下北沢の街を舞台に、11人の劇作家によって書き下ろされる「最悪の一日」。『下北沢ダイハード』も中盤にさしかかってきた。
ここで第6話の放送前に直近3話を振り返ってみたい。
「下北沢ダイハード」テレ東深夜の狂気加速中 最先端の才能の暴走っぷりを振り返ってみた
イラスト/Morimori no moRi

松井のエッセンスを凝縮した3話


第3話「夫が女装する女」を手がけたのはサンプルの松井周。彼らの作品を語るのに欠かせないキーワードが「変態」だ。先日、松井の主宰する劇団サンプルは10周年を迎えて解体し、松井個人のユニットへと”変態”した。そのあいさつで松井は以下のように語っている。

「男が女に、女が男に、人がモノに、モノが人に『変態』していくこと、これはサンプルの一貫したテーマであり、それは今も変わりません」

松井は「夫が変装する女」でいちばんシンプルな「変態」の様相を描いた。しかしそれは決して表面的なものではない。野間口徹演じる夫の女装姿をママ友に見られまいと奮闘する麻生久美子の姿は笑えるが、彼女が夫を隠したがるのは夫への無理解ゆえだ。最後には麻生が夫の女装の理由を知り、また息子の知らない姿を見て、このひとつの家族のあり方が「変態」する。
ちなみにしゃべり方が印象的な店のウエイトレスは松井作品によく出演する女優、上田遥。最初から誰であれ分け隔てなく接するウエイトレスの許容がやさしい。

数百メートルのロードムービー


第4話「夜逃げする女」は『桐島、部活やめるってよ』の脚本を担当した喜安浩平(劇団ブルドッキングヘッドロック)。女性二人の逃亡ものといえば『テルマ&ルイーズ』が思い浮かぶが、酒井若菜の照美、緒川たまきの類という役名からもそのモチーフは見て取れる。この作品では、下北沢の街がもうひとつの主人公だ。
行き詰まった30女が走って逃げたところで、下北沢の街なかをちょっと移動した程度なのが切ない。20年来の親友である二人が決別するのは、いまはなき小田急線の踏切だ。照美の下北沢への未練は、そのまま類への未練だ。いっぽう照美が好きで大切だったからこそ、幸せに向かうのを素直に送り出せなかった類は、さいごに自ら思い出深い下北沢を旅立つ。たった40分で20年の友情と別れを鮮やかに描いてみせた。

強い女は美しい


第5話は「最高のSEXをする女」。タイトルからして興味をもたずにいられないこの回を書いたのは、ピチチ5やベッド&メイキングス、ニッポンの河川などたくさんの劇団を主宰する福原充則。この5月には関ジャニ∞の安田章大を主役に、土田世紀『俺節』の演出を手がけ、評判を呼んだ。

夏菜扮する麻子は、売れないミュージシャンの孝治(和田聰宏)をずっと支えてきた。彼のために自分はバンドを辞めて仕事に就き、同棲している家の家賃も払ってきた。しかし、テレ東の深夜番組のエンディングテーマにも選ばれ、いよいよ売れつつある孝治はこんなタイミングで若い女と浮気。怒りに震える麻子の前に、「もうひとりの麻子」が登場する。
麻子同士の相談で決まったのは「最後に一生忘れられないSEXをして、自分から捨てる」こと。麻子はそのために様々な誘惑をしかける……。

思えば、福原作品に登場する女性はいつも強い。彼が2015年に脚本、監督を務めた『愛を語れば変態ですか』では黒川芽以演じるヒロインが愛のために突っ走り、啖呵を切る。舞台『墓場、女子高生』の主人公は友人に頼らず、ひとりで大きな決断をくだす。原作はあるが『俺節』のヒロイン・テレサは、主人公の耕治の歌に必要なのは自分だ、と宣言する。

と、ここまで書いて気づいたが『最高のSEXをする女』と『俺節』、ともに音楽を志す男が漢字は違えど同じ名前なのは偶然だろうか。耕治と違って、孝治の方は最後まで本当にクズだけれど……。

第4話から一転、この物語はほとんど部屋の中で展開する。正直、これが下北沢ではなく高円寺でも成立するかもしれない。でも、朝日の中を革ジャンをひっかけぐんぐん歩いて男の視線を浴びる姿は下北沢の街によく映え、このときの麻子は孝治を誘惑していたときよりはるかに美しい。

今夜放送の第6話は「未来から来た男」。
脚本を手掛けるのはままごとの柴幸男だ。そういえば第3話で女装した夫ごしの壁には、第2話「違法風俗店の男」の中で光石研が主演する舞台のチラシとともに、ままごとの代表作「わが星」のポスターがでかでかと貼ってあったが、何かのつながりがあるのだろうか? そんな小ネタを気にしつつ、今夜の放送を楽しみに待ちたい。

(釣木文恵 イラスト/Morimori no moRi
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