明治学院大学教授。専攻は日本古代史。著書に『日本人なら知っておきたい名家・名門』(河出書房新社)『日本人が知らない家紋の秘密』(大和書房)他多数がある。

「第二次世界大戦に敗れて、華族制度は廃され、華族に与えられていた特権も否定されました。でも、旧華族の中には閨閥や人脈を利用していまだに政財界に影響力を保っている家もあります。また、3代以上にわたって大臣や国会議員を出した“政治家一門”もいます。新しく生まれた大企業の創業者にも、名家といってもおかしくない家があります」
 と武光誠先生はいう。

 昭和に入ってから、時代の波に乗って大きく発展した会社の中から、名家と呼ぶに相応しい創業家も生まれた。パナソニックの松下幸之助家や、東急コンツェルンを立ち上げた五島慶太家、トヨタ自動車の豊田佐吉家などは、さまざまな社会貢献、育英事業などを行っており、現代の名家に挙げられるだろう。

 一方、代々著名な政治家を輩出してきた家系も、「名家」といえそうだ。“政界のサラブレッド”鳩山由紀夫氏の鳩山家や60年安保の時の首相・岸信介首相を祖父にもつ現首相・安倍晋三氏の安倍家、吉田茂首相の娘に繋がる、現在の副総理・麻生太郎元首相など、政財界に強い絆をもつ“毛並み”のよい人々がいる。

 ただし、彼らが本当に「名家」の名に値しているか否かは、今後の歴史が決めるに違いない。

<政界>

●吉田家「桜」
 古来、人々に愛されてきた桜の花だけを図像化したもので、花弁に切れ込みがない。ちなみに、切れ込みのあるものは山桜紋という。

戦後の混乱期に実力で名を成した政財界の名家の画像はこちら >>
吉田家「桜」

●鳩山家「尻合わせ三つ結び雁金」
 秋の代表的な渡り鳥で、中国では幸せを運ぶとされ、平安貴族に好まれた雁を意匠にした家紋。

翼を結んだ雁が3羽描かれている。

戦後の混乱期に実力で名を成した政財界の名家
尻合わせ三つ結び雁金

●麻生家「違い釘抜き」
「和漢三才図絵」にある釘抜きは「万力」と呼ばれた大工道具で、四角い座金と梃子(てこ)からなる。その座金を組み合わせた家紋。

戦後の混乱期に実力で名を成した政財界の名家
麻生家「違い釘抜き」

●安倍家「太輪に梶の葉」
 クワ科の「梶」の葉を丸で囲ったもので諏訪大社の神紋。南北朝時代に諏訪神社信仰が広まるとともに、西国にも梶の葉紋が広まった。

戦後の混乱期に実力で名を成した政財界の名家
安倍家「太輪に梶の葉」

<財界>
●松下家「丸に蔦紋」
 ブドウ科の蔦を図案化した家紋。

蔓が絡まって繁茂する様子が、子孫繁栄を思わせて縁起が良いと好まれた。葉の縁は切れ込まない。

戦後の混乱期に実力で名を成した政財界の名家
松下家「丸に蔦紋」

●五島家「五七の桐紋」
 桐は鳳凰が留まる聖なる木として伝えられ、天皇の象徴とされた。花と蕾の数で多数に分かれ、五島家の家紋は花が7つと5つある。

戦後の混乱期に実力で名を成した政財界の名家
五島家「五七の桐紋」

●豊田家「丸に木瓜」
 斜方形の菱型を3つ重ねた三重菱のうち、接線をカットしたものを三階菱という。上に重なるものほど小さくなっている。

戦後の混乱期に実力で名を成した政財界の名家
豊田家「丸に木瓜」

『一個人 別册 日本人の名字の大疑問』(2017年9月27日発売)より構成〉