「モンケン」というプロジェクトがある。

知人のゲーム作家、飯田和敏さんが関わっているインディーズゲームで、現在はクラウドファンドサイト「CAMPFIRE」で開発資金を募集中だ。
目標額は60日間で200万円。スタートから3週間でおよそ110万円を集めた。

何と言っても「巨人のドシン」を作った飯田さんの新作だ。もちろん成功してほしいと思うし、その志にも大いに賛同している。だけど実を言うと、僕はまだ「モンケン」に1円も出資していない。インディーズゲームを応援する1人として、どうしても言っておきたいことがあったからだ。



モンケンの意義はざっくり言うと2つある。1つは、飯田さんのように名の売れたクリエイターが、商業ゲームではなくインディーズゲームという場を選択したこと。2つめは、資金集めにクラウドファンディングという手法を取り入れたことだ。もはや自由なゲームを受容できなくなってきている商業ゲームへの決別と、遊びたい人がお金を払って、そのお金で作りたい人が作りたいゲームを作るーーという新しいゲーム制作手法の提案。成功すれば、日本のゲーム史に残る大きな一歩になるだろう。

でも、それならなぜ出資を迷う必要があるのか? 答えはシンプルで、「このゲームがどう面白いのかいまいち分からない」からだ。


モンケンがどんなゲームかは、CAMPFIREのページを見れば詳しく載っているのでそちらを見てほしい。でも、サイトのすみずみまで見ても、僕には肝心のモンケンがどんなゲームで、どんな風に面白いのかはよく分からなかった。

クレーンの先に取り付けられた鉄球で、ビルを破壊するゲームだということは分かる。でも、それだけではただの「Angry Birds」の二番煎じだ。「Angry Birds」が大ヒットし、今やド定番ジャンルとなったこの分野で、モンケンにしかない新しさ、面白さとはなんだろう? 飯田さんたちの志には賛同するし、ぜひ成功してほしい。だけど肝心のモンケンについては「遊んでみたい」という感情があまり沸いてこない。



日本ではまだあまり根付いていないクラウドファンディングだが、海外ではインディーズゲームのクラウドファンディングはかなり盛んで、僕も現在進行形で応援しているプロジェクトがいくつかある。

でも、最終的にお金を出すかどうかの判断は、常に「自分がそのゲームを遊びたいと思うかどうか」にゆだねることにしている。商業主義のルールに縛られることなく、ユーザーが本当に遊びたいもの、開発者が本当に作りたいものを実現するのがインディーズであり、それを支えるのがクラウドファンディングだ。だからこそ「自分が遊びたいもの、面白いと思うものにお金を払う」という部分は、絶対に曲げてはいけない。そこを曲げるということは、インディーズという土壌から、新しいもの、面白いものが生まれる可能性を摘み取ってしまうことになると思うからだ。

モンケンのもう一人の立役者、黒川文雄さんによると、もともと本作は商業ゲーム用の企画として大手メーカーに持ち込んだものだそうだ。
しかしメーカーの対応は冷たく、面白さ以前に「儲かるかどうか」を問われ、結局こうした形でリリースすることを決めたという。それならなぜ、もっとその「面白さ」についてここでアピールしないのか? モンケンの意義や志について知ってもらうことはたしかに大事だが、「面白そうだから遊んでみたい!」と思ってもらうことの方がもっとずっと大切だ。

仮にもし「まだ開発途上のゲームだから、面白くなるかどうかは分からない」と言うのであれば、そこがちゃんと形になってから発表したって遅くはなかった。面白さの分からないゲームにお金を出せないのは、商業ゲームでもインディーズゲームでも同じことだ。


残りの支援期間は36日。スタート直後に比べれば出資額の伸びは鈍ってきており、ここからがたぶん本当の正念場になってくるだろう。


この先、東浩紀さんの「ゲンロンカフェ」で講演したり、トークイベント「ポリポリ★クラブ」にゲスト出演したりといった予定もあるようだ。クラウドファンディングは期限ギリギリで支援者が増えるケースも多く、今の勢いで行けばけっこうスルッと200万円集まってしまうんじゃないかとも思う。

でも、それで本当にインディーズやクラウドファンディングの振興につながるのだろうか。それより今すべきことはやはり、少しでも多くの動画と画像を公開し、ゲームの詳細についてもっとユーザーに知ってもらうことではないか。

将来的にはクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに基づき、ゲームはフリー素材として公開する予定だそうだ。実はこれもモンケンの新しい試みの一つなのだが、それならいっそ、開発中バージョンを今すぐ公開してしまってもいいと思う。
もしかすると、本家より先に誰かが「完成版」を作ってくれちゃうかもしれない。本家モンケン対ニセモンケン、面白かった方がホンモノということでひとつどうでしょう。


何度も言うけれど、僕はモンケンを大いに応援しているし、ぜひ成功してほしいと思っている。だからこそ、気持ちよくポーンと出資させてほしい。

これからも日々の活動報告楽しみにしています。以上、僕から飯田さんへのラブレター。
(池谷勇人)