(前編はこちら)
――9人の研究生を全員新人。しかも、声優事務所の新人でもなく、AKB48グループの子たちの中から選ぶというのは、かなりのギャンブルだったと思うのですが。
河森 ギャンブルも良いところですよね(笑)。声優というのは、かなりの特殊技能で。声の演技って、ものすごく難しいものですから。30年前の「(超時空要塞)マクロス」から、歌手兼新人声優1人を発掘するってことは、何度もやってきましたけど……。一度に9人なんて、やったことないし。ただ、去年の6月に選抜総選挙を初めて生で見て。こんなにも真っ正面から、ガチで体当たりでやっている子たちがいるのに、主役になる9人を外から起用したら、この物語のコンセプト自体が成立しないと、すごく思ったんですよね。それで、総選挙の帰りにミーティングしながら、「これは、もう彼女たちで描くしかない……」って。
――追い込まれ気味の決断だったのですね(笑)。第1次オーディションは、録音した音源で選考するテープオーディションだったそうですが。
河森 10月にテープオーディションを行いましたが、それまでは眠れない日々でしたね。こちらからは、声優志望の子に声をかけて下さいとオーダーしたんですけど、AKB48グループの方から、「ウチはやるならガチなので、全員で」と言われまして。でも、時間の無い中だったので、握手会の会場の裏に車が止まってて、(メンバーは)その中で突然に紙を渡されて「はい、これ読んで」みたいな状況だったんです(笑)。
――集まったオーディションテープを聴いての印象は?
河森 メンバーの中にアニメファンがいるという話は聞いてたけど、これは本当にいるなと。ただ、中にはアニメファン過ぎて、あまりにもアニメ風の喋り方をしている子もいて。そうすると、わざわざオーディションをやって、(アニメ業界の)外から選ぶ意味がない。そういう子は、上手くても、わざと外したりはしました。
――全体的にもレベルは高かったのですか?
河森 急に言われて、その場でやったにしては勘が良いなと感じる子もけっこういて。それから、一人一人、いろんな工夫をして、自分なりの個性を出そうと、ちゃんと考えている感じが伝わってくるんですよ。この自主性や勘の良さは何だろうと考えて、気づいたのですが。
――MCやバラエティは分かるのですが、握手会でもですか?
河森 多いメンバーだと、1日に2000人とかと握手するらしいのですが。冷静に考えてみたら、彼女たちは、たった1日で2000人に対応して、相手が求めていることを即座に返すという訓練を受けているんですよね。そんな集団は、この世の中に、ほぼいない。例えば、売店の店員などで多くの人に対応することはあっても、そこまで濃いコミュニケーションは求められないじゃないですか。でも、AKB48グループの子たちは、一番濃密なファンからの応援やラブコールに対して、数秒で答えるっていう訓練を1日に2000人、それを月に何回もやってる。
――しかも、ラブコールという対応の難しいものに、ただ答えるのではなく、ベストのリアクションやコメントなどを返すわけですね。
河森 そうそう。瞬時に判断して、その時の言葉や表情、握手の仕方なども考える。それを2000人もやってたら鍛えられますよ。でも、握手会という場で鍛えられてるいるんだ、みたいな論評をあまり見たことないんですよね。みんな、そこは見逃しているんじゃないかな。
――なるほど、握手会にそんな効果が。選ばれた30人が参加した2次オーディションは、公開オーディションでしたが、その印象も教えて下さい。
河森 公開オーディションでは、見ていて分かるくらいガタガタ震えてる子もいたんですよね。普段からステージには上がっているのに、なぜ、そんなに震えているかというと、本気で声優になりたいから。このチャンスしかないと思ってるんです。でも、そんな状態でも台詞はちゃんと言える。あのプレッシャーの中で、力を発揮できるって、本当にすごい。あと、公開オーディションの段階で、すでに1次オーディションより上手くなってるんですよね。
――その成長力もすごいですね。
河森 公開オーディションで9人を選んで、さらに配役オーディションをしたんですけど。その時も、ちょっと指示を出すと急激に変わるんです。特に、(本宮凪沙役の)岩田華怜さんは変わる速度が尋常じゃない。
――どんな風にですか?
河森 テープを聴いた時から、何か印象に残るところはあったんですけど、声がものすごく暗くて。こんなにも暗いと、明るい役とかは無理だと思ったんですが、捨てがたい味はあるし、当時まだ(キャラと同じ)研究生だったし、1次は残しておこうかなってくらいだったんです。それが2次になったら、前よりもちょっと明るく喋れてて。本人に会って話を聞くと、普段から温度が低い子で、あんまりキャーキャー騒がないらしいんですね。でも、アフレコでリテイクを繰り返す度にテンションを上げていけるし。感情芝居とかも1話ごとにどんどん変わる。というか、1話の間で変わっていっちゃう。岩田さん以外もそうですが、あんな速さで変わっていく子たちは見たことなかったです。
――僕も、研究生メンバーの芝居にすごく驚きました。特に一条友歌役の佐藤亜美菜さんと、東雲彼方役の石田晴香さんは、本当に上手いなと。そのほかの研究生のキャスティングで面白いなと思ったのが、渡辺麻友さん。
河森 本人は喜んでましたよ。(geogle+で)ファンの人から、「まゆゆは、この先、腕からミサイルやビームが出るようになるんですか」って聞かれて、「はい」って答えたそうです。さすがよく分かってる(笑)。
――未来の自分が、ロボットでも良いんですね(笑)。
河森 いや、ロボットだとは言ってないんです。あれは00グループにおける重要企業秘密なので、突っ込んじゃいけないところ。手からビームとかを出してるのを見た後、「まゆゆさんそれって?」と聞いても、スルーしてどっかへ行っちゃうみたいな(笑)。
――ますます気になります(笑)。話は変わるのですが、ライブシーンについても教えて下さい。「マクロスF」などと同じく、この作品でもライブシーンは注目ポイントだと思うのですが。
河森 正確には、CGと手描き作画のハイブリッドですね。「マクロスF」の場合だと、(アイドルは)多くてもシェリルとランカの2人。大抵は1人でソロを歌ってるという前提だったので、作画中心でも描けるんですけど。「AKB0048」の場合、16人とかにもなるので。これを全部手描きで作画してたら、他のシーンに力を注げなくなる。それでは本末転倒なんですよ。あくまでも、描きたいのは心理ドラマなので。ドラマパートの方の作画力もちゃんと温存するためのCGなんです。それから、カメラワークの自由度は、デジタルの方があるんですよ。観客席から一気にステージに近づくとか。
――なるほど。
河森 今は、実際のライブでもクレーン撮影が主流になってるから、(カメラが)客席すれすれを飛んでいったりとかする映像に、みんな見慣れちゃってるので。もっとダイナミックに見せないと駄目なんです。まあ、純粋にアニメファンのみに向けた作品であれば、手描きで頑張ってるのを見てもらうのも手なんですけど。今回は、より広い層にも向けているので。カメラワークやフォーメ―ション中心のところはデジタルでやって。表情とか決めポーズを見せる時は作画でやる。お互いの良さを生かしていこうというのが、ライブシーンのポイントですね。
――あと、僕は1話に出てきた1輪自転車などのメカニックや、絵本のような世界観のアキバスターなどの美術も非常に好きなんです。メカニックデザインのブリュネ・スタニスラスさんと、美術デザインのロマン・トマさん、ルガル・ヤンさんは、皆さんフランス出身の方ですよね。どんな狙いがあっての起用でしょうか?
河森 「バスカッシュ」の頃から一緒に仕事をしてるんですけど、非常にセンスが良いんですよね。日本人にはない視点が面白い。それでいて、ジャパニメーションが凄く好きなメンバーなので、日本のアニメともフィットできる。彼らの異質さと、センスの良さがすごく欲しかったんです。あと、スケール感もすごく良いし、頼もしいスタッフですね。
――独特の世界観を作りだしてますよね。では、最後の質問になるのですが……。7月22日(日)から各局で放送されていく、最終回の注目ポイントを教えてください。
河森 それぞれのキャラクターのドラマもさらに加速していく。1人1人のドラマを見せながら、それが集約していく形になっていきます。
――ファンの予想の裏を行くのが河森作品だと思っているので、そのあたりも期待しています。
河森 いや、変な言い方ですけど。裏切るのは「アクエリオンEVOL」でさんざんやったので。「AKB0048」はド直球。ストライク過ぎて、予想を外すかもしれませんね(笑)。
――それは、河森アニメのファン以外にも、広く楽しんで欲しいからですか?
河森 そうですね。それと、AKB48メンバーの挑んでいるものが、あまりにもガチでストレートだから、です。この時代にこんなストレートな女の子たちを見ると思わなかった。
――AKB48のアニメのを企画を考え始めた時は、このような作品になるとは思ってもなかったですか?
河森 取材をする前は、もう少し襲名メンバー中心の話だったし、襲名メンバーのエキスパート的な力を使って。スパイアクションとまでは言わないけど、芸能弾圧と戦う側面、あるいは、そこをくぐり抜けてライブをやる側面の方が強かったんです。でも、今は直球で少女たちの青春物語。「テーマは、汗と涙の物語です、以上」って感じで(笑)。ただ、その汗と涙がどれほどのものになるか……。みなさんも、これから実感していくことになるでしょう(笑)。
(丸本大輔)