今季唯一の東北開催となった先週の「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」は、山形県出身で宮城県の東北高校OGでもある大江香織が、2位に2打差をつけるトータル10アンダーで優勝した。2季ぶりとなるツアー3勝目を挙げた要因を、上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏に聞いた。

【写真】大江香織がドレスに着替えたらこうなる
■小柄ながらレギュラーツアーで戦い続けられる理由
3日間とも60台で回る安定したプレーで久々に優勝カップを掲げた大江。そのプレースタイルを辻村氏は「ターゲットゴルファー」と評した。
「大江選手はショットの際に出球のラインのぶれが少ない選手で、曲がるタイプではありません。身長153cmと小柄で、距離もそんなに出るほうではないですが、トップレベルで戦えている理由は、このラインの出し方のうまさにあります」
大江の今季のドライビングディスタンスは230.39ヤードで76位。だがフェアウェイキープ率は71.4286%の8位と、飛ばないながら正確無比なティショットもゴルフを組み立てるうえで大きな要素の一つになっている。そして辻村氏は、そのラインの出し方を可能にするスイングを持つ大江を「ツアーでも屈指の“浮かない選手”」と表現した。

「飛距離を出そうとすると、どうしてもダウンスイングからインパクトまでに体が伸びあがって、浮いてしまうという選手は多い。しかし、大江選手は前傾姿勢がインパクトまで崩れません。しっかりと振り切ってラインを出すことができる選手。昔から『全然浮かない選手だな』と思っていました」
辻村氏は、大江のスイングをこう分析する。
■“浮かない選手”のスイングのヒミツは?
この大江のスイングは、こんな効果をもたらす。「クラブを振り下ろしてから、振り抜くまでの間に腕が伸びきることがありません。
前傾姿勢が崩れないため、腕に余裕も出てきています。これは打ち終わったあとのフォロースルーの長さを生み出します」。
これについて辻村氏は、ボクシングでのパンチを例に挙げる。ストレートを放つ際、腕が伸びきってから当たるパンチよりも、腕が伸び切る前に当たるパンチのほうが威力をもつ。それはヒットしたあと、さらに力を押し込むことができ、より効果的に拳に力を伝えることができるからだ。
ゴルフでも、インパクトの前ではなく、その後に腕が大きく伸びる(フォロースルーが長くなる)ことで、インパクト後にさらにボールに力をかけることができる。
そして、それはフェースに乗っている球の時間を長くする効果をもたらすと辻村氏は話す。
「ボールがフェースに乗っている時間が長いということは、ボールを運びやすくなる要因の一つになります。これがコントロールヒッター、ターゲットヒッターとして活躍できる理由となります」
小さい体ながら、7年間シードを守り続けた大江のスイングには、このようなヒミツがあった。
■自分のセールスポイントを理解
また、自らの体格を補う工夫を行っている大江の姿も辻村氏は見てきたという。
「大江選手はアイアンにカーボンシャフトを早くから取り入れていた選手です。決して飛ぶほうではないですが、球の高さを求めるために、ウッドとユーティリティーをうまく活用しています」
大江の優勝時のセッティングを見るとウッドは1、3、5、7番の4本。
そして3、4、5番のユーティリティーを使用し、アイアンは7番からピッチングウェッジまでの4本という構成だ。
ウッドで飛距離を補い、アイアンは番手が一つ上がるようカーボンシャフトを使用する大江。これについて辻村氏は「自分のセールスポイントを分かっているのでしょう。ロングアイアンではなくユーティリティーで球の高さを作っている。そして、ここでも体が浮かないため、腕のしなりを有効に使うことができる。シャープなスイングで球の高さを求めていることも、自分の体格を理解して戦っているなという印象を受けます」と話した。

持ち味のショットのキレに加え、今季「30.0256回」の1R平均パット数が、今大会は「28.33回」を記録。もともと「パットが入れば、もう何回か優勝している選手」と辻村氏が感じていた通り、グリーン上の改善も要因となり、ゆかり深い土地でのタイトル獲得に繋がった。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、比嘉真美子、藤崎莉歩、小祝さくらなどを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。
プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

■大江香織 2018シーズン成績一覧
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