Part1Part2も「ドラクエ」の話で大盛り上がり。
ええい! テキストと言ったら我が魂のゲーム「MOTHER」シリーズだろうが! と、みなさんには「MOTHER」の話をしてもらうことに。
僕、満足!
(麻野一哉、とみさわ昭仁、米光一成のプロフィールはこちら


「MOTHER」は名ゼリフてんこ盛り

麻野 ゲームのなかの好きなセリフってなんですか?
米光 僕は「所さんのせめるもまもるも」でね……。
とみさわ 「まもるもせめるも」!
米光 え? ああ、そうだっけ。なんだその速い突っ込み(笑)。「まもるもせめるも」でバットエンドになったときに、「ラブイズオーバー」の変形メロディが流れて、「ゲームイズオーバー」って書いてあるの。「ゲームイズオーバ~♪」って必ずプレイしながら歌っていた(笑)。
麻野 それが好きなん?
米光 うん。あと「げんしのことば」という、アイコンを選んで異言語を作るゲームなんだけど、言葉がわかんないときに「げむげむげむっちょ」って言うのよ。クリアするまでに「げむげむげむっちょ」を数百回は聞かされるだけど、そのセリフも大好き。
麻野 それ音声で流れるの?
米光 そう。
麻野 米光さん、あのね。もうなんかコメントできない(笑)。
とみさわ しょうもないけど目や耳に残るのはありますね。
「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」で、部屋の中にいる水晶玉を前にした占い師が「くろまによーん、くろまによーん、」って言っているのがすごい好き。「ああいいなぁ」って思っちゃった。物語には全然関係ないんだけど。
麻野 ふたりとも変わらん(笑)。
とみさわ あともうひとつ絶対に忘れられないのが「MOTHER3」でオカマキャラが出てくるじゃないですか。
米光 マジプシーね。
とみさわ 主人公がある事情で犬になっているときに、オカマキャラと出会うんですよ。しばらく物語が進んで、何年か経ったあとにオカマキャラに会うと「お手!」って言うんです。こっちは何もリアクションできないでしょ? そうしたら「あら、ゲイは覚えていないのね」って。
米光 ははは。
麻野 それはね、すごい面白いわ。
とみさわ そのダブルミーニングが上手くて忘れられない。
「MOTHER」は名ゼリフてんこ盛りなんですよね。


チェック、問題なし

麻野 「MOTHER」はテキストも上手いけど、グラフィックもすごい。リメイクしたときに、絵を変えないでしょ。普通はハードが発達したら、それに合わせて書きなおすんだけど、ドット絵のまま押し通すでしょう。それで完成された表現なんだよね。
とみさわ ゲームの絵は、綺麗なほど良い、と言われ始めていた時代に、糸井さんは「そうじゃないでしょ」と。ポップアートみたいなものをちゃんと分かっている人だから、あえてああいう絵にしたんだろうな。ほんとうならもう少し綺麗に描けたはずだけど、フィールドとかガタガタでしょう。
米光 「MOTHER」をプレイしたとき、「ちょっとマップ広すぎるよ!」って思ったんですよ。僕は飽きやすいから、フィールド移動に時間がかかるなあとか思ったらすぐにやめちゃうタイプなんです。このゲームもすぐやめちゃうかなあと思っていたら最後までプレイできた。メッセージとか、言葉使いという意味だけじゃなくて、ここでこれ言わすかー、とか。
お父さんに電話してセーブするかー、とか。そういうことも全部含めて好きなの。その面白さはすごいクオリティだったよね。
とみさわ 感心した点がいくつかあって、「ドラクエ」だったらアイテムを手に入れるときは、部屋の中のタンスを調べるでしょ? タンスを開けて、アイテムが入ってれば「なんと! やくそうをてにいれた」とか、何も入ってなければ「しかし何も見つからなかった」って出る。でも、糸井さんはプレイヤーが能動的に行動を行ったことに対して否定形で返したくない。だから「チェック」と「もんだいなし」って出すようにしているんですよ。そうすると、それは肯定に変わるんです。プレイヤーは部屋の中をパトロールして「ここはよし! 問題なし!」って。ほんとはお金やアイテムをごそごそ探しているんだけど、問題なし!(笑)。そういう積み重ねがあのゲームの中にはあって、感心したし勉強になるな、と。
米光 「MOTHER2」で何回も話しかけるとその都度セリフが変わるから、ずっと話しかけたりしない? あれ、作る側としても、話しかけるたびにセリフを変えたい誘惑ってすごくあるんだよね、面白いから。
とみさわ それ危険なんですよね。
何度も話しかけるとセリフが変わるやつがいるってプレイヤーが思っちゃうと、何度も何度も話しかけるようになっちゃうから、かなり気を遣う。
麻野 面白いからどんどんセリフパターン増やしたいけど、ユーザーも変わってきているんだよね。昔は村人に話かけるのが楽しかったけど、今は「まだこんなにいるのか」ってうんざりする(笑)。
米光 ああー……。
麻野 村人だけでなく、街に着いて、そこが広いとやめたくなる(笑)。お腹いっぱいなんだよなあ。
米光 僕が作った「トレジャーハンターG」は割とパターンが多い。遊ぶときにあっという間にデメリットになることが多々あってさ。
麻野 どんな?
米光 展開した後、前の村の人も別のセリフにしたいけど、そうすると気になるプレイヤーはいちいち前の村にもどったりして、テンポよく展開できなくなったりする。細かい面白いネタが得意でもそればっかりやっていると本筋見失っちゃう。プログラム的にも分岐が肥大化しちゃうしね。
とみさわ シナリオライターだけの問題じゃなくなってきますからね。
プログラマーとかにも及んでくる。


人に任せるとキャラクターのイメージが変わる

米光 いまって、ひとつのゲームにシナリオライターはどのくらいいるんだろう。
とみさわ 僕が「ポケモン」に参加していたときは、作品のテーマをディレクターが考えて、それを元にシナリオライターがプロットを立てていく、という感じでした。それで僕がメインのシナリオ(それに関わる人物のセリフ)を書いていって、それ以外のサブイベントは他の企画スタッフとで手分けして書いていく。
米光 メインとサブを別の人が作っているということは、セリフのノリが違ったりしてきません? 最終的にどういう風に統合させるんだろう。
とみさわ ノリの違う部分はメインシナリオライターが言葉使いを直しています。でも「ポケモン」の制作チームはかなり意思統一がされているんで、そんなにおかしいものは出来ない。
米光 やっているうちにだんだんわかってくるんだ。「ドラクエ」ってどうなの?
麻野 アシスタント的に書いている人も含めると10人くらいはいるんじゃないかな。
米光 へえ、「ファイナルファンタジー」だと、どのくらいいるんだろうなあ。
とみさわ 僕が昔聞いた話だと、最初にグラフィッカーたちが思い思いのカッコイイ絵を描いて、それを見て坂口(博信)さんがシナリオ組むと聞いたことがあるな。どこまで本当かわかんないけど、信憑性はあるよね。

米光 絵から入るんだ。
とみさわ ファンタジーだった世界に唐突に機関車出てきたり、おかしいだろ! 描きたかっただけじゃないの? とかね(笑)。
米光 シナリオって、ぜんぶ自分でやりたいたちだったからなー。
麻野 でもひとりじゃ無理なんで、アシスタント的に書いてもらうこととかない?
米光 もちろんアイデア出してもらったりはするんだけど、テキストはひとりで書いている。そうすると巨大なゲームは段々無理になっていくんだよね。
麻野 人に任せるとキャラクターのイメージが変わっちゃうからってのもある?
米光 うん。でも「バロック」で一回死ぬ思いをして。
とみさわ 「バロック」ひとりなんだ。
米光 テキストが多いゲームなので、もうこれ以上の規模はひとりじゃ無理だなーって思った。
麻野「バロック」ってテキストの出現条件が異常に多いじゃん、あれはつらかったでしょ。
米光 死ぬほど苦労した。ふせんにセリフを書いて、巨大なボードに時系列とキャラクターや状況を全部貼って、貼り替えながら「このセリフはここで言う」って。掃除する人がボードを倒してバサァー! って外れて、1回死にました(笑)。セリフが机とか椅子とか別のところにくっついちゃって。
とみさわ うわ、恐ろしい……。


俺の仕事と全然違う

米光 麻野さんも「街」のときは大変だったでしょう
麻野 あのころ「Access」っていうデータベースソフトがあったんだけど、「誰々は何時にどこにいた」みたいなデータを全部入れたらもう重くて動かないんですよ。だからシナリオはシナリオスタッフ全員に覚えさせました。「8時30分に牛尾はどこに居た?」「はい、道玄坂にいます」「じゃあそこに一番近いのは?」「はい、誰々です」ってやりながら。人力で合わせました。
とみさわ プレイしていて同業者としてゾーっとしたもん。どうやってシナリオ作ったんだろうって。
麻野 実は「弟切草」も人力なのよ。「トイレ行ってくる」って言って出て行ったキャラが、また「トイレ行ってくる」って出て行く。お前、何人いるの? みたいな。矛盾が出まくる。マルチストーリーはとにかく矛盾をつぶすのが、えらい苦労する。
とみさわ バグ取りも大変じゃない?
麻野 いくらでもバグが出てくるんですよ。このストーリーだと会ってないのに会ったことになっていて、いつのまにか一緒に喋っているとか。
米光 フラグをひとつ直すと、また違うミスが出るんだよね。
麻野 ドリフのコントみたいで、引き出しを押したら別のが飛び出してくる、そんで最後はビヨー! て全部出てくるみたいな(笑)。
米光 ほんと、爆発でもしたい気分になっちゃう。
麻野 そんなのがテキストだけじゃなく、絵とか音楽にもある。始めに鳴っていたジャジャーン! って音楽が止まらずに、ずーっとジャジャーン! ジャジャーン! ……もう切れよ! って(笑)。たまたま音楽が鳴り止むルートを通ってなかったんだよね。とみさわ 大変そうだなぁ……。
麻野 気が狂いそうでしたね。
米光 一口にゲームシナリオと言っても、いろんなやり方は、やる範囲があって、同じ職種としてくくれない感じがあるよね。
とみさわ ゲームシナリオライター同士話しても、「俺の仕事と全然違う」って(笑)。
米光 だからこそ面白いんだって話だけどね。

次回はとうとう、座談会最終回。
ゲームシナリオライターに向いている人や今後のゲームシナリオについて、真面目に語ってもらいます!(加藤レイズナ)
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