「映画プリキュアドリームスターズ!」が、2017年3月18日から公開されている。
2010年以降、長年プリキュアのエンディングの3DCG制作に携わってきた監督の宮本浩史さんと、CGプロデューサーの野島淳志さんへのインタビュー。
後編では、3DCGを生かした作品作りや今後の展望を詳しく聞いた。

キャラクターの個性や世代交代への思いを詳しく聞いた前編はこちら

こだわりの水の表現、イメージは攻殻機動隊


「映画プリキュアドリームスターズ!」ここまで画面彩度を下げた女児向けアニメはたぶん今までなかった
約30分の3DCG映像、表情や動き、色合いなど見どころが満載!
(c)2017 プリキュアドリームスターズ!製作委員会

──「映画プリキュアドリームスターズ!」では、3DCGを使った長編映画の制作に挑戦しています。ここを見てほしい! という場面を教えてください。

宮本 クライマックス近くで、雨が降ってからシズク復活の場面が1番見ていただきたいです。おそらく、これまで女児向けアニメではやってこなかったであろうことをしているので。

──女児向けアニメではやってこなかったこととは?

宮本 雨が降っているシーンが特にわかりやすいですが、画面全体の色はサクラの心情を表しています。雨のシーンは、サクラのテンションが落ちている。
だから、モノクロまではいかないけど相当画面の彩度を落としています。

──確かに、ブルー調のグレーというか……全体の色味が抑えられていると感じました。

宮本 ここまで画面全体の彩度を下げた女児向けアニメって、たぶん今までなかったんじゃないでしょうか。さらに、そこから転換しての夕陽のシーンなど、色々な場面でカラーコントロールによってキャラクターの心情を表しています。表現としてはかなり攻めることができました。
「映画プリキュアドリームスターズ!」ここまで画面彩度を下げた女児向けアニメはたぶん今までなかった
サクラの心情に寄り添った情緒的な映像が美しい。
(c)2017 プリキュアドリームスターズ!製作委員会

野島 その他だと、水の表現は最後の最後までこだわりました。


──水の上をサクラとシズクが走る場面ですね! 

野島 セルの作画スタッフからも「水のシーンがすごいね」って言ってもらえるくらいの表現になりました。

宮本 あれは、実写っぽい水を作ればいいかというとそうではない。だから、かなり色んな調整をした上で美しく見えるように取り組んでいます。実写的でもありつつ、絵画的でもありつつ、幻想的な……。

──本当に美しい水のシーンでした。参考にした作品やイメージはありましたか。


宮本 具体的な作品名を出しても大丈夫かな? サクラとシズクが鳥居の連なる海面を走る場面がありますよね。あそこのイメージは、押井守監督の映画「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」(1995年)でした。主人公の草薙素子が水の上で戦うシーンの、見ていて小気味良い水の動きはちょっと意識していました。

──意外な作品が。

野島 作品のテイストは全く違うし、絶対にわからないですよね(笑)。でも、やっぱりクリエイターは常に良い表現を吸収して自分の作るものに生かしたいという目を持っていると思います。


「これが最後」という覚悟が全力を引き出す


「映画プリキュアドリームスターズ!」ここまで画面彩度を下げた女児向けアニメはたぶん今までなかった
3DCGだからこそ迫力が出せる構図に引き込まれた。
(c)2017 プリキュアドリームスターズ!製作委員会

──長編映画を作るにあたっての新しい技術を教えてください。

宮本 うーん。今回に関しては、むしろそれが少ないと思います。ドリームスターズは、ここ7~8年積み上げてきたプリキュアCGの集大成になりましたから。

──宮本監督は「ハートキャッチプリキュア!」(2010年)のCGモデリングからプリキュアに参加しています。

宮本 2012年の「スマイルプリキュア!」ではエンディングディレクターも務めました。そのときは、キャラクター表現の基礎を徹底的に固めました。
そのあと「ハピネスチャージプリキュア!」(2014年)では表情をさらに盛り込んで作り込みましたし、「Go!プリンセスプリキュア」(2015年)のときはライティング処理を徹底的にこだわりました。そのときにできる精一杯の表現を、作品につぎ込んできたと思います。

──そして、2015年には中編映画「プリキュアとレフィのワンダーナイト!」。

宮本 レフィはまだまだ20分の実験的な映像でしたけどね。でも、レフィが1つの作品として評価してもらえたことで今回に繋がった。今後、さらに表現の幅も広げていくつもりではあるのですが、一旦はドリームスターズで今までやってきたことをまとめて形にできたかな。


──レフィが公開されたときのインタビューで「3DCGで長編映画を作るならば、技術的に省略案を考えなければいけない」とありました。今回、どんな工夫がありましたか。

野島 効率化をはかる面では、色々やってみました。

宮本 今まで積み重ねてきたものを、いかに効率よく少ない手数で作りあげていけるかに取り組んでいます。効率化とか省略案と言うと手を抜いているように聞こえるかもしれませんが、そうではありません。表現を広げるための工夫だと思ってもらえると嬉しいです。
「映画プリキュアドリームスターズ!」ここまで画面彩度を下げた女児向けアニメはたぶん今までなかった
総勢12人のプリキュアとサクラが走るシーン。それぞれの動きに個性が出ていた。
(c)2017 プリキュアドリームスターズ!製作委員会

──あ! 省略といえば、今回は長いサブタイトルがついていませんね。

宮本 まあプリキュア映画にとって1つの転機ということで、サブタイトルはなしでいこうという話になりました。

野島 次はサブタイトルがつくかもしれませんが。

──おお! もう次が決まっているんですか?

宮本 いや、今はまだ全く聞いていないです。今回でドリームスターズは終わりの可能性もありますし「ドリームスターズ!“2”」になるのかもしれないですし、来年からはまた全然違うタイトルやコンセプトになるかもしれない。ただ、自分としては必ずどの案件も「これが最後だ」という覚悟で取り組んできています。もちろんまた何か機会がいただけるのであれば喜んでお受けしたいですが、レフィもドリームスターズもエンディングも、毎回「最後だ」という思いで全力をかけています。

こどもたちに驚きを。3DCGの強みを生かす作品作り


「映画プリキュアドリームスターズ!」ここまで画面彩度を下げた女児向けアニメはたぶん今までなかった
3DCGの世界に飛び込んでいくプリキュアたち。新しいチャレンジだ。
(c)2017 プリキュアドリームスターズ!製作委員会

──今回、和テイストの世界観が素敵でした。プリキュア映画では初めてのテーマですよね。

宮本 これもある意味「方向転換」の意思表示でした。今までに見たことがないプリキュアのテーマって何だろう、と考えたときに「和風」ってやったことないよねという話になって。実験的というより、これまでに見たことがないプリキュアを絶対に作らなければいけないという意気込みから出たテーマではあります。

──和風ってこどもには伝わりにくいという心配はありませんでしたか?

野島 そういう考えも最初はありました。でも、七五三や夏祭りなど、イベントごとで和に触れる機会は結構あるだろうと。

宮本 例えば「着物ドレス」を小さい女の子が着ている姿を、最近はお祭りなどで見かけるようになりました。ベースは和風ではあるけれど、ちょっとだけ和洋折衷できらびやか。そうやって融合させることで、プリキュアらしい華やかな世界が描けるだろうと勝算があっての企画でした。

──着物ドレスといえば、サクラの衣装がとっても可愛かったです。折り紙の鶴が登場するなど、実はこどもたちにも馴染みあるモチーフが盛り込まれているんですね。

宮本 そうですね。それに「映像で見てわかりやすいこと」を心がけましたから、こどもたちにもきっと伝わるとは思っています。
「映画プリキュアドリームスターズ!」ここまで画面彩度を下げた女児向けアニメはたぶん今までなかった
映画に登場したスイーツも可愛かった!これからのプリキュアも楽しみ。
(c)2017 プリキュアドリームスターズ!製作委員会

──宮本監督は、3DCGの最先端技術をプリキュアに用いてきました。一般映画ではなくこども向けの作品を作り続けるのはなぜでしょうか。

宮本 3DCGの仕事を依頼されるときは、革新的な技術や今までにない映像を求めてもらっていることが多いです。でも、使う技術が新しいかどうかという視点以上に、こどもの素直な反応を見たいという気持ちが個人的にはある。こどもが喜んでいる姿を見るのが嬉しいというモチベーションは、自分の精神的な軸になっています。

野島 今のこどもは、CGも特別なものではないですから。

宮本 だからこそ、こどもに対しても大人に対しても、映像で驚きを提供していきたいという気持ちは、ずっと持っています。

──今回は、キャラクターたちや映像の透明感にとても驚かされました。

宮本 透明感は、空気感や奥行きに力を入れていることで生まれているかもしれません。ここに本当に空間と奥行きがあるんだと感じさせるための工夫は、技術的にもかなり盛り込んでいます。レフィ以上に踏み込んだ点は、そこかもしれない。

──シズクの瞳の奥の方に桜の模様が見えるのも、透明感と奥行きがとてもきれいでした。

宮本 「3DCGの強み」を大切に生かして映像作品を作っていきたいと、常日頃から考えています。それはもう、プリキュアのエンディングに関わらせていただきはじめた頃から。自分は、まるでセル画の作画に見えるようなCGや、実写にしか見えないようなCGを作る方向に向かうことはきっとありません。3DCGだからこそできることと、3DCGの魅力を徹底的に追及して作品を作っていく。この姿勢は、ずっと崩さずにやっていくつもりです。

「映画プリキュアドリームスターズ!」ここまで画面彩度を下げた女児向けアニメはたぶん今までなかった
『映画プリキュアドリームスターズ!』大ヒット上映中!
(c)2017 プリキュアドリームスターズ!製作委員会


▼プロフィール▼

監督:宮本浩史(みやもと・ひろし)

1985年生まれ。兵庫県出身。
20歳で業界に入り、スクウェア・エニックス、Production I.Gを経て2010年東映アニメーション入社。 Pythonも絵コンテも書けるアニメ監督を目指す。 『プリキュアとレフィのワンダーナイト!』(『映画Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』)/監督 『Go!プリンセスプリキュア』後期エンディング/演出・CGディレクター 東京ワンピースタワーのアトラクション映像(「ルフィのエンドレスアドベンチャー」内で上映)/監督 『スマイルプリキュア!』『ハピネスチャージプリキュア!』/CGディレクター 映画『聖闘士星矢 LEGEND of SANCTUARY』/キャラクターデザイン リアルからセルルックまでジャンルを超えた作品づくりに挑戦している。より多くの子供達に愛される作品を目指し奮闘中。

CGプロデューサー:野島淳志(のじま・あつし)

1979年生まれ。栃木県出身。
『ハピネスチャージプリキュア!』以降「プリキュア」シリーズのCG製作を担当。
『プリキュアとレフィのワンダーナイト!』(『映画Go!プリンセスプリキュア Go!Go!!豪華3本立て!!!』)
『映画プリキュアオールスターズ みんなで歌う♪奇跡の魔法!』
『映画プリキュアオールスターズ 春のカーニバル♪』などで、CGプロデューサーを務める。
その他の主な担当作品は、
『ONE PIECE FILM GOLD』CGラインプロデューサーなど

(むらたえりか)