いよいよ明日、4月14日(土)から、相葉雅紀主演の推理ドラマ「三毛猫ホームズの推理」が放映される。原作は西村京太郎や森村誠一らと並ぶ日本ミステリー界の巨匠・赤川次郎だ。
赤川原作の連続ドラマは2008年の「4姉妹探偵団」以来4年ぶり。〈三毛猫ホームズ〉シリーズがドラマ化されるのは、1998年以来だから14年ぶりということになる。過去のドラマ版〈三毛猫ホームズ〉シリーズについては後で書きますね。

原作を読んだことがない方のために、簡単に解説をしておこう。ドラマを観るときの参考にしてください。
シリーズ第1作の『三毛猫ホームズの推理』で片山義太郎刑事がデビューした際、警視庁における彼のあだ名が「お嬢さん」であることを読者は知らされた。
作者の赤川次郎は、彼の風貌をこう説明している。

ーーノッポで、ひょろりと長い体に、丸い童顔が乗っかっている。長い足を持て余すような歩き方をするのが、何となくキリンを連想させてユーモラスである。ちょっと撫で肩で、目も鼻も丸くできている温和な顔と合わせて、優しい女性的な印象を与える。

もっとも、「お嬢さん」と呼ばれる理由はこの風貌ではない。彼は血を見るのが大嫌いで、貧血を起こしそうになるほどなのである。
「何言ってるの、男性よりも女性のほうが血には強いんだよ」という反論もあるかとは思うが、ご勘弁願いたい。なにしろ義太郎が読者の前に初めて登場したのは1978年、今から34年も前のことだ。そのころは男とは強いもので、小説やドラマの中の刑事はマッチョな男がなるもの、という通念が支配的だったのである。そんなところに背ばっかり高くて頼りない「お嬢さん」刑事が現れたものだから、とても斬新な感じがしたのだ。だって1978年といえば「太陽にほえろ」だって全盛期。ひげ面のロッキー刑事(木之元亮)が画面を駆け回っていたころである。
同じノッポの松田優作は「大都会Part2」に出演していたしな。おお、石原プロ製作刑事ドラマの最高傑作じゃないか。
『三毛猫ホームズの推理』では、義太郎には苦手なものがもう1つあると紹介されている。何なのかは、作中の台詞を引用するので義太郎本人に語ってもらおう。

「あの、女子大といいますと……学生は女ばかりでしょうか?」
「女子大に男が入学したって話はまだ聞いとらん」
 片山の顔がまた青くなった。信号並みによく色が変わるのだ。

「警視……申し訳ありませんが、この仕事は誰か他の者に……」
「どうしてだ?」
「はあ……僕は女性が大変苦手で……女性が大勢集まっている所へ近づくと頭痛と目まいがして、そのうち吐き気を催します。ときにはジンマシンが出ることも……」

たいへんな刑事がいたものである。
警視に怒鳴りつけられて泣く泣く義太郎は女の園に出かけていくことになる。そこで出会ったのが、事件の関係者の1人が飼っていた三毛猫のホームズだ。「背はほとんど茶と黒ばかり、腹のほうが白で、前肢は右が真っ黒、左は真っ白だった。鼻筋が真っ直ぐ通ったきりっとした顔立ち、ヒゲが若々しくピンと立っていて、顔はほぼ正確に、白、黒、茶色に三等分されていた」と描写されている(これとそっくり同じ配色の猫を連れてくるのは難しいだろうから、ドラマではどんな猫がホームズ役を務めるのか観察してください)。

この猫がなんだかんだあって、最後には義太郎の家にやってくることになる。彼は6畳と4畳半のアパートに、7歳下の妹、晴美と同居している。そこにホームズが加わって、女2、男1の生活が始まるのである。あ、言い忘れましたが三毛猫のホームズは、イギリス生まれの名探偵とは違ってレディです。この3人暮らしの形はシリーズが何年経っても変わらない。アパートも相変わらず前時代の遺物みたいな老朽建築で、最近では近所でも「あのボロアパート」で通るくらいになっているらしい。

妹の晴美役は大政絢、ホームズのほうは未確認だが、どうやら人間の形に化身するらしい。それを演じるのがマツコ・デラックスらしい。あの口調でホームズがしゃべるのか! えーと、たぶんこれがドラマ版と小説の最大の違いで、原作ではホームズはしゃべりません。いや、しゃべるけど「ニャア」としか言わないのだ。義太郎が捜査に行き詰ったとき、あるいは片山兄妹に危機が迫ったとき、そうした節目節目でほホームズは不思議な動きをする。そのお告げのような行動が、しばしば謎解きのための重要なヒントにもなるのである。猫という動物の神秘的な側面が、原作では魅力的に表現されている。この辺がマツコ・デラックスを起用した演出でどう活かされるか、注目しておきたい。
あともう1つの大きな変更点は、義太郎の兄としてドラマ版のオリジナル・キャラクター、片山ヒロシが登場することか。藤木直人演じるこの人物がどういう風にストーリーに絡むのかはまったくわからない。気弱で刑事を辞めることばかり考えているという義太郎との対比がおもしろい。

別のところでも書いたが、過去に片山義太郎を演じた役者は4人いる。石立鉄男、三浦洋一、陣内孝則、原田龍二だ。石立と三浦はもうお亡くなりになってしまいましたね。
10代の方は石立鉄男なんて知らないだろう。20代でも怪しいかな? 30代くらいになってようやく「ワカメラーメン」のコマーシャルなどに登場していた姿を記憶しているぐらいだと思う。ワカメみたいなごわごわの天然パーマで「お前はどこのワカメじゃ?」とカップの中のワカメに語りかける、あのCMである。「えー、石立鉄男?」と言われるかもしれないが、彼はもともと青春ドラマのスターだったのである。代表作は、高校教師と女子高生の夫婦が、自分たちが結婚しているということを隠しながら学園生活を送るコメディ「おくさまは18歳」(1970年。奥様役は若き日の岡崎友紀)、亡くなった姉の娘・チィ坊(演じるのは杉田かおる)を引き取って2人暮らしをする「パパと呼ばないで」(1972年)の2作でしょう。あんな鬼瓦みたいな顔なのに、この2作の石立は魅力的だったのだ。土曜ワイド劇場で1979年に〈三毛猫ホームズ〉がドラマ化されたとき、主演が石立だと聞いて、納得しなかった者はいなかったのではないか。しかも原作と違って、ヒロイン役は妹ではなく(晴美は一応登場する)恋人の坂口良子であった。70年代の坂口良子は本当に可愛かったのです、って全然片山刑事女嫌いじゃないじゃん!
次の三浦洋一版を私は見ていない。背が高いので選ばれたのかしらん。陣内孝則版は土曜ワイド劇場20周年記念企画ということで2作製作され、晴美役は第1作の「三毛猫ホームズの推理」が葉月里緒菜、第2作が宮沢りえ、監督はあの大林宣彦という豪華版だ。2作目の「三毛猫ホームズの黄昏ホテル」は単館ながら劇場公開もされたと記憶している。えーと、陣内孝則はいつものコメディ演技でした。
最後の原田龍二版は厳密に言うと主役が義太郎ではない。DVD化もされているが、正式タイトルは『モーニング娘。サスペンスドラマスペシャル 「三毛猫ホームズの犯罪学講座」/「おれがあいつであいつがおれで」』、つまりモーニング娘。ありきのミニドラマの原作として〈三毛猫ホームズ〉が選ばれたわけである。この他にオリジナルビデオアニメ「三毛猫ホームズの幽霊城主」があり、関俊彦が義太郎の声を当てている。
こうして見てみると、そのときどきで喜劇を演じられる大人の俳優、という人選が行われてきたことがわかる。相葉雅紀版片山義太郎は、公式サイトを見ると「女性恐怖症、高所恐怖症、幽霊恐怖症、人間としてのあらゆる弱点を兼ね備えた」駄目人間という設定になっているようだ。小説版の義太郎の名誉のために一言添えておくと、彼が「お嬢さん」だったのは最初のころだけで、最近作ではそれほど気弱なところも見せないようになっているのだが、まあ、それはいい。ドラマ用にデフォルメされた義太郎を相葉がどう演じるのか、お手並み拝見といきましょう。私見では、原作のイメージにもっとも合った片山義太郎になるのではないかという気がする。赤川次郎ファンも期待して待とう。
 以上です、キャップ!(70年代風のまとめ)
(杉江松恋)