25歳のスコッティ・シェフラー(米国)の優勝で幕を閉じた今年のマスターズ。シェフラーは2月の「WMフェニックス・オープン」でツアー初優勝を挙げた後、出場した直近6試合で4勝という快進撃を続けている。
3月下旬の「WGC-デル・テクノロジーズ・マッチプレー」で優勝してから世界ランキング1位に立ち、ドロー有利と言われるオーガスタでフェードを武器に戦ったシェフラーのスイングを、堀琴音らを指導する森守洋氏に解説してもらおう。
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シェフラーは右足を引きながら、ボールを打つ【連続写真】
シェフラーのスイングは変則的に見えますけど、『ザ・基本』ともいえる伝統的な動きをしています。ジャック・ニクラスやトム・ワトソンのような雰囲気もある。グリップはスクエア。風が強いテキサスで育ったからなのでしょうか、アップライトに(手元を高く)クラブを上げていきます。この辺はシェフラーと同じテキサス大の先輩、ジョーダン・スピースに似ていますよね。
もっとも、最近スピースはトップを低く改造していますが。
絶対左に曲げたくないのか、スイングプレーンに対してフェースはオープンに使っていきます。そこが変則的と言われる要素の1つかもしれません。その証拠に、シェフラーのトップはフェースが正面を向く。フェースをシャットに(閉じて)使うダスティン・ジョンソンなんかはトップでフェースが上を向きます。
切り返しではタイガー・ウッズのように左へのバンプ(腰を左にスライドする動き)が入って、頭を残してインパクトするので、ドローヒッターっぽい動きをしているんですけども、フォロースルーはスピースと似ていて、一気に腕を返さないように抜いていく。
それでフェードボールを打っている。おそらくインパクトエリアでフェースを閉じるのが嫌で、そうなっていったんだろうなという成長過程も見て取れます。ジュニアの頃はドローを打っていたと思います。
ダウンスイングまでは基本に忠実だし、伝統的な動きなんですけど、抜き方はテキサス出身のベン・ホーガンやスピースの要素が入る。
グレッグ・ノーマンみたいに右足を後ろに引きながらボールを打っていきますが、これは意図的ではなく、ホッケー選手のようにバランスを取るために勝手になるのだと思います。インパクト重視でスイングを作ってきた天才肌といった感じ。
例えば、練習器具の『インパクトバッグ』や斧でものを叩こうとしたら、右足を引く動きになります。
最終日はドローが必要となる13、15、16番で勝負が決まると思って観ていました。シェフラーはフェードヒッターなので無理矢理ドローを打っていたように見えましたけど、スコアを落とさずに切り抜けられた。彼やタイガーのようにフィニッシュで「ボールを曲げてやる」という思いでボールを操る選手は少なくなりました。いまはもっとオートマチックにボールを曲げていくのが主流です。
シェフラーは弾道をデザインする能力が長けていて、そのためにスイングがあるとわかっているんでしょうね。
スイングがメインではないのです。良いスイングを作ったらゴルフが上手くなるのではなく、意図したボールを打つための手段としてスイングがある。良いスイングを作るような教育をあまり受けてないから強いんでしょうね。思い通りに球を操っているので、息が長い選手になるだろうなと思います。
テキサス大学の名コーチ、ハービー・ペニックが残した『Take dead aim』という名言があります。彼は「死ぬ気で目標を定めよ。
ターゲットを決めたらそこにボールを運ぶことだけ考えなさい。他のことは考えてはいけない」と教えたのです。シェフラーのスイングには、この伝統の教えが染みこんでいる感じがしました。
■解説/森守洋
もり・もりひろ 1977年2月27日静岡県生まれ。ゴルフを始めたのは高校から。95年に渡米しミニツアーを転戦しながらゴルフを学んだ。
帰国後は『ダウンブローの神様』と呼ばれた陳清波に師事。02年からレッスン活動を開始し、現在は原江里菜、堀琴音、香妻陣一朗のコーチを務めている。東京都三鷹市にある『東京ゴルフスタジオ』を主宰し、アマチュアへのレッスンも行う。

■マスターズ 最終結果
■スコッティ・シェフラーのプロフィール&成績
■松山英樹から受け取ったグリーンジャケット S・シェフラーが“最強”を証明するメジャー初制覇
■全盛期の帝王、ジャック・ニクラスのスイングを解説【レジェンドのスイング回顧録】
■新帝王、トム・ワトソンのスイングを解説【レジェンドのスイング回顧録】